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「原子力発電所の再稼働の賛否」慶應義塾大学経済学部2013年

(1)問題

Ⅰ.透明で信頼される再稼働基準に見直せ2012年6月18日

①政府は関西電力大飯原子力発電所3、4号機の再稼働を正式に決めた。野田佳彦首相が枝野幸男経済産業相ら3閣僚と協議し、最終判断した。これを受け関電は再稼働の準備に着手し、7月下旬にもフル稼働する見通しという。

②首相は原発の安全性と停止が長引くことによる経済への影響を考慮し、再稼働を「私が決める」としてきた。電力不足が見込まれる関西では梅雨明けとともに需要が膨らむ。フル稼働がそれに間に合うかは微妙だが、首相自身が決断したことはひとまず評価したい。

③一方で、再稼働の是非をめぐって世論が大きく割れたことを、首相は重く受け止めるべきだ。

④首相と3閣僚はストレステスト(耐性調査)の1次評価を踏まえ、津波や地震に対して原発が安全か見極める基準を設けた。この基準自体は妥当だが、本来ならば独自に基準を設けて安全性を厳しく審査し、それを国民に示すのは、専門家集団である原子力安全委員会の役割だったはずだ。

⑤原発ゼロが続けば電力不足を解消するメドが立たず、天然ガスの輸入などで年3兆円の国富が流出する。国民生活や経済に及ぼす悪影響を勘案し、再稼働の可否を総合的に判断するのは政治の役割だ。だが大飯原発では政治家が技術的・専門的な領域まで踏み込んで決めたとの印象を国民に与え、逆に不信を招いた面は否めない。

⑥政府は大飯に次いで四国電力伊方3号機などの再稼働を検討し、首相は「丁寧に個別に判断していく」と述べた。だが大飯と同じような基準や手続きでよいのか。

⑦原子力の安全行政を担う「原子力規制委員会」の関連法案が今国会で成立の見通しとなり、9月までに発足する。福島原発事故で対応が混乱したことを教訓に、事故のときには規制委が技術的な判断を下し、首相はそれを覆せない仕組みにするという。

⑧原発の再稼働でも規制委が安全基準づくりを急ぎ、責任をもって安全確保に取り組むべきだ。規制委がまず安全性を確認したうえで、首相らが経済や国民生活への影響も考えて判断するならば、国民も理解しやすいはずだ。

⑨それには失墜した規制機関の信頼を取り戻すことが欠かせない。規制委の5人の委員は、原発の知識に加え、広い見識をもつ人材の起用が必須だ。政府は規制組織の器をつくるだけでなく、魂を入れることに全力を挙げるべきだ。

Ⅱ.大飯再稼働原発仕分けを忘れるな(朝日新聞2012年6月17日朝刊社説)

① 関西電力大飯原発3,4号機の再稼働が決まった。

② 野田政権は脱原発依存への道筋を示さないまま,暫定的な安全基準で再稼働に踏み切った。多くの国民が納得しないのは当然である。こんな手法は二度と許されない。

③ 原発に絶対の安全はない。事故が起きたときの被害は甚大である。原発はできるだけ早くゼロにすべきだ。ただ。短期的には電力不足で日々の暮らしや経済活動に過大な負担がかかりかねない。どう取り組むか。

④ 私たちが昨年来,求めてきたのは全原発の「仕分け」だ。

⑤ 福島事故の教訓をしっかり反映させた新たな安全基準と個々の立地に基づき,危険性の高い炉や避難が難しい原発から閉めていく。そのうえで第三者の目で必要性を精査し,当面動かさざるをえない最小限の原発を示し,国民の理解を得る。

⑥ こうした作業の要となるべきなのが,8月にも発足する原子力規制委員会とその事務局となる原子力規制庁だ。
⑦ これまでの原子力安全委員会や原子力安全・保安院は,地震や津波の専門家から活断層
の存在や過去の津渡被害などについて新たな知見が示されても,規制の強化に反映しないなど,原発推進機関と化していた。

⑧ 新しい組織が抜本的に生まれ変われるのか。規制委5人の人選は極めて重要だ。委員の中立性を保つため,原子力事業者からの寄付情報の公開も徹底しなければならない。

⑨ 規制庁は約1千人規模となるが,当初は大半が保安院や安全委,文部科学省など従来の原子力関連組織からの移籍組だ。

⑩ 統合される原子力安全基盤機構(JNES)を含めて,いずれも電力会社や原子炉メーカーに,人や情報の面で依存する部分が大きかった。

⑪ 器を変えても,なかで仕事をする職員の意識が変わらなければ,独立性が高まった分,「原子カムラ」がかえって強化されかねない。

⑫ 規制庁は,5年後から全職員に出身官庁への復帰を認めないことにした。この間に職員の意識改革を徹底し,独自採用を含めて人材の確保・育成を進める必要がある。

⑬ 政権内には,新組織が発足すれば,残る原発も従来のストレステストの延長線上で再稼働が決まっていくとの期待がある。

⑭ だが,規制委や規制庁がまず取り組むべきは厳格な安全基準の策定だ,それに基づいて,すべての原発を評価し直し,閉じる原発を決めていく。再稼働はそれからだ。

A. これら2つの新聞の社説(I • II) には, 見解が異なる部分と同じ部分がある。 両者の見解の異同について200字以内でまとめなさい。

B. 原子力発電所の再稼働問題を例にして, 仮にその賛否についてのあなたの意見に対し異なる意 見を持つ友人から批判を浴びたとしたなら,どのようにしてその対立を乗り越えようと考えるか。 あなたの意見の内容と,それと異なる意見の内容(どのような意味で異なるかに言及すること),および対立の乗り越え方について400字以内で具体的に述べなさい。

(2)考え方

A

共通点
・原発の安全性と停止が長引くことによる電力不足で経済への影響を憂慮している。
・原子力規制委員会の基準ではなく、政府の基準で大飯原発を再稼働したことが国民に不信を与えたので、規制委の安全基準作成を優先課題としている。
・原子力安全委員会の人選を重要視し、組織の内実を整える。


相違点
論点①原発の是非と野田政権の大飯原発再稼働決定への評価
I:原発賛成を前提とし、原発の再稼働を決定した野田首相の判断を評価。
II:脱原発を前提とし、その道筋を示さず再稼働を決定した野田政権に批判的。
論点②大飯原発の再稼働が国民に不信を与えた理由
I:専門家集団の基準作成と審査という手続きを経なかったこと。
II:脱原発依存への道筋を示さずに再稼働に踏み切ったこと。

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(3)解答例

A.
共通点は、原発停止の長期化による電力不足で経済への影響を憂慮している点。原子力規制委員会の基準ではなく政府の基準での再稼働したことに疑義を呈し、規制委の安全基準作成を優先課題としている、原子力安全委員会の人選と組織の整備を重要視している点。相違点は、原発の再稼働を決定した首相の判断について、Iは原発賛成を前提とし評価するが、IIは脱原発を前提とし、その道筋を示さず再稼働を決定したことに批判的である。
(200字)


B.
 私は原発反対の立場から再稼働に批判的であり、友人は賛成の立場から再稼働を評価する立場から批判された場合について考える。まず意見の相違点からではなく、両者の共通点から議論を始める。双方ともに経済の根幹となる電力の安定供給を重要視している。この点を押さえれば、原発に代わる安全な再生可能エネルギーの開発を進めて行き、将来的にはこれを原発に代替させるロードマップを提案することにより、友人の批判に応えることができる。
 ただ、代替エネルギーが普及するまで時間がかかるため当面は十分な電力供給のために既存の原発に依存せざるを得ず、原発再稼働はやむを得ない。その際、厳格な原発の安全性確保は必須となり、この課題の重要性についても両者は意見の一致を見る。その基準作成に向けた手続きや方法について、私は友人と知恵を出し合うことができる。このようにして両者は対立から協力関係へ移行できる。(400字)

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