海月町くらげ番地




ゆらゆらと視界が揺れてる。

いや、違うな。

目の前に海月が浮いている。


さっきまでのうだるような暑さは

どこかにいってしまった。


少し下を向きながら

いつもの街を歩いていたはずなんだけど。


ここは…、どこだろう。

水の中…、だけど息はできるし体は浮かない。


どうやら迷い混んでしまった。

…折角だから歩いてみよう。


キラキラと水面から光が差す。

夏の日差しのような鋭さはなかった。


街並みはなんだか懐かしく感じた。

来たことはないんだけれど。


のんびりと歩く。

ただ、すれ違うのは海月ばかりだった。


伸び縮みする体を見ながら

あくびをひとつした。


電柱に貼ってある求人のチラシ。

おや、住所が載っている。


「海中区海月町くらげ番地」

ふふふ、海月の町かぁ。


こんなところで暮らすのも悪くない。

だが、あちこち見渡す私は

道に浮かぶ海月に気づかなかった。


あっと、つまづいて倒れこんだ。

顔をあげるといつもの街。


あぁ、惜しいことをした。

もう少し海月町にいたかったなぁ。


立ち上がって、服についた砂を払う。

仕方ないので、私はまた歩き出した。


           「海月町くらげ番地」

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