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「外国人労働者と移民受け入れ」北九州市立大学経済学部2022年

(1)問題


次の文章を読んで,後の設問に答えなさい。


① いまや全国に55,000店舗以上を数えるコンビニは,どこへ行っても“当たり前の存在"である。24時間オープンの売り場には弁当や飲み物がぎっしり陳列されているだけでなく,USBメモリから冠婚葬祭のネクタイに至るまで,突然の「しまった,アレがない!」という状況にもかなりの確率で対応してくれる。


② もちろん“買う“以外のサービスも充実している。ATMがあれば真夜中でも現金を下ろすことができるし、公共料金の支払いや宅配便の受付は当然のこととして,最近はマルチコピー機で名刺を作ったり,住民票の写しや印鑑登録証明書をプリントアウトすることも可能だ。近くにコンビニがあれば,わざわざ遠くの印刷所や役所まで行く必要もない。


③ コンビニはまさに現代日本人の生活に密着した“近くて便利"な社会インフラである。コンパクトで高機能という点も,ある意味で日本を象徴するスタイルだろう。同じ小売業でも,百貨店やスーパーなどは売り上げや事業所数が減っているのに対し,コンビニ業界はこの数年でさらに勢いを増して拡大,成長を続けている。業界全体では10兆円を超える巨大なマーケットを誇る。

④ そんな(1)コンビニにいま“異変”が起きている。都心のコンビニではその変化が顕著だ。


⑤ 四国に住む友人は,東京のコンビニの劇的な変化を見て「最初はビックリした」と言う。「だってインド人みたいな人がレジにいて,『お箸は何膳にしますか?』とか日本語もペラペラだし,外国人のスタッフ同士の会話も日本語でしょう。出張で上京するたびに外国人スタッフの数が増えてる気がするけど,彼らを見ると『東京に来た!』って実感するんだよね。でも,最近になって,地元(徳島)のコンビニでもちらほら増えてきた気がする」。


⑥ 彼が言う,“インド人みたいな人”というのは,おそらくネパール人かスリランカ人のことだ。東京23区内の深夜帯に限って言えば,実感としては6~7割程度の店舗で外国人が働いている。昼間の時間帯でもスタッフが全員外国人というケースも珍しくない。名札を見るだけでも,国際色豊かなことがわかる。


⑦ しかも,この傾向はいま急速に全国に広がりつつある。大阪,神戸,名古屋の栄,福岡の中洲・天神といった繁華街のコンビニでは,すでに外国人スタッフは珍しい存在ではなくなっているし,今回取材で巡った沖縄でも実に多くの外国人がアルバイトとして働いていた。全国のコンビニで働く外国人は大手3社だけで2017年に4万人を超えた。全国平均で見るとスタッフ20人のうち1人は外国人という数字である。


⑧ こうした状況が広がる背景には,コンビニ業界が抱える深刻な問題がある。


⑨ 人手不足である。現実として全時間帯で常に人手が足りない店舗もあり,業界内では「24時間営業を見直すベき」という声も出始めている。しかし,いまのところ大手各社が拡大路線を取り下げる気配はない。


⑩ 業界最大手のセブン‐イレブン・ジャパンの古屋一樹社長は,雑誌の取材に対して「24時間営業は絶対に続けるべきだ」と明言し,「加盟店からも見直すべきという要望は上がってきていない」としている。


⑪ 業界第2位のファミリーマートと第3位のローソンは,深夜帯に一定時間店を閉めたり,無人営業をするといった実証実験をはじめているが,業界トップのセブン‐イレブンが「絶対に続ける」と言っている限り,深夜営業を取りやめることは難しいだろう。店舗もこれからまだまだ増えていくはずだ。ローソンは,2021年までには現在より4,000店舗多い18,000店舗まで規模拡大する意向を示している。


⑫ しかし,そうした拡大路線が続く一方で,人手不足にあえぐ“現場“では疲弊感が広がっているのも事実だ。東京・世田谷区でコンビニを経営するオーナーは,「店の前にバイト募集の貼り紙を出して1年以上になるけど,まったく反応がない」と嘆く。「平日の昼間なら時給で960円,深夜なら1,200円以上提示しても日本人はなかなか来ない。そもそも日本人の若い子の数が減っているし、(アルバイト情報サイトに)求人広告を出しても反応は鈍い」。


⑬ どうしてもシフトに穴が空いてしまう場合は,深夜でもオーナー自身が対応しているそうだ。これまで外国人を雇ったことはないが、今後は考えていかないと店が回っていかない。自分の身体も心配だ」。


⑭ ちなみに東京都の最低賃金は時給958円(2017年10月)である。コンビニの新人アルバイトの時給は限りなく最低賃金に近い。このあたりのことを大学生の甥に聞くと,「コンビニは安いからあまり働きたくない」「同じ時給だったらカラオケボックスのほうがラクでしょ」という答えが返ってくる。正直な答えだろう。まわりでもコンビニで働いている友人はいないらしい。


⑮ 一方,外国人スタッフは「コンビニのバイトは,対面でお客さんと話す機会が多いので日本語の勉強にもなる」「日本の文化を勉強するにもいい。だから工場で働くより楽しいし,効率的」「お店によっては廃棄のお弁当を食べていいから食費も浮く」という。日本人が敬遠するコンビニのアルバイトを外国人が引き受けているようにも感じる。言い換えれば,現代の日本人は,外国人の労働力によって便利な生活を享受しているということになる。


⑯ 外国人留学生に話を聞くと,アルバイトをしていない人を探すほうが難しい。2017年10月末時点の厚生労働省の集計(「外国人雇用状況の届出状況」)によると,日本にいる約27万人の外国人留学生のうち,「資格外活動(アルバイト)」をしているのは,約26万人。ほとんどの留学生が何らかのかたちでアルバイトをしていることになる。留学生アルバイトの数は5年前と比べて約2.5倍に伸びている。


⑰ 当然,外国人労働者全体の数も増加傾向にあり,この10年で約2.6倍に増加した。その数は、現在約128万人。届出が義務化されてから過去最高の人数だ。


⑱ 100万人を超える外国人はどのような職種で働いているのだろう。その割合を見てみると,もっとも多いのが「製造業」の30.2%(このほとんどが技能実習生である。技能実習生は留学生と違って,それぞれの事業所で個別の技術を習得する目的で入国しており,各事業所と雇用契約を結んでいるので,コンビニなど別のアルバイトをすることはできない)。製造業に次いで多いのが,コンビニやスーパーなどを含む「卸売業・小売業」の13%。そして「宿泊業・飲食サービス業」(12.3%)と続く。


⑲ こうして見ると,すでに多くの業種で,現場に外国人労働者がいるのが当たり前の状況になっていることがわかる。たとえば,早朝のコンビニでおにぎりをひとつ買うとしよう。具は「いくら」でも「おかか」でも何でもいい。その物流行程を逆回転で想像してみてほしい。おにぎりを買ったレジのスタッフは外国人のようだ。その数時間前,工場から運ばれてきたおにぎりを検品して棚に並べたのも別の外国人スタッフだ。さらに数時間前,おにぎりの製造工場で働いていたのも6~7割が外国人。日本語がほとんど話せない彼らをまとめ,工場長や各部署のリーダーからその日の業務内容などを伝えるスタッフも別の会社から派遣された外国人通訳である。そして,「いくら」や「おかか」や「のり」の加工工場でも多くの技能実習生が働いている。さらにその先の,米農家やカツオ漁船でも技能実習生が働いている可能性は高い。

⑳ このようにコンビニのおにぎりひとつをとってみても,大勢の外国人に頼っていることが容易に想像できる。大げさに言うなら,ユネスコの無形文化遣産に登録された「和食」もすでに外国人の下支えがなければ成立しないというわけだ。ダシとして和食の基本となるカツオ節やコンブの加工工場でも外国人が働いているわけだから。


21 あまり人目に触れていないだけで,日本はすでに外国人の労働力抜きには成り立たない経済構造になっているのだ。日本人の生活は,すでに外国人労働者にすっかり依存している状況なのである。コンビニでよく見かけるようになった外国人スタッフは全国で約4万人いるが、それでも128万人という全体からすればほんの一部にすぎない。


22 在留外国人や外国人労働者が年々増加していることがわかったところで,彼らに対する日本政府の主な対応をまとめておこう。最初に確認しておくと,政府は2017年6月の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」において,外国人労働者の受け入れについて「真摯に検討を進める」という表現を使ったが,「移民」の受け入れについては認めていない。もちろん「移民」に関する社会政策もなく,法制度も整っていない。安倍首相も再三にわたって「移民政策をとることは断じてありません」と明言している。


23 しかし,これまで見てきたように,事実として日本で働く外国人の数は増えている。外国人の流入者数を見れば,すでに(2)2014年の時点で,経済協力開発機構(OECD)に加盟する34カ国(当時)のち日本は世界第5位の「移民流入国」だという報告もある。

24 にもかかわらず,政府は「移民」を認めていない。


25 政府の方針をわかりやすくいえば,「移民」は断じて認めないが外国人が日本に住んで働くのはOK。むしろ積極的に人手不足を補っていきたい,ということだ。


26 外国人の受け入れには積極的なのに,なぜ政府は「移民」の受け入れを認めないのか。ここであらためて「移民」という言葉について考えてみたい,じつは「移民」という言葉には国際的に統一された定義はない。日本の法務省や外務省にもこれまではっきりとした「移民」の定義はなかった,と言えば驚く人も多いのではないだろうか。


27 一般的な会話の中で使われる「移民」のイメージは「経済水準の低い国から高い国へ入国して生活している人たち」を指すことが多いが,国連などの国際機関では,1年以上外国で暮らす人はすべて「移民」に該当すると解釈している。つまり,国連などの定義に照らせば,イチローも「移民」であり,日本に住んでいる約247万人という在留外国人はほぼ「移民」である。


28 しかし,2016年5月24日,日本は独自に「移民」を定義づけた。自民党が掲げた労働力確保に関する特命委員会の報告書「『共生の時代』に向けた外国人労働者受入れの基本的考え方』において,「移民」についてはじめて定義しているのである。


29 外国人労働者の問題に詳しい日本国際交流センター執行理事の毛受敏浩氏は著書の中で,その報告書について「外国人労働者政策の抜本的な転換を求める意味で画期的なものだった」としながらも,「移民」の定義については「世界的に見ても例のない奇妙な」ものだと述べている。


30 その定義とは,「『移民』とは,入国の時点でいわゆる永住権を有する者であり,就労目的の在留資格による受入れは『移民」には当たらない」というものだ。つまり,入国の時点で永住権を持っていなければ,正規の労働資格を得て10年以上日本に滞在し,国税や年金保険料を欠かさず納め,最終的に永住権を獲得したような外国人でも「移民」ではないのである。法務省の了解も得ている正式な定義だという。


31 報告書の中には,外国人の単純労働についての記述もある。「介護,農業,旅館等特に人手不足の分野があることから,外国人労働者の受入れについて,雇用労働者としての適正な管理を行う新たな仕組みを前提に(中略)必要性がある分野については個別に精査した上で就労目的の在留資格を付与して受入れを進めていくべきである」。


32 わかりづらい書き方をしているが,これは,将来的には制度を整えた上で,単純労働の分野でも外国人を受け入れる可能性があることを示したものと考えられる。しかし,これほどまでに政府が「移民」という言葉を避ける理由は何だろうか。改めて毛受氏に尋ねてみると,一般の国民に“移民アレルギー”があります」という答えが返ってきた。


33 「2016年にヨーロッパで、立て続けに起こったテロ事件などが影響して,『移民』=犯罪者というような悪いイメージを持っている人が多かったり,『移民が増えれば犯罪率が上がって,雇用の機会も奪われる』というように,正しい理解がなされていないことも原因ではないかと思います。政府として“移民政策"を展開していくにはまだハードルが高いのであれば,「移民」という言葉を使うのはやめて,たとえば,“定住外国人政策“だったり,“アジア青年日本活躍事業”とするのもよいのでは。「移民」という言葉にアレルギーがあるならそのほうが話は早いと思います」。


(芹澤健介『コンビニ外国人』による。ただし,出題に際しては原文の一部を改めた。


設問1 下線部(1)にある,いまコンビニに起きている“異変¨とはどのようなものと考えることができるか,本文に即して100字以内で要約しなさい。


設問2 下線部(2)の,ある種矛盾した状況について。本文の内容に即して300字以内で説明しなさい。


設問3 移民の受け入れに対するあなたの考えを500字以内で論じなさい。


(2)解答例


設問1


初めは東京のコンビニで外国人スタッフが雇用され、それが地方にも広がり、いまや急速に全国に拡大している。その数は4万人を越え、大手4社のコンビニで働くスタッフ20人のうち全国平均で1人は外国人という変化。(200字)


設問2


在留外国人や外国人労働者は増加傾向にあり過去最高の人数となっている。コンビニの留学生アルバイトのほか、製造業を中心に卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業などすでに多くの業種で現場に技能実習生を初めとする外国人労働者がいるのが当たり前の状況になっている。あまり人目に触れていないだけで,日本はすでに外国人の労働力抜きには成り立たない経済構造になっている。日本人の生活は,すでに外国人労働者に依存している状況である。これに対して政府は「移民」は認めないし「移民」に関する社会政策もなく法制度も整っていない一方で、外国人が日本に住んで働くのは可能で、むしろ人手不足の補完から積極的に導入を認めていること。(300字)


設問3


 新たな在留資格として特定技能が導入された。これにより家族帯同で働く外国人や日本で育ち学校に通う外国人労働者の子どもも今後は増加すると予測される。少子高齢化と人口減少がさらに進展する日本の社会において、こうした子どもたちの中には、将来永住資格を取り、日本を支える貴重な人材となる。このような長期的なヴィジョンの下に考えると、外国人やその子どもたちに対する社会政策は早急に立てられるべきであり、そのための法整備も急ぐ必要がある。


 外国人労働者、特に外国人技能実習生の待遇には多くの問題がある。この人々は1年目も最低賃金は適用されず、2年目以降も転居・転職の自由はなく、残業代未払い、旅券取り上げ等、劣悪な職場環境が多く、脱走する者が後を絶たない。外国人労働者の労働基本権を確保し、待遇を改善することが喫緊の課題である。特定技能で増える外国人の子どもに対する教育支援なども今後とも充実させる必要がある。


 社会経済を維持する医療・福祉、農業、小売・販売などのエッセンシャルワークの重要性がコロナ禍において痛感させられた。現在、こうしたエッセンシャルワークの担い手の多くは外国人に委ねられつつある。彼ら彼女らを企業の都合により採用、雇止めする使い捨て労働力にしてはならない。グローバル化が進展したいま外国人との共生社会に向けた取り組みを進めることが私たちの責務である。


(500字)


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