わが青春想い出の記 10 演劇が終わって 川島智

演劇が終わったその翌日、自分は洋子に手紙を書いた。
「僕は見るまでは冷や汗をかいていましたが、見ているうちに段々自慢したくなってきました。私が見たかったものであり、見せたかったものです。

僕はいつの間にか、あの笑劇を自分が書いたもののような気がし、また自分が演じているような気になっていたようです。あれをやったことであなたの心が少しでも痛むならそれは私の責任です。しかし僕は喜んでいます。

終わった後、僕は一人であなたにこっそりとお礼がしたかったです。だけど訪ねた時はあなたが帰った後でした。あれを見た友人は皆面白がっていました。あなたの逆立ちや宙返りにはすっかり驚いていました。2~3日の内に又ゆきます。佐々岡さんにもどうぞよろしく」。

洋子から手紙がきた。内心僕はそれを待っていた。
「こないだはごめんなさい。ひどいものをお見せして智さんに愛想つかされたような気がしてすっかり気が滅入っています。

あの日も逢いたかったが恥ずかしくて逃げて帰ったのです。もうこりごりしました。今となっては頼んだお方が悪いのだという気もしています。友達はあれで良かったと慰め祝杯を挙げて下さいましたが、私ひとりへんに孤独な気がして困りました。喜んで下さいましてありがとうございました」。
                          洋子


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