エキストラという超難題。演技を練習する為のホンの選び方について

 練習用のホンなんていらないわ。自分が好きなホンで練習したいんだ、いると思います。あのセリフが恰好いいから言ってみたい、あの女優さんみたいにセリフの言い終わりで涙してみたい。あるかもしれません。
 
 自然な欲求ですが、練習用のホンがあって越したことないには理由があります。
 
 オリジナルの演技に引っ張られない、という事です。演技を見た事があるホンの場合、人物像を自分なりに一から組み立てたとしても意識的にも無意識にも引っ張られる可能性があります。ただでさえ難しい自己評価がなお難しくなります。練習の為のホンを探す時は誰の演技も見た事のないものをお勧めします。(脚本も買ったり借りたりできます)

 シーンを選ぶ時のポイントとして、葛藤と目的がわかりやすいもの演じやすいと思います。手前味噌ですが、私がここで挙げて行くようなものです。
実際は何気ないシーンの方が演技を作るのに苦労すると思います。その部分を練習で作るにはハードルが高くなります。一番キャラが立っているシーンを組み立ててから何気ないシーンを作るのがお勧めです。無論、最初から完璧に組み立てるのではなく、棚を作る時のように仮止めをして、後で微調整するイメージです。

 何気ないシーンの方が難しい、と書きましたが。そうです、だから「エキストラ」というのは実はものすごく難しいのです。エキストラがうまくやれない、難しいと思っている人は、実はすごくセンスがある人かもしれません。

 例えば、時間を聞かれるだけのシーンしかない役、ありますね。キャラが立つシーンがありません。ない時は? まさか? そうです。自分で作ります。このエキストラにももちろん物語があって、たまたま別の物語が主軸の角度のものに映り込んでいる、氷山の一角が見えているかのように見えるのが正解です。何気ないエキストラがリアルである事は物語の真実味を増す手伝いになります。
 とはいっても、エキストラとして目立っていいんだ、と間違える事なく。逆に、脚本の言いたい事、シーンで演出が表現したい事からはみ出さなければ何をやっても正解です。あとは、演出の好き嫌いだけです。
 ずっと昔、母から聞いたもので、今ネット上調べても元ネタが出てこないのですが、ミヤコ蝶々さんがエキストラの仕事をしたとき、後ろ姿が映っている時にお尻を掻いた事が現場の偉い人の心を打った、というエピソードが好きです。
 当たり前ですが、経験が浅く、自信がない場合、演出の誰かに相談してください。その相談に応じてくれない現場であれば、基本、挑戦する方向で行きましょう。エキストラであれば失うものは何もないと覚悟するしかなさそうです。

 戦場に出て、無傷で帰ってくる人が多すぎます。演技の場は、自分を開く場であり、傷つくのが当たり前です。無傷のままでいたいのであれば、その役割を覚悟のある誰かに譲ってあげてください。打ち込める他の仕事を探しましょう。

 とはいえ、人間です。思い切った挑戦が盛大な失敗につながり、無難にこなしたい小心な誰かの心を傷つけて、結果、あなたのプライドを傷つけるようなものの言い方をしてくるかもしれません。こんな時は「作品の為に考えた結果でしたが、実力不足でうまくいきませんでした」と素直に速やかに前に進みましょう。
 「わざと打たせたボディは効かないんだ」モハメド・アリの言葉を少し、思いだしました。わざと打たせるわけではないけれど、作品に誠実であれば、参加する誰にも思い切った挑戦をする権利がある、と、私は思います。

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