勝手に沼レビュー・第一回 ヴィレル-ボカージュ ノルマンディ戦場写真集

ヴィレル-ボカージュ
ノルマンディ戦場写真集
Daniel Taylor著 岡崎淳子訳 大日本絵画刊 2005年

いや、正直出た当時はスルーしていました
個人的には特に2004年〜2005年頃ってアーマー誌を買ってない号があるぐらいでしたので。
「ヴィレルボカージュの戦い?ヴィットマン無双でしょ?ドイツ軍ばっかりでしょ?イギリス軍やられちゃうんでしょ?教育されちゃうんでしょ?」って思うでしょ?
いや連合軍好きな人こそこの本を買うべきです!

きっかけはTwitterのDMグループ「沼の会(仮称)」で、たまたまCal.50積んだ英連邦軍のユニバーサルキャリアの話題が出て、そこで連合軍車両の第一人者、しゃーまんにわさんが「こんな写真もあるよ」とあげられたのがこちら

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そして教えて頂いたのが原著と今回紹介する日本語版でした。

過去にはAfter The Battleという戦時中と出版当時の写真の場所を比較する、所謂Then&Now を得意とする雑誌を出しているBattle of Britain International Ltdから1983年に刊行された Eric Lefevre著『Panzers in Normandy Then and Now』

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(この本も「パンツァーズインノルマンディ」として大日本絵画から翻訳本が出ています、訳者は岡部いさく先生だ!)

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という良書も出されていましたが、Panzers〜がノルマンディ戦全体について書かれたのに対し、同じ出版社から1999年に出された ヴィレル・ボカージュの戦いに特化したのがこの本の原著 Villers-Bocage Through the Lens です。

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ヴィレル・ボカージュの戦いととは?という話になるとそれこそ本が一冊のレベルになるので割愛しますが、この本はドイツ側で撮影された写真や映像資料を解読し地図と照らし合わせ、個人の手記や記録文書を用いる事によりネットや書籍でよく見る写真も場所が特定されています。
英独両方の編成表も掲載され、特筆すべきは筆者が英独で異なる構成単位の「連隊」などの専門用語を曖昧にしていない事です。

これら筆者の真摯な考証により「ヴィットマン伝説」に異なる見方を読者に提起してくれたのです。

ヴィレル・ボカージュの戦いという言わば手垢のついた戦いと思っている人も多いでしょうが、連合軍沼の人達にはまだ考証の余地はたっぷりあります。


例えばこのウェルズ少尉のM4A4 シャーマンOP(観測戦車)ですが

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この車両は木製のダミー砲(前に折れて転がっている)を持ち、砲塔内の主砲があったスペースに地図台を置いているのですが。

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(図は JOHN SANDARS 著 THE SHERMAN TANK in British Service 1942-45 Osprey Publishing 1982 より)
いくら燃えやすいシャーマンと言っても砲弾のない観測戦車ですら弾種によっては炎上するのだ?と驚きます。

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またこの写真は撃破されたJ.ホロウェイ連隊付曹長のクロムウェル戦車ですが、防楯開口部周囲に残った黒い物は上陸時の水密製を高めるボスティック社製シーリング材の跡との事、それがどういう物で、どの様にして塗布されていたのかも興味が湧きます。

写真も鮮明で見どころの多いこの一冊、是非色々な方が手にして頂けたらと思います。



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