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【今日コレ受けvol.037】カメムシと記憶

朝7時に更新、24時間で消えてしまうショートエッセイ「CORECOLOR編集長 さとゆみの今日もコレカラ」。これを読んで、「朝ドラ受け」のようにそれぞれが自由に書くマガジン【今日コレ受け】に参加しています。


世の中には2種類の人間がいると思う。
カメムシの匂いが気になる人間と、気にならない人間だ。


今年の秋はカメムシが異常発生していた。一歩外に出ると、あの緑の盾のような点をあちこちに発見した。マンションの外壁に、階段に、道行く人の上着にも…。

我が家にもどこからか飛び込んできて、気づいたら壁に止まっていたことが何度かある。息子はカメムシの匂いが気になるタイプで、「どこかにヤツがいる」と敏感に気配を察知しては、警察犬のように匂いをたどって発見していた。

ある晩、「どうしてもカメムシの匂いが気になって眠れない」という。
その日は、夜20時頃にも2匹が発見されていた。
夫は面倒だったのだろう。「さっきのヤツのその残り香だろう」と言って寝かせようとしたが、「いや絶対いる」と言い張って寝ない。必死に探したのだが発見できず、結局、1時間ほどして眠りについた。

ところが深夜になって、寝室の隣部屋でカメムシが飛んでいたのだ。
カメムシセンサー恐るべし、である。


私は、カメムシの匂いが気にならない。
なんなら、ちょっと好きかもしれない。あの匂いを嗅ぐと、原っぱで遊んだ日を思い出す。
背の高い草の中にしゃがんで、よくかくれんぼをしていた。草の匂いはひとりぼっちで隠れる自分に、安心感をくれた気がする。

調べてみると、カメムシの匂いに含まれている「トランス-2-ヘキセナール」という成分が、草の匂い成分と同じだそうだ。やはり。


もしかしたら、同じような経験がある人には、カメムシの匂いは気にならないのかもしれない。だとしたら、息子がカメムシの匂いが気になるのは、草の中で囲まれて遊んだ記憶があまりないからなのかも? 
と、都会ぐらしにちょっと申し訳ない気持ちになった。

それにしても、匂いの感覚って不思議だ。
好きも嫌いも、本能的なものだと思っていたけれど。意外と生きていくうちに、どんどん変わっていくのかもしれない。


そんなことを考えていたら突然、隣で息子が「うわー!」と叫び声をあげた。嘘のようだが彼のiPadの上に、カメムシがヨジヨジと歩いている。
こんなに寒くなったのに、まだいたんだなあ、、

思いは招くというが、まさかカメムシをも?

つまんですぐ外に出したけれど、彼は「まだカメムシの匂いがする」と言って譲らない。
きっと、いるのだろう。

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