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【今日コレ受けvol.025】明るいお葬式

朝7時に更新、24時間で消えてしまうショートエッセイ「CORECOLOR編集長 さとゆみの今日もコレカラ」。これを読んで、「朝ドラ受け」のようにそれぞれが自由に書くマガジン【今日コレ受け】に参加しています。


祖父を思うとき、いつも白いタンポポが脳裏に浮かぶ。普通のそれより茎が長く、まっすぐに伸びたタンポポ。

祖父は、画家で、元校長先生で、ガクシャだった。

気むずかしい、と親戚のなかでは言われていたけど、田舎に帰ると広い庭を駆け回り、トカゲを背中に入れて遊んでいた「野生児」の私とは、何故かウマがあった。


トカゲとカナヘビを見分ける方法や、太い針金を竹に丸く結び、蜘蛛の巣を引っかけまくって「簡易虫取り綱」をつくる方法も、祖父が教えてくれた。

私が遊んでいると、「なにしとるだいや(おいおい、なにしてるんだ?)」と、いつも面白そうにやってくる。

そんな祖父が大好きだった。当時、おてんば過ぎた私の性格を認めてくれたと感じた、はじめての人だったからかもしれない。



白いタンポポは祖父の家の近くに、秋になると必ず咲いていた。祖父が住んでいた兵庫県豊岡市に咲く固有品種だと知ったのは、ごく最近のことだ。キビシロタンポポ、というらしい。

「なんで、このタンポポはきいろじゃないの?」
そう尋ねたことがある。

「そんなタンポポがあってもかまやせん」
と、ニヤッと笑って言っていた。

ガクシャなのにテキトーなこたえだ。

と、当時は思ったが、後から考えると、「お前もそのままでかまわない」という比喩だったのかもしれない、と。



祖父は97歳まで長生きして、私が社会人になってから亡くなった。
なんとお坊さんを7人呼び、スピーカーでご近所に念仏を流す、派手なお葬式だった。
祖父の遺言だったらしい。

長生きしたからなのか、念仏がにぎやかだったからか、私が人生で参列したなかでも、最も明るいお葬式だった。
みんな笑顔で祖父との思い出を語り合っていた。
私も、泣かなかった。


もし今も生きていたら。
実家の畑にいくたびにミミズ探しに熱中する息子は、きっと祖父とウマがあったと思う。


「なにしとるだいや」と、「ミミズが好きでもかまやせん」と、息子に言って欲しかった。
ニヤッと笑って。


ときどき、息子に祖父の面影を見てハッとすることがある。
そんな彼と一緒に、いつか白いタンポポを見に行きたいと思っている。

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