はじめに(カレーライス脚本解釈術1)

 脚本の解釈の仕方の一つを提案します。役者の方々だけでなく、脚本を共有する全ての現場の方へ。

 このマガジンを作ろうと思った理由、一番は自分が脚本を書く人間として、世にある脚本の意図をできるだけうまく掴んで欲しい、誤解を少しでも減らしたいという願いから、もう一つは脚本解釈に悩める役者の方々に脚本を作る頭からサポートできる事がある、と実感している事から。発声や心身の使い方など基本的な技術はもちろん大切ですが、それと同じくらい脚本解釈の重要性が認識されてほしいのです。

 演技の為の良書はたくさんありますが、脚本の解釈について具体的に述べられる事はほとんどありません。解釈できている事を前提として解説を始めるものがほとんどです。解釈は各々やって当然という感じです。一方、解釈は改めて説明される必要のないほど簡単な事か、と言えばそんな事はありません。その重要性が理解されていないだけでなく、自分が解釈を不得意とする事に気づいていない人さえいます。

 「解釈後」の演技をする事に適性や潜在能力が十分でも解釈が不適切な為にその実力を十分に発揮できないままの人を見た事があります。実際、本当にたくさんいるだろうと想像してしまいます。もったいないのです。まさに「整備不良のフェラーリ」状態です。また、後に詳しく述べますが、出番が少ない役ほど解釈の技術が必要なのにそれはほとんど認識されてません。

 解釈は「演技」全体において、地味で目立たない部分かもしれません。役者がこなさなければない仕事のうち、もっと複雑でずっと難しく、心身ともに消耗の激しいパートは他にあります。解釈は極初期の作業量も多くないパートです。

 演技の中で一番哀しく、最も頻繁に起こる事は、役者が自分自身を大事に隠してとっておくことだと思います。絶対に自分を使わない、開かない事。(このように書くと鼻水を垂らして泣きわめいたり、猟奇的な演技を頭に浮かべる人もいるかもしれませんが、決してそういう事だけを言うのではありません。普段の演技も同じ重量で大切です。)活躍されている多く役者の中にも「開いてる」演技をされる方はごくわずかに感じられます。ここをコンスタントに突破していく力を身に着けるには安定した実力と周りの励まし、全力で努力できる環境も必要だと思います。

 一方、脚本解釈は知ってさえいれば乗り越えられる事が多々あります

 マガジンが提案する地味な解釈の作業は、演技を考える時、あなたの創作を自由にするためにあります。 解釈をきちんと行えばセリフからも自由になるスタートに立てます。そしてそれはきっと、あなたの演技を「開く」助けになります。

 それにしても、それを伝える為の旅がこんな長旅になるとは想像していませんでした。そしてたどり着いた場所も興味深いものでした。

 ここまで書きましたが、このマガジンを読み終わった時、画期的な事はない、と感じる人もいるかもしれません。ただ、言葉にしていないだけで、そういえばそうだ、知っていた、と思う人もいると思います。地味です。実際、私がこのマガジンを作った方法はこうです。私がこれまでに脚本、演出として頭の中だけでやってきた作業をその通りに文章化する事です。それでも、書きだした物に沿って作業してみると、実際はなぜか全然違う方法で作っている。修正する、の繰り返しでした。自分がなんとなく行っている作業が意外な事ばかりで、驚きました。皆さんにもそういう事があると思います。

 こんな地味な作業のモチベーションは、冒頭の理由以外にも脚本を共有する制作現場において余分な時間を圧縮し、本来のクリエイティブな作業に没頭する時間を増やす事。そしてそれが、自分も含めた切実な誰かの役に立つ事と信じている事です。

 全ての物語が、受け止めてくれる人の感受性を持ちよってやっと完成するように、このマガジンも読んでくれているあなたなしに完成しません。あなた自身に埋めてもらわなくてはならない空白があります。主体性を持って真剣に向き合ってくれた時、きっとものすごく疲れるけれど、間違いなく違う世界が見えるようになっている事を信じています。よい旅を。

マガジンの内容について注意、推奨事項2つ

1. 脚本解釈の対象は、筋を持った伝えたい事のある物語

 昔、知人に誘われてミニシアターで始終何か言いたげな映画を見ました。堕胎のシーンが詳しく出て来るような。映画学校の先生が生徒のホンを演出したそうです。名のある役者さんも出演されていました。鑑賞後、その知人女性は恩師である監督に「(鑑賞中)2回寝ましたよ」と笑いながら言うので驚きました。そんな酷評を聞いた演出である先生が「何が言いたいのか俺も良くわからない」と、愉快そうなのでさらに驚きました。

 その言葉が本心でなくとも個人的には2時間返して欲しい、と思いました。このマガジンでは、監督もよくわからない、というような作品は対象としません。もちろん、わからないけどおもしろい、素敵な作品はたくさんあります。でもその場合、演者が理屈で理解するのはかえって邪魔になるかもしれません。

 ここでは「こういう事を見てもらいたい、伝えたい」を事象を組み合わせて並べる事で挑戦している作品を対象にします。 少なくとも、伝わらなかったら悔しくて涙するくらい、きちんと言いたい事がある作品を対象とします。

2. 脚本を読んでおく

 本文中でも読んで貰いたいタイミングを示しますが、私のホン『ビオトープ』『僕はおとうさん』は読んでください。音声シナリオと短編映像シナリオです。つまらないかもしれませんが、少なくとも言いたい事があります。全部で20分強で読めるかと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?