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デジタルプラットフォーム規制の在り方~個人情報の取扱いと独禁法~

前回、デジタルプラットフォーム規制の在り方について、DPF取引透明化法を解説する記事を書きましたが、今回は公取委が2019年12月に公表した「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(以下「DPFガイドライン」といいます。)について扱います。

1 DPFガイドラインの概要

公取委は、DPF事業者について、「革新的なビジネスや市場を生み出し続けるイノベーションの担い手となっており、その恩恵は、中小企業を含む事業者にとっては市場へのアクセスの可能性を飛躍的に高め、消費者にとっては便益向上につながるなど,我が国の経済や社会にとって、重要な存在となっている。」とその重要性を認める反面で、「不公正な手段により個人情報等を取得又は利用することにより、消費者に不利益を与えるとともに,公正かつ自由な競争に悪影響を及ぼす場合には、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)上の問題が生じることになる。」と懸念を示しております。

そこで、DPF事業が上記懸念にケアした運用がなされるように、DPFガイドラインにてDPF事業者と消費者の関係で独禁法の優越的地位の濫用が適用されうることを示すとともに、その判断基準や濫用行為の例を示しました。

2 優越的地位の濫用の対象となりうるDPF事業者

DPF取引透明化法では、DPFが多面市場(DPFを利用する消費者と事業者の取引の場)となることを要件としていました。

他方、DPFガイドラインでは、DPF事業者の「取引の相手方」として消費者も含まれるとしているので、検索サービスやSNSの運営事業者も対象となります。この点、無償ならば「取引」でないのではという批判もありますが、公取委は、そのDPF利用のために消費者から個人情報を提供を受けることがDPF事業者にとって「経済的価値」を有するとして「取引」に該当すると判断しました。

3 優越的地位の判断基準

どのような場合に優越的地位があると判断されるのでしょうか。
ガイドラインでは、「デジタル・プラットフォーム事業者が個人情報等を提供する消費者に対して優越した地位にあるとは、消費者がデジタル・プラットフォーム事業者から不利益な取扱いを受けても、消費者が当該デジタル・プラットフォーム事業者の提供するサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合」としました。

では、上記の受け入れざるを得ないかはどのように判断するのでしょうか。公取委は以下の3つのパターンは原則として優越的地位にあると判断することを示しました。

①当該サービスと代替可能なサービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者が存在しない場合
②代替可能なサービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者が存在していたとしても当該サービスの利用をやめることが事実上困難な場合
③当該サービスにおいて、当該サービスを提供するデジタル・プラットフォーム事業者が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の取引条件を左右することができる地位にある場合

この点で注意したいのは、DPFガイドラインは、この(判断において個々の消費者との関係で判断するのではなく、「一般的な消費者にとって」どうかという観点で判断するという点です。何をもって「一般的」」というのかという点は難しいが、DPF事業者は典型的な利用者のペルソナを想定してDPF運営をしていくことが、独禁法違反の対策として求められるようになっていくのでしょう。

4 優越的地位の濫用となる行為類型の例示

DPFガイドラインでは、優越的地位の濫用となる行為類型として、個人情報の不当な取得と個人情報の不当な利用に分けて例を示しています。

(1)個人情報の不当な取得

個人情報の不当な取得として以下が例示されました。

ア  利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること。
イ  利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を取得すること。
ウ  個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を取得すること。
エ  自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対して、消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に、個人情報等その他の経済上の利益を提供させること。

上記ア、イは適正取得の観点から個人情報保護法違反にも該当するおそれがある類型となります。

(2) 個人情報の不当な利用

個人情報の不当な利用として以下が例示されました。

ア  利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を利用すること。
イ 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を利用すること。

上記アは目的外利用として、上記イは安全管理義務違反として個人情報保護法違反にも該当するおそれがある類型となります。

5 個人情報保護法と優越的地位の濫用の関係

個人情報保護法と独禁法の優越的地位の濫用の関係として、一つは個人情報保護法違反をもって濫用とする考え方があります。これは2019年に、FacebookがInstagram等を買収したことについて、その際のデータの集積方法がGDPR違反であることを独禁法違反の根拠としたケースとリンクします。

他方で、個人情報保護法違反までいかなくとも独禁法違反とされるケースも想定されます。DPFガイドラインはその(注17)で「デジタル・プラットフォーム事業者が第三者をして、消費者から取得した「個人情報以外の個人に関する情報」と他の情報を照合して個人情報とさせ、消費者に不利益を与えることを目的に当該個人情報を利用させるために、「個人情報以外の個人に関する情報」を当該第三者に提供した場合等は、優越的地位の濫用として問題となる。」としており、これはリクナビ事件で個人情報保護法違反でないが法の趣旨の潜脱とされたケースを明らかに意識していると思われます。

なお、個人情報保護法との関係において、DPFガイドラインでは、「他の法令に照らして違反となる場合、当該他の法令に基づく規制が妨げられることはない。」とそれぞれ独立することを示しております。

この点、事業者からすれば個別事案において保護法と独禁法が違う方向性を向くことがあり得ますので、個人情報の取り扱いに関する規制であることや独禁法は法令の抽象度が高いことからしますと、個人情報保護法を優先していただきたいというのが正直なところです。

6 最後に

来年春頃に施行を予定されるDPF取引透明化法、DPFガイドライン、改正個人情報保護法案とDPFの運営について様々な指針やルールが林立している状況となっています。DPF事業者は、その運営に当たって一層高いモラルを求められること、またしばらくの間は行政の目が光っていることを意識しておくことが求められます。







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