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「シン・ニホンの大きな希望は、私の小さな実生活からも生み出せる」

まず、この本の印象について、考えてみた。

ニホンの産業の状況、新しいテクノロジーの発展状況、求められる人材像とその育成法、国としてのリソース配分、そしてインフラコストについて、見事なまでに説得力のある分析がなされている。ただ、その現状だけに注目すると、悲観的な考えしか生まれてこない。しかし、この本の真骨頂は、そのあとの展開にあると思う。産業状況については「伸びしろ」、テクノロジー開発の遅れについては「ニホンの得意分野である第2第3フェーズ(開発ではなく、利活用)での可能性」、人材については「異人」、育成場面では「愛の循環」、インフラコストでは「風の谷構想」というように、限りなくポジティブな提案が続く。現状認識と、それに対するポジティブな処方箋の提示により、読み終えた後、大きな希望を抱かせてくれる。

では、なぜこのような希望を感じさせてくれたか。

まずは、この本が扱っている領域が、尋常ではないほど幅が広い。つまり、現在のニホンの状況を全体として俯瞰している。
多くの人は、産業や教育、医療などで、最善の利益は何かを各領域で考えるが、領域を超えて、ニホン全体にとって最善の利益は何か、という視点に乏しくなりがちである。第二次世界戦争時も、各官庁がそれそれの最善の利益という視点から離れず突き進んだことによって大きな惨状を招いたのは、周知のとおりである。江戸末期も、藩にとっての利益がニホンにとっての利益に一致していたわけではない。結局ニホンにとっての利益を考える人たちが、維新の推進力につながっていたのだろう。
この本には、各領域だけの最善の利益という発想は感じられない。各領域を無視しているのではなく、逆に、尋常ではない細かさで各領域を分析し、その分析をベースに、ニホンという大きなシステムに有機的につなげた処方箋を提示している。この国で乏しいと言われ続けた視点を、見事に凌駕している。畏怖の念を禁じ得ない。
現代の宇宙のロマンを語るとき、銀河やグレートウォールという広大なスケールと量子論という極小のスケールの両方が必要になるが、まさに、広大なスケールと極小のスケールのロマンを、この本から感じ取ったのは私だけだろうか?
このように感じたことにより、次の疑問が湧き上がってきた。この本は、教養としての本なのか、それとも実践としての本なのか?

単なる教養本として読了するには、あまりにももったいない。では、実践本として活用するかと問われれば、あまりにもスケールが大きく、私の小さな実生活にはそのままでは取り込めない。しかし、大きな希望を感じたのは紛れもない事実である。この希望を形にしたい、と思う気持ちも抑えがたい。したがって、読み込んでいく上で最も苦労したことは、どのような実践ができるか、私の実生活のレベルに落とし込んでいく、ということであった。
ここからは、この落とし込みについて、私なりに考えたことを書かせていただきたい。

私は、介護支援専門員といって、介護が必要な高齢者やその家族の支援をする仕事をしている。少子高齢化は、現在のニホンが直面している最も大きな課題の一つである。本の中にも書いてあるが、社会保障費、その中でも高齢者にかかる費用は莫大なものになっている。
さて、高齢者介護、あるいはシニアの生活支援、というシステムに拠って考えると、「サクセスフルエイジング」とか、「生活の質(QOL)の向上」「自立した生活」「社会保障費の削減」という目標が見えてくる。それ自体を否定するものではなく、非常に大切な目標だと思う。しかし、ニホンというさらに大きなシステムのサブシステムという考え方に拠って見てみると、「サクセスフルエイジング」など同じ言葉から、別の側面が見えてくる。つまり、我々の社会生活において、シニア層も「活用できるリソース」になりうるということである。

どういうことかというと、現在使われている社会保障費のわずか2%を、未来に投資することで、将来の国力に直結する。本では、観念や絵空事ではなく、詳細なデータを根拠に提案している。
ただし、それは「サクセスフルエイジング」や、「生活の質(QOL)の向上」「自立した生活」「生活費の切りつめ」などへの犠牲を強いるわけではない。さらにサクセスフルに、さらにQOLを向上し、さらに自立度を上げ、さらに豊かになる取り組みを加速させることによって、高齢者がリソースを消費するものではなく、未来を豊かにするリソースになるだろう。今まではできなかったことも、テクノロジーの力を使えば、できることも多くなるだろう。
幸いにも私は、ディープラーニングG検定に合格し、人工知能のコミュニティに参加している。よって、シニア層へ、社会保障費の2%を削減する事をテーマに、テクノロジーを活用するための小さな巻き込みを始めることで、もしかしたら、小さな小さな変化を生み出せるかもしれない。その小さな小さな変化の積み重ねが、もしかしたら、国全体の大きなマネジメントのサブシステムにつながるかもしれない。「愛の循環」という変数を私の小さな生活に入れ込むことで、シニアから若者へ、世代間のプレゼントを運ぶサンタクロースの一人になれるかもしれない。

大きな銀河そして小さな量子のスケールのなかの、ごくごく限られたスケールの中で生活している私だが、大きな、そして小さなスケールを認識し、そのうえで私のスケールに立ち戻ることで、未来を変える行動を起こせるかもしれない。これが、この本を通して感じた私の「希望」である。
私は、私としてこのように考えたが、読む人の立場や感性によって一人一人が未来への処方箋を描けるのだはないだろうか。そういう意味では、真剣に向き合えば、多様性に富んだ読み方ができる、とても豊かな本ではないかと思う。

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