「フワラー」第七話(最終回)

106 桜木宅・玄関内
 
玄関のドアが開くと、もろこと縞男が立っている。
ドアを開けた清彦、微笑む。
もろこ「花を見ました」
清 彦「見ててくれると思いました」
 
107 同・外観
かえでが燃える庭から見える家の中。
清彦、もろこ、縞男が部屋の中に入って来る。
 
108 同・中
元春の写真と並ぶ知恵の遺影。
もろこ、縞男、線香を上げている。
清彦、二着のカーディガンを持ってくる。
空色の大きい方は完成間近で、編み棒がついたまま。
清 彦「知恵ちゃんがあなたとゼブラ君に、って。出来上がったら、あなたにもう一度会うって」
もろこ、カーディガンを広げる。
編み棒に近づくにしたがって粗くなる網目。
縞男見ている。
清彦、カーディガンを見ながら
清 彦「私はよく分からないんですけど、後、ほんの少しなんですか?」
もろこ、大きく頷くと、続きを編み始める。
清彦、微笑んで見ている。
 
109 総合病院・病室(回想)
光の溢れる病室。
小さな子供のニットがほどかれていく。
解いている知恵。
清彦、そばで見ている。
知恵、クスクスと笑い出す。
知 恵「人生の最期の最期だっていうのに。忙しかったわ。心が」
清彦、ニットを手にし、ほどくのを手伝い始める。
くるくると毛糸をまとめていく知恵。
知 恵「人生最大の悲しみ。喜び。許さなかったり。怒られたり。裏切られたり。愛しかったり。解いたり編んだり、解いたり。……生きてるわねー私。よくがんばったわ。この世が名残おしいわ。身体はとっても痛いから、あれだけど、たった今は、死にたくないわ」
清彦、涙をふきふき、鼻をすすっている。
知恵、手が止まる。
知 恵「元春が男の人を愛したこと、あなたがブラジャーつけてた事。あの子が最後、私と編み物をしてくれた事……これから死ぬってのに、まだなにもわからない……こんな未熟のまんまで死んでいくのねえ。びっくり」
知恵、休憩。
知 恵「……あの子も……よく謝りにきたわねえ。私だったらいやね。私みたいなのに謝りにくるの……あんな事する人は心もない人って……それも、思い込みだったのかしら。全部が、あまりにも難しいわね」
清彦、手を動かす。
 
110 桜木宅・中
清彦、急須からお茶を入れている。
清彦、お茶を二人の前に出す。
縞 男「先生、今日はつけてるんですか」
清 彦「聞いてくれるってことはバレてないってことだ」
もろこ、笑う。
窓から見える庭がまぶしい。
編み物を続けるもろこ。
 
111 駅のホーム
空色のカーディガンを着ているもろこ、縞男来て、電車を待っている。
ひとみ来る。
縞男、反対方向に引っ張る。
もろこ、縞男ににっこりし、ひとみに近づく。
縞男、隠れながらついていく。
もろこ、かばんからきれいに包まれたハンカチと栄養ドリンクを取り出し、差し出す。
ひとみ、ニヤリと笑い、受け取る。
目を丸くしている縞男。
 
112 駅のホーム俯瞰
もろこ、縞男、ひとみ電車に乗る。
動き出す電車。
美しい夕日。
 
おわり
 

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