見出し画像

法務と人事が知っておくべき「人事データ利活用原則」

昨年のリクナビ事件以来、個人情報の取扱いやデータ利活用が法務部門においても注目が高まっておりますところ、一般財団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会が「人事データ利活用原則」を2020年3月に出されました。こちら取り寄せて拝読&セミナー動画視聴しましたところ示唆に富んでおりましたので、本稿で紹介いたします。

1 一般財団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会について

ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会はそのHPで自分たちについて以下のように説明しています。

一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会は、人材データを分析・可視化して人と経営の未来に活かすピープルアナリティクスと、それを牽引するHRテクノロジーの活用を「産・学・官」で普及・推進する団体です。
当協会は、人を活かす技術としてのピープルアナリティクスとそれを支援するHRテクノロジーの普及を加速させるため、両分野を研究領域として経営・人事・分析・技術の専門家が実践的な課題を通じて深め、人事データを死蔵することなく個人と組織の未来のために活かし経営を変革していくことを目的としています。

この協会は、理事にAIと人権や個人情報保護法の分野で権威となりつつある山本龍彦先生を筆頭に、アドバイザーに大島弁護士、研究員に白石弁護士と行政機関に出向されていた先生方がいらっしゃいますので、この協会の見解は法務としても無視するわけにはいかないものだろうなと思っております。

2  人事データ利活用の9原則

ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会は人事データ利活用原則として以下の9つを上げております。

①データ利活用による効用最大化の原則
②目的明確化の原則
③利用制限の原則
④適正取得の原則
⑤正確性、最新性、公平性原則
⑥セキュリティ確保の原則
⑦アカウンタビリティの原則
⑧責任所在明確化の原則
⑨人間関与原則

①~⑥は適正に取得し目的の範囲内で利用しかつ安全に管理せよという個人情報保護法の領域であるのに対し、⑦~⑨はその利用について会社や役員が裁量権の逸脱・濫用や善管注意義務違反にならないようにするための原則と捉えることもできるでしょう。

データ利用というと個人情報保護法に目が行きがちですが、会社の施策でありますので、会社法や労働法といった他の法令にも気を付けなければなりません。

3 人事データ利活用原則のポイント

(1) プロファイリングへの警戒心

人事データ利活用原則は、現行の個人情報保護法(その背景となるOECD8原則)がベースになりつつも、これを超えて高い水準を求めているものと評価できます。
特に、プロファイリングを中心とした利用方法について「個人情報に関わる人事データを活用したプロファイリングに関しては、その影響の大きさ故、従業員の権利利益の観点からデータ活用における高い倫理性が要請される。」(「人事データ利活用原則に関する考え方について」)考えに基づきという原則の説明の中で、度々プロファイリングについて言及されています。これは、データや個人情報への関心が漏洩であったものに対し、現在では「実害ある利用」に拡大してきたことを示しています。
中でも②目的明確化の原則と⑦アカウンタビリティの原則の中で「高度なプロファイリングによって、従業員等が想定しない方法でその人事データが利用される場合等には、①そもそもプロファイリングを実施しているか、②実施している場合に、いかなる種別・内容のプロファイリングを実施しているかの明示をすることが望ましい。」としています。
これを実務に落とし込むとプライバシーポリシーや就業規則に落とし込むことになったり、また労使協議の機会を設けることになったりしますので、実務上の影響が大きいところになるかと存じます。

(2) 人間関与の重要性

もう一点、特徴的な点として⑨人間関与原則があります。これは「採用決定、人事評価、懲戒処分、解雇等にプロファイリングを伴うピープル・アナリティクス又はHRテクノロジーを利用する際には、人間の関与の要否を検討しなければならない」という内容のものであり、「最終的な責任の所在としての人間の存在を明確にし、アルゴリズムのブラックボックス性による無責任なデータ活用観が回避される」ことを趣旨としたものです。
決裁権者はあくまでも人間である以上、機械のせいにすることで責任逃れができますと誰を責任を負うことがなくなり却ってAIやプログラムの発展を妨げることになりかねません。また、AIで一番恐れるべき問題としてAIによる差別が挙げられますが、差別の問題は、論理だけでなく感性的な面もあり過去にニュースになった内容でも人間が関与していれば避けられたというものも少なからずあります(※)。
AIはより良い施策の実現ツールとして活用するものであり、人間の責任逃れの道具でないという意識を浸透させることは人事や法務の責務となるでしょう。

※ビジネス+IT「誤ちを犯すAI、なぜ男性や白人を“ひいき”してしまうのか」2020年2月10日

(3)  人事データに対するパラダイムシフト

従前、多くの会社で従業員の情報は業務運営、労務管理に必要なものであり会社のものであるという発想が強かったのではないでしょうか。

人事データ利活用原則では、目的を明確化し、手法も含めアカウンタビリティを果たして、本人同意を取得することを求めています。これは従業員の理解を得て利活用施策をすることを要請しているということを意味しているしているものでしょう。
そうしますと、今後の人事データ利活用という観点からにおいては以下の観点から施策を実施するようにしなければならないものかと存じます。
・ 人事情報は会社のものでなく従業員のものである。
・ 会社にとってだけでなく従業員にとっても利益のあるWIN-WINの施策のためにデータ利活用はなされなければならない。

4 より深く学びたい方に

上記は概要と私が気になった点をまとめたサワリになりますので詳細知りたいという方は下記のサイトから解説動画付きで取得できます。
近年のプライバシー侵害に関する動向を山本先生が解説してくださっていたり解説動画も充実しており大変参考になるものでした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?