幻視、幻「音」 ─liquidroom presents “TESTSET / THE SPELLBOUND” 現地レポート


その空間には、あるべき音があり、
そしてあるべき音がなかった。




なにしろMETAFIVEとBOOM BOOM SATELLITES、それぞれの遺伝子を引き継いだ2バンドが夢の共演ということで、このライブ情報が出た時に「マジか?!」と思ったのは僕だけじゃないはず。
いや、もちろん両者の音楽性は別の方向に向いてはいるけど、エレクトロ・ロックであり、オリジナルメンバーの一部が在籍し、ベテランがそのバンドを率いているという点など共通点が多い。

こりゃあ見ものだぞ、とすぐさまチケットの確保に動いたわけであった。


…などと偉そうに言っているけど、実はBOOM BOOM SATELLITESもTHE SPELLBOUNDもほとんど聴いたことがない
今回はMETAFIVEから派生した新バンド”TESTSET”が目当てなのである。

THE SPELLBOUNDは友達にも紹介されたりして、配信されていたシングルを1~2曲聴いたくらいで「なんか手を出すタイミングがないな~」と思っていた矢先にこのライブ情報が出た。

じゃあいっそのこと、当日までまったく聴かないでおこうかな、なんて思いながら過ごしていたらあっという間に当日になってしまった。



目黒川の葉桜(もはや花は咲いていない)

前日までの予報だと1日通して雨が降るはずだったのだが、午後には小雨も落ち着き、降ったり止んだり気まぐれになるまで天気は持ち直した。

会場である恵比寿リキッドルーム周辺でもブラつくか、と早めに乗った行きの電車内で物販があることを知ったため、販売が始まるまで時間を潰す。
中目黒駅から歩いて代官山の蔦屋書店を冷やかし、リキッドルームへ戻る。

前日に情報出てたの、まったく気づかなかった。
Officialアカウントの通知はオンにしないとね。

Tシャツの黒とトートバッグを購入。黒地に黒の文字という組み合わせが大好きなので2枚買おうかと真剣に悩んだ。
トートが意外と大きかった。使いやすい。日常で使いやすく、なおかつオシャレなライブグッズを売ってくれるアーティストってすごく良い。


喫茶店で1時間くらい時間を潰し、再びリキッドルームへ。
整理番号が380番台だったので「結構うしろだな~」とか思ってしまったけれど、今はもう入場キャパ制限してないのをすっかり失念していた。前方7~8列目のド真ん中列をゲットできるくらいには恵まれた入場順だった。長谷川白紙のライブのときに見たマス目も未だ健在。

久々のオールスタンディングはやっぱり滾る。着席でダンサブルだったり激しめな曲を演奏されると、どうしても音にノるのが難しいのである。
その点、スタンディングであれば自由にゆらゆら揺れたりできるから「音楽を浴びている」感は強い。

開演時間の19時を10分ほど押してスタート。そりゃそうだ。
だって場内アナウンスで「マス目はあるのですが、皆様1歩ずつ前にお詰めください」って言っていたくらいだからな。当日券が出ているわりに、開演5分前くらいに後ろを見たらフロアぎっちぎちで驚いたもん。絶対キャパの900人以上は入ってたな、あれは。



THE SPELLBOUND

いきなり幕の向こうから勢いよく放たれたドラムの音で、THE SPELLBOUNDの演奏がスタート。

こちらがセットリスト。

まさかのツインドラム。ビックリした。
人生初(?)の生ツインドラムはズンズンと身体の内部に響く。

特にカッコいいな~、と思った曲は「はじまり」かな。
曲中でほとんどずっと流れていたシンセ・シーケンスが明るくてカッコいい。それに呼応するみたいなボーカルの天まで突き抜けるような心地よさ。

あとは「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」のときかな?すっごい長いブレイクでシンセが喉の奥まで揺らしてくるほどの轟音を唸らせていて、めっちゃ感動した気がする。あの音はそうそう出せるものじゃない。

最後の「DRESS LIKE AN ANGEL」の頭2音で会場から歓声が沸き起こったときに薄々感づいてはいたけど、後からツイッターを見て納得。BOOM BOOM SATELLITESの、それも結構なレア曲だったのね。そりゃ盛り上がるよ。平沢がソロのライブでP-MODEL演るみたいなもんでしょ
お二人が前に出てきてギターとベースを演奏するのがめちゃくちゃカッコいい。サービス精神旺盛、って表現はおかしいかもしれないけど、すごく良いバンドなんだということを肌で感じた。


ボーカルの小林さんがめっちゃイケメン。もちろん中野さんのオーラも負けず劣らずギラギラしている。50台の男性の内でも最上級の風格というか、さすがベテランという感じがする。いい。
ボーカルの声がとても魅力的だった。透き通って抜けていくような歌声が、さわやかな曲風と非常にマッチする。

いまGoogle画像検索で調べたんだけど髪型の変遷すごいな。

この日に見たときの黒髪センターパートもいいけど、金髪もイメージがガラッと変わってカッコ良い。



ともかくTHE SPELLBOUNDが終わった。この時点で20時くらいだった(はず)。そこから10分くらいの舞台転換を経て、お待ちかねTESTSETへ。
転換中はずっと「METALIVE 2021」の待機画面で流れていた小品がかかっていた。重いビートでわかるまりん節である。



TESTSET

ステージにはおなじみの光る棒が配置。
その棒に取付けられていた四角い盤が自由自在にライトを投射できる様子で、途中途中、サイバー映画でよく見るスキャナーのように各メンバーの身体がスキャンされていたのがカッコよかった。

こちらがセットリスト。

ベースはこの編成でフジロックに出た時(LEO氏が言うところの「緊急事態中のMETAFIVE」編成)のセットリストに、まりんとLEO曲を残して穴埋めに「METAATEM」から「Snappy」と「Communicator」をチョイスしたみたい。ただ「Don't Move」を残したところがニクいね。

「Full Metallisch」でさっそくLEOさんの迫力に度肝を抜かれる。
生歌でこのボリュームかよ、ってくらいの圧倒的ボイス。
後ろのVJ、これまでは「METAFIVE」と文字がレーザー上に現れていたのが「TESTSET」に変わっている。僕の中では驚きと同時に「この動画は使うんだな」っていう嬉しさも同居していた。
そこからの流れで100回以上は聴きまくった「The Paramedics」になだれ込む。カウベルのターンも、ちょっと違っていた間奏のキーボード・ソロもカッコいい。

METAFIVE、幻の2ndアルバム「METAATEM」の中から「Snappy」。
どうしても頭の中では砂ッピーになってしまう。ごめん。サビでLEOさんの拝むような仕草をしながら歌っていたのがカッコよかった。

ドラムが見づらい、というかほぼ見えない位置に立っていたので、白根さんの挙動がほぼほぼ見えなかったんだけれど、「Maisie's Avenue」のコーラスで白根さんの声が聞こえてきて「ドラムを叩きながら歌うのも大変そうだな…」なんてふと苦労をねぎらいたくなった。

「Musical Chairs」。この曲も大好きなんだよなぁ。パワーがある。
サビ部分はLEOさんが1人でメインボーカルのみならずサブボーカルまでやってのける荒業を見せた。あの部分も大変そうだから、まりん歌ってあげて…。

勇ましいギターでアレンジされたイントロの「Peach Pie」。中盤のギターソロに加え、永井さん大活躍です。「Hang it over」のフレーズでまさに文字通りのジェスチャーをするLEOさんの眼がすごかった。この曲に限ったことじゃないけど。


TESTSETで歌わないのはまりんだけ(そもそもマイクすら置いてない)

ここでLEOさんによるMC(ってほどの量じゃないけど)。ただ「ありがとうございます」の一言、そして「ニューソング!やります」。最高だ。

曲頭、最初はなんかのバグ?って思ったけどそこからちゃんとイントロにつながったので、たぶんそういうエフェクトだろう。
曲調はよりロックにアプローチしていった感じがあるけれど、それでいてMETAFIVEが持っていたエレクトロな雰囲気も失われていなかった。ドラムもギターもシンベもボーカルも、全部が良い。

新しく生まれた「TESTSET」というグループが決してMETAFIVEのコピーではない。その新しい方向性を伝えるためのメッセージ代わりである新曲、しっかりと受け取った。超カッコよかったね。


興奮冷めやらぬまま「Don't Move」のシャウト。分かってやがるぜ…
アフリカンなベースラインはフジロックの配信で聴いたアレンジだ。生で聴くと、配信よりも格段にズンズン来る。
ドラム・ソロのあと、スクリーンに大きく「Don't Move」と映し出されると共にすべての音が止まる演出、もはや芸術だ。再び演奏に戻る前の「Don't Move」をLEOが言う前に拍手したヤツだけは許せん…。

「Communicator」のイントロがすごく終わりを感じさせる。トリ曲だった。「環境と心理」を期待したけれど来なかったな。
幸宏さんの語りパートがアレンジされていて、LEOさんのボーカルになっていたところに「おっ」と「あぁ…」という気持ちが混在。

話は逸れるけど、「環境と心理」があって「See You Again」まであって、さらにこの曲。そんで「Whiteout」「Threads」、おまけに「CUE」もある! METAFIVEはライブのトリ曲に困りませんね!早く小山田戻ってきてくれ

とにかく、これで全演目が終了。会場は大喝采ののち、アンコールを要求する手拍子に変化。そりゃまだまだ聴きたいよ、みんな。
結局アンコールはなかったけど、TESTSETの初ライブはとても満たされた。



片方のバンドをほとんど知らないという不安があったものの、フタを開けてみれば大満足でした。
むしろこれからもTHE SPELLBOUNDは追っていきたいな、と新たにファンになったくらいである。カッコいいもんはいい。

もちろんTESTSETも予想通り、いや、予想以上の充足感があった。
思い返せば去年のフジロック、幸宏さん・小山田くんという太い2本の柱が失われているなか、「METAFIVEここにあり」と言わんばかりの素晴らしいパフォーマンスを見せつけてくれた編成でコケるわけがないのだ。
あれから半年ほど経った今回のライブでより息の合ったプレイによる素晴らしい演奏が見れる・聴けるのも至極当然のことだ。

特に(ようやく)初めて生で観られたまりんの凛としている立ち姿ときたら…!ほとんどハードに身体を動かさず、客席などには一瞥もくれないその姿は、さながらKraftwerkのようだった。
もちろん、バンマス(多分)としての役割もシンセでしっかりと果たしている。音が締まっている感覚があった。


うーん、ただ、随所随所でやっぱりMETAFIVEと比べてしまったり、重ねてしまったりするところもある。例えば「Don't Move」のドラム・ソロを優雅かつパワフルに叩いていた幸宏と比較すると、どうしても…な感じはあった。
そもそも打ち込みだったドラムが生のドラマーによるプレイになった時点でカッコいいのだけれど。

「Musical Chairs」や「Communicator」のコーラス然り、
「Don't Move」のドラム・ソロ然り、
どうしても、幻視のように、幻「音」が聴こえてしまうのである。あるはずだった音がそこにないことに対する悲しみは大きい。


METAFIVEと切り離し、まったく別バンドとして観るには、フルアルバムをひっさげたライブが必要不可欠だと僕は思う。
METAFIVEの再始動か、はたまたTESTSETのアルバムがリリースか。来るべき日であるを迎えるXデーこそ、TESTSETの本当の始まりかもしれない。



この写真、良すぎる。




(終)

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