いい漫画を読む人生が一番 ─2021/11/02
甲斐谷忍『ONE OUTS』を読んだ。
甲斐谷先生の作品がもうとにかく大好きで、入り口はやっぱり『LIAR GAME』だった。そこから『小田切響子の嘘』とか『無敵の人』とかを読み進めていくんだけど、実はこの『ONE OUTS』はまだ未読だった。
心のどこかで「あ、野球漫画?ふ~ん…」みたいなところがあって、一話も手をつけず、ここまでズルズルと生き続けてしまった人生だった。
でも読み始めてすぐ、心を掴まれた。早く読めばよかった。
沖縄でおこなわれている4球勝負の賭け野球で無敗を誇る男・渡久地東亜(とくちとーあ)。たまたまその会場にたどり着いたリカオンズ(架空の球団名)の2軍選手・中根は彼に勝負を挑むも、なぜだが打てない渡久地の打球に翻弄され敗北する。それを聞きつけた同じくリカオンズで「日本プロ野球界の雄」とまで呼ばれている児島が渡久地に勝負を挑むも…。
という内容。まぁ渡久地はこれがキッカケでプロ野球選手となる(ネタバレだが、話はここから。許して)のだけれど、そこからが見もの。まずは拝金主義のクソオーナーと「ワンアウトとったら500万、その代わり自分が1失点したら5000万支払う」という野球好きからしたらどう考えても採算合わない意味不明な契約を結ぶ。
そして万年Bクラス(リーグの下位)球団であるリカオンズでくすぶっていた選手陣をあの手この手で使い物にし、リーグ優勝を目指していく。
だが、その「あの手この手」がすごい。「勝つとはすなわち負かすこと、蹴落とすこと、つまづいたヤツを踏み潰すこと、ドブに落ちたイヌを棒で沈めること、ぱっくり開いたキズ口に塩を刷り込む事」というセリフがあるのだが、まさにこれを地でいくようなプレイをフィールド内外でみせるのだ。
「あの手この手」の内容はもう読んでもらうしかないんだけれど、悪魔のような心理的・物理的ワザを駆使する心理戦で、並み居る他チームから勝ち星をもぎとっていく。途中からは強すぎるうえに一癖も二癖もある選手がたくさん出てくる。それに真っ向から挑むのではなく、策を弄して立ち回り、勝つのだ。
それに裏打ちされているのは賭け野球で鍛えた「観察力」と勝負師としての「頭のキレ」だ。とにかく自分のワザがうまくハマったときの渡久地はかっこいい。
「勝ち残るのは決して美しいことじゃない むしろ残酷なことなんだ」
いや、まったくその通りだよな。間違いない。
もちろん渡久地以外にも様々な登場人物がいるのだが、そのどれもが魅力的。リカオンズだと彼とバッテリーを組む出口や、先程も紹介した児島、それに今井や胡桃沢など、みんなが個性的だ。
もちろん他球団の選手も魅力的な人物ばかりだ。高見、吉良、天見とか…。
とにかく甲斐谷先生は心理描写とそれに伴う人物描写の変化が上手だ。ヒリつくような場面で汗を流し始めたりすれば笑うヤツ、憤怒の表情をするヤツなど、挙げていけばきりがない。それらすべてに魂を吹き込むのは難しいと思うけど、そこがとても上手なのである。
まあ、とにかく、読んでくれ。マジで。
野球好きな人なら絶対、野球そこまで知らなくても面白いよ。ついでに『LIAR GAME』も読もう。今の『嘘喰い』みたいなデスゲームでオリジナルゲームの走りといっても過言ではない。
早いもので、もう11月となってしまいました。
早すぎじゃない?怖いんだけど。リニアモーターカーだってこんなに早く時間の流れを進んでいくことはできないと思う。タイムマシンくらい持ってこないと、これは防げない。
こうやって、あっという間に死んでいくのだろうか。いつ死ぬかわからないけれど。そもそも死ぬのが5~60年後くらいだと思っているのもエゴだ。世の中には20代で逝く人だっているのに。自分だけはそうならないなんて花から決めつけていることがおかしい。
だからって1日1日を大切に生きようとかそういう綺麗事を言うのも嫌だし、そういう思想を持ち出してくるヤツも嫌いだ。そもそも大切に生きているわけで、これ以上なにかを頑張るであるとか新たにアクションを起こすということも必要ないに決まっている。同じ、ではないけれど、いい毎日を過ごせればそれでいいのだ。日常系漫画でよくある「変わらない毎日がずっと続けばいいのに」みたいな。
でも現実じゃそうもいかないわけで、出会い・別れというようなイベントに、どの道を行くか、みたいな分岐点が多分に存在している。これらをノーミスで選び続けているヤツなんて一握りもいないわけで、だから毎日を大切に生きるのではなく、選びぬき、考え抜いて生き”抜く”のだ。
負けねえぞ、と時々ふと思う。もちろん特定の誰かがいるわけじゃない。
ただ、そう思うだけだ。何に対して「負けないぞ」と自分は対抗心をメラメラと燃やしているんだろう。あんがい自分かもしれない。
あ、カレンダー変えてないや。
変えます。今すぐに。
(終)
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