豪快な占い師に出会った話をしよう
半年前。優しい笑顔と「すべてをぶっ壊しちゃいましょう」と話す占い師に出会った。
私は定期的に占いに行く。
時々、ある欲求が生まれるからだ。
私よりも経験があって、話を聞くのが上手くて、私をよく知らない人と話がしたい。
平たく言えば「年上の人に話を聞いてもらって、よしよしされたい」。心はいまだに5才のため、定期的にずっと話を聞いてもらいたい期が来る。
飲み屋で知らない人と話をすれば?とは思う。そもそも、酒が一滴も飲めない素面の人間が、酔っ払いに話しかけるのはまぁまぁなギャンブルだ。
そのため、占い師のもとへ行く事がある。私自身、スピリチュアルなことは好きだ。心霊やオカルト、都市伝説と同じ感覚で楽しんでいる。
半年前に、占い師のもとへ行く機会があった。
近くのイオンにある占い師のもとへ、今年の運勢を占ってもらうためだ。
その占い師が、まぁ豪快な人だった。
手相と誕生日診断をしてもらった。20分で2,200円だ。
占い師から言われたのは以下の通りだ。
「貴方は人の上に立つタイプ」
「正しい夫と書いて正夫。貴方は、お金をガンガン稼ぐタイプね」
「(恋愛運について)あなたはねぇ、高嶺の花なの。(あなたに)声をかけたくても、かけられない人の方が多いはず」
良い事ばかり言ってくれる。
まぁ、客商売だしなと思いながら聞き流していた。その中で、聞き流せない言葉があった。
「現状打破しちゃいましょ。もうね、全てをぶっ壊しましょう」
穏やかな笑顔に似合わない、豪快な言葉だ。面食らい、最初は飲み込めなかった。
目を丸くした私に、笑顔を崩さず占い師は話し始めた。
「貴方はね。もっと活躍が出来る。編集者の話もそうだけど、なんで断っちゃったの?」
Webメディアでお世話になっていたころ、編集者育成講座があった。私は、受けていない。
どうにもならない障害があった。
「私、発達障害持ちなんです」
ポロっと、こぼれて落ちた。
発達障害。ADHDとASD。
心のどこかに、「障害持ちが、出世なんてできるわけがない」「障害を持っているんだから、それ相応の人生を生きよう」と思っていた。
どうしたって、『普通』のレールから外れてしまっている。
どうやったって、『普通』には戻れない。
『普通』を望めない。のであれば、慎ましく暮らそうと思っていた。
診断を受けたその日から、私は『普通』を諦めた。
そんな心情を察したのか、占い師は上げていた眉と口角を平行にした。怒ったような、真剣な顔だ。
「発達障害がある?それは貴方の本質じゃない。そこじゃない。貴方の本質は、別にある。障害は関係ない」
バッサリと、私のコンプレックスを真っ二つにした。
私は恥じた。自分が「障害を持っている」を盾にしていたことに、その時気づいたからだ。
障害があるから、働けない。
障害があるから、恋愛が出来ない。
障害があるから、『普通』は望めない。
同時に、心が軽くなった。
(あぁ、障害は”後付け”の理由だ)
後付けだからこそ、できない理由にはならない。
障害があっても、働ける。
障害があっても、恋愛が出来る。
この世のなかに、『普通』は存在しない。
自分で作った『普通』に縛り付けられていた。
2023年1月に祖父が亡くなったことも含めて、ネガティブな感情が多い事を話した。
穏やかな笑顔に戻った占い師。
「ネガティブな感情は、全部置いていきましょう。おじいさんが亡くなって悲しい気持ちもありますが、その気持ちだけ置いていきましょう」
優しく、諭すよう、小さい子に話すような口調だった。
時間をはるかにオーバーし、40分ほど話をしていた。それでも、占い師は20分2,200円で会計を通してくれた。
「私、水金にいるから」、と宣伝を受けて私は帰った。
半年前。優しい笑顔と「すべてをぶっ壊しちゃいましょう」と話す占い師に出会った。
そこから、私の人生は確かに変わっていった。
人と連絡を取る事への抵抗感が少しだけ消えた。いまだに、「相手は嫌だと思っているかも」と思う。それは「相手の二次創作」と考えて連絡を取ることにした。
ダイエットをし始めた。運動が続くなんて、思ってなかった。運動が嫌いな人間だったのに。
メイクをし始めた。「何が楽しいのか」と思っていたのに、とても楽しい。こんなに楽しいなら、前からやっていればよかったと後悔した。
ファッションの研究を再開した。一年間、ファッション誌を買っていた時があった。ファッション誌を抱えて通る帰り道は、いつもより楽しく煌めいていた。
好きな人が出来た。周りに嫉妬したり、相手の反応で一喜一憂したり脈がないと呆然としたり。泣くこともあるが、周りの人にアドバイスを求めながらなんとか頑張っています。
障害を言い換えることにした。どうやっても迷惑をかけてしまう事がある。なら、明るい言い方にしよう。
自分で作った、誰かに影響を受けた『普通』に従って生きていくのは、楽だ。
考えなくていいから。
思考停止でいいから。
「現状打破しましょう。全てを、ぶっ壊しちゃいましょう」
その言葉で、道が切り開けた気がする。
ありがとうございます。
おかげで、なんとか壊して生きています。
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