見出し画像

【1Q96】 #言葉を宿したモノたち

 テーブルに触れた。ゆっくりと横たわる僕は表情もなくその空間に耳を澄ました。耳慣れた音が聞こえる。それは一定のリズムを持って途切れることなく、夏の命を繋いだ蝉の声のように穏やかに流れてくる。誰かが止めなくてはならない。そしてその誰かは僕ではない。

 「もし僕がいなかったら?そんなの自意識過剰だって言うのはやめて欲しいんだ。もちろん僕は万能じゃない。そんなことは知ってる。でもビールを頼んでグラスも瓶もなく液体のビールだけ持ってこられたら困るだろう?そんなのヘビー・デューティーすぎる。このピーナッツだってそうさ。殻があるからこそナッツを守ることができるんだ。」

 きみの耳はまるで独立した生き物のように美しかった。生まれたての蚕のような指が僕にかかり、僕はその耳にそっとキスをした。

 「あなたのそういったところが嫌い?ねぇ、聞いてほしい。僕の存在はリアルで、それは春先の雛をまもるために、冬の間に枯れた小枝でつくった雀の巣のように必要なものなんだ。メタファーなんかじゃない。
雑誌なんかで色々言われるのは僕にとっても正直辛い。主張が強いんじゃないか、幅を利かせすぎじゃないか。まるで僕という存在を否定するような言葉が缶詰工場のイワシのように大量に向きを揃えて流れるんだ。馬鹿げてる。僕はトレンディじゃないんだ。そうやって揚げたてのフライド・ポテトをつまみながら情報を得ようものなら、あっという間に油と塩でダメになるはずなのにね。」

 「いったいどうしたっていうのよ ?」彼女は言った。

 耳。やれやれ。その言葉はいつも僕にレーゾンデートルを思い出させる。そして君の美しい君の耳を思うと苦しくなる。「かっこう」声がこだました。

 「ねぇ、もう一本ビールを飲む間にもう一度ゆっくり考えてほしい。食パンの耳だって僕だって、そんなに悪い奴じゃない。」


 ねぇ、僕は何のために存在している?いったい僕は誰なんだろう?


(800字)





こちらの企画に参加しているよ!

【僕】が何なのか、コメント欄で教えてね!答えは言わないけど!

ボケてもokだよ!答えを1コメで当ててもかまわないよ!












本日も【スナック・クリオネ】にお越しいただいき、ありがとうございます。 席料、乾き物、氷、水道水、全て有料でございます(うふふッ) またのご来店、お待ちしております。