わが青春想い出の記 19 日本一心のこもった手紙

わが人生想い出の記 19 日本一こころのこもった手紙     

「私は相変わらず元気です。少しは病気もした方が皆にも同情されていいのではないか、と自分の丈夫なのをうらめしく思った時もありましたが、今は益々丈夫になりたいと思っています。運動もしています。裁縫の勉強もはじめました。料理の勉強もします。そしてあなたが卒業して帰って来た時にはおいしいご馳走をたくさん作って沢山たべさせてあげたいと思っています。

 私があなたの話ばかりするので、兄は、「もうその話は御免だ」、と、言います。しかし私は許しません。だってあの時、兄が東京へゆくように言わなければこんなに淋しい思いをしないで済むんですもの。だから言ってやりました。
「お兄さんが悪いのよ。お兄さんがあの時、学校を続けるように言わなければよかったのよ」。
「お前の将来の為にと思ったから言ったではないか」。
それには私も黙ってしまいました。

健康のことが気になりますが、ここでは見当がつきません。しかし、この手紙を手にした時は間違いなく無事に東京に着いた時ですから、
「お疲れさま」、と、いわせてもらいます。

東京とはどんなところですか。私も一度見てみたいと思います。美しい女の方もたくさんおられるでしょうね。でもそれらの方々に目移りなんかしてはいけませんよ。どんなことがあっても洋子を忘れないで下さいね。そして、どんなに東京がいい処でも帰りの日だけは忘れなく、決して日延べなどしないで下さいね。

私ねー、以前「燃えるような恋愛がしてみたい。できるかな?」って、友達と話したことがあったけど、あなたは笑うかしら、今の私のこの気持を。

私ねー、いつもあなたの傍にいたいってこと。こんな気持ちになったのははじめてなの。逢えない今はとってもあなたが恋しい。逢いたい。涙が出そう・・・。
あなたは優しいから、私のわがまま聞いてくれるわよねー。ありがとう。考えて見ると私は今、本当に燃えるような素敵な恋をしているのよねー、あなたに。言葉で言うとあなたは照れるから、ここで書くね。
世界中の誰よりもあなたがいちばん好き。ずっと、ずっと。一緒にいたい。一緒に歩いて行きたい、これからの人生を。だから私はいつまでもいつまでも待ちます。そして早くあなたから「お前」と呼ばれてみたいです。

私は今、何をしても手につきません。ただ一日一日がさえ過ぎればそれでいいのです。そしてあなたが帰って来る日を指折りかぞえております。大きな紙に二百十個の丸数字を書き壁に貼り付けました。毎日、その丸数字の一つずつ消すのを楽しみにしております。
朝起きると、第一日の仕事はその丸を消すことです。
「月日のたつのは早いもの」
と、言った人は大嘘つきだとこの頃恨めしく思っております。

誰よりも誰よりも愛するあなた様へ」。           洋子
         


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