ウェブアクセシビリティ対応って何?(前編)
バーンワークス株式会社の加藤です。今回のショートコラムは、ウェブアクセシビリティ対応の初歩の初歩、基礎的な部分について簡単にお話しします。
今回お話しする内容は大きく下記の3点です。
ウェブアクセシビリティって何?
ウェブアクセシビリティに取り組むと具体的にどんなメリットがあるの?
ウェブアクセシビリティ対応ってどういうこと?
ショートコラムと言いながら長くなってしまったため、前後編の2つに分けております。
「3.ウェブアクセシビリティ対応ってどういうこと?」については、後編でお話ししますのでそちらをご覧ください。
ウェブアクセシビリティって何?
まず最初に、「ウェブアクセシビリティ」ってなんなの?という部分についておさらいします。
最初に言葉の定義を確認しておきますが、日本産業規格、「JIS Z 8071:2017 規格におけるアクセシビリティ配慮のための指針」における定義(厳密にはISO 26800、ISO/TR 9241-100、およびISO/TR 22411における定義を基に、JIS Z 8071:2017が日本語で定義している)がわかりやすいとと思いますので紹介しておきましょう。
「JIS Z 8071:2017」の中で、「アクセシビリティ」という言葉は次のように説明されています。
「ウェブアクセシビリティ」とは、この「アクセシビリティ」の考え方を「ウェブコンテンツ」、つまりウェブページやウェブアプリケーションを対象として適用するものです。
この「アクセシビリティ」の定義を基に、少し言い方を変えて、わかりやすく「ウェブアクセシビリティ」とは何か?を説明するなら、次のように説明できると思われます(これはあくまで私が説明する際に用いている個人的な定義です)。
『多様な利用者が、さまざまなデバイスを用いてウェブコンテンツを利用する状況において、すべての利用者が等しく情報を取得し、機能を利用できる程度』
ここで重要なポイントは、「すべての利用者が」という点です。
アクセシビリティは特定の利用者、例えば障害者の方などに向けて、何か特別なことを「やってあげるのだ」という誤解をされている方がたまにいらっしゃいます。
しかし、先に紹介した「JIS Z 8071:2017」における定義からもわかるとおり、アクセシビリティとは、「特性や能力が異なる多くの利用者」、つまりこの部分をシンプルに言い換えれば、「すべての利用者」を対象とした考え方です。
すべての利用者を対象としたものですから、それはつまり、ウェブコンテンツにおいて、アクセシビリティは最も基本的な要件とも言えるわけです。
ウェブアクセシビリティに取り組むと具体的にどんなメリットがあるの?
ウェブアクセシビリティのメリット、あるいはどのような影響があるのかについて考える際、先ほどお話しした「アクセシビリティは障害を持つ利用者のために特別に取り組むもの」という誤解をしたままだと、狭い範囲での思考になりがちです。
要するに、
利用者のうち、障害者って何割くらいいるの?
障害者(など、一部の利用者)のために特別な対応をして売上はどの程度上がるの?費用対効果は?
などといった話になってしまいがちだということですね。
当然ながらこのような考え方はウェブアクセシビリティに取り組む上で本質的ではありません。今一度、ウェブアクセシビリティはすべての利用者のために取り組むものという点を理解してください。
すると、ウェブアクセシビリティには大きく、次のようなメリットがあることが見えてきます。
ウェブコンテンツがもつ情報、デザインや機能が、より多くの利用者に届くようになる、より多くの利用者にとって使いやすくなる。
ウェブコンテンツが「マシンリーダブル」になる。日本語で言うなら、機械可読性が高まる。
1つめのメリットはイメージしやすいかと思います。
つまり、今まで様々な理由、例えば
文字が小さすぎて、色が薄すぎて読めない、読みにくい
色の違いが認識できず情報が理解できない
ボタンが小さすぎて操作できない、押しにくくて途中で諦めた
そもそも検索などで見つけることができず、ウェブコンテンツにたどり着けていなかった
などの理由で、ウェブコンテンツの利用をやめていたり、とても苦労させられていたりしていた利用者の利便性を大きく向上させることが可能です。
より多くの利用者にとってウェブコンテンツの利便性が向上すれば、その満足度向上によって企業やブランドのイメージも向上しますし、コンバージョンなど、ウェブコンテンツが目的とする数値の向上も期待できます。
折角コストをかけて作ったデザインも、コンテンツも、機能も、アクセシビリティが確保されていないことで、利用者が使うのを諦めたり、途中で離脱するといった機会損失が発生していた可能性があります。
ウェブアクセシビリティに取り組むことで、それらを、より多くの利用者にとって「見やすく」「理解しやすく」「操作しやすい」ものへと向上させることが可能になります。
それは機会損失を低減するだけでなく、ウェブコンテンツの制作におけるコストパフォーマンスを向上させることにもつながるということです。
もちろん、多様性(身体的特性・閲覧環境・利用者のニーズなど)への柔軟な対応力は、ESGの観点からも、今の時代には重要なポイントとなりますし、ウェブアクセシビリティへの取り組みはこの点にも大きく関連します。
「マシンリーダブル」になることのメリット
もうひとつのメリット、『ウェブコンテンツが「マシンリーダブル」になる』という点についても説明します。
マシンリーダブルというと、なんだか小難しい話に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、簡単に言えば「ウェブコンテンツがプログラムにとって扱いやすくなる」ということです。
ウェブコンテンツがプログラムにとって扱いやすくなると何がいいの?という点なのですが、これによって様々なメリットが生まれます。例えば次のようなことが挙げられるでしょう。
プログラムがウェブコンテンツを扱いやすくなるということは、プログラムがその内容、意味、重要な箇所、文脈などを理解しやすくなるということ。
つまり、プログラムがその内容や重要な部分などを正しく処理できる可能性が高まり、内容の重み付けが正確になったり、ウェブコンテンツ同士の関係性などを見つけやすくなる。
わかりやすい点ではGoogleなどの検索エンジンがコンテンツを処理しやすくなることで、SEO(Search Engine Optimization)的なメリットが発生する可能性が高い。
Googleに限らず、全文検索システムなどにおける利便性が向上すれば、ファインダビリティ(見つけやすさ・検索性)が向上し、結果的に利用者へのリーチ確率も高まる。
例えば外国人の利用者が他言語に自動翻訳しようとした場合など、その翻訳可能範囲や精度が向上することで内容を理解可能になる。
関連して、今後益々高まるであろうAI(Artificial Intelligence)による情報収集や探索、情報の加工等への適用力が向上する。
様々な利用環境における相互利用性が高まる。
わかりやすいところだと、パソコン、タブレット、スマートフォンなど、様々なデバイスでの相互利用はもちろん、例えば、仕事をしながら音声で検索を実行、ウェブページを読み上げてもらうといった利用など、ブラウザ+αな機能を使用した利用ニーズへの対応力が確保できる。
プログラムによるサポートがしやすくなることで様々な利用者の利便性が向上。
当然ながら障害をもっていて、支援技術を使用する人たちへのメリットは大きい。
特定の障害を持っていない人でも、加齢、あるいは一時的な怪我や病気など、精神や身体的な変化によってプログラムによるサポート範囲が広がることのメリットを享受できる場合もある。
挙げようと思えば他にもあると思いますが、パッと思いつくだけでもこれだけのメリットが考えられます。
つまり、もう少しわかりやすい言い方をすると、
新規顧客へのリーチが拡大する可能性。
様々な環境での相互利用性の向上による離脱率の低下、再訪率やサイト内滞在時間、回遊率の向上が期待できる。
多様なニーズ、能力、特性をもつ利用者に対して利用しやすいウェブコンテンツが提供できる。つまり顧客満足度の向上やそれによる企業、ブランド価値の向上が期待できる。
これらを総合して、売上や問い合わせの増加など、ビジネスにプラスの影響が期待できる(ウェブコンテンツのビジネス活用が実現する)。
といった恩恵をもたらす可能性があるということです。
どうですか?ウェブアクセシビリティに取り組みたくなったのではないでしょうか?
最後に、ウェブアクセシビリティ対応とはどういうことなのか、という点を簡単に説明します。(後編に続く)
さて、今回のコラムはここまで。最後までお読みいただいてありがとうございます。もし今回の内容が少しでも参考になった、気に入っていただけた、という場合はぜひフォローしていただければ幸いです
冒頭でお伝えした通り、後編に続きます。
それでは。
バーンワークス株式会社のショートコラムは、バーンワークス株式会社 代表の加藤が、ウェブアクセシビリティやユーザビリティ、HTMLやCSSなど、フロントエンド技術に関する話題を、あまり長くならない範囲で更新していくコンテンツです。一部は、バーンワークス株式会社の公式サイトにおいて、過去に公開されたコラムなどの内容を再編集、再構成したものも含まれます。
なるべく小難しくならないように書こうと努力はしていますが、できるだけ正確な用語を使用し、公式なドキュメントを参照しつつ書こうとすると、ちょっとわかりにくい言い回しになってしまったり、リンク先が英語のドキュメントになってしまったりすることがあります。ご容赦ください。
バーンワークス株式会社について
バーンワークス株式会社は、ユーザー体験を最大化する情報デザインとウェブアクセシビリティ対応を専門分野にサービスを提供する『ウェブアクセシビリティに強いウェブサイト制作会社』です。
弊社では、より本質的な視点に立ったウェブサイトの構築、アクセシビリティ対応などの関連サービス、ウェブシステム開発などを創業以来、10年以上にわたり企業、公的機関向けに提供しています。
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書いている人について
加藤 善規(かとう よしき)
埼玉県出身(東京都生まれ埼玉育ち)。専門学校でメカトロニクスを専攻後、製造業での生産、品質管理や、全国チェーン物販店での店舗開発などに従事する傍ら、独学で学生時代から続けていた趣味が高じてIT業界に。
フリーランスによるウェブサイト制作業務等を経て、2004年より都内ウェブサイト制作会社に所属。同社取締役ウェブサイト制作部門統括。2014年、バーンワークス株式会社を設立、同社代表取締役に就任。
ウェブフロントエンド技術、およびIA(情報設計)、アクセシビリティ、ユーザビリティを主な専門分野とし、ウェブサイト制作ディレクション業務、コンサルティング業務の他、セミナー等での講演、書籍の執筆などを行っています。
好きなことはサッカー、フットサル (観戦 / プレー)、モータースポーツ観戦、インターネット、音楽鑑賞、筋トレ、ギター、腕時計鑑賞。サッカー4級審判員、ウオッチコーディネーター(上級 CWC)資格認定者。
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