【壊す・ずらす・型から出る】日本大学芸術学部小論文対策
大学入試小論文を長年みてきた私にとって、小論文の双璧は慶應義塾大学と日芸だ。
日本大学芸術学部の場合、小論文に加えて、作文を科す学科がある(文芸・放送)。
この作文がクセモノで、書くとなったら小論文よりも難しい。
方法としては、同じ文章表現でありながら、小論文の真逆をいかなければならない。
小論文では、自分の意見には必ず理由や根拠を添える。論理の飛躍は許されず、表現も緻密に順を追って説明しなければならない。
作文では、意見を書いてもよいが、ガチガチに理由を固めると、とたんにつまらなくなる。論理よりむしろ感性のキレで勝負する。
表現もいちいち説明するのではなく、あえて書かないことで、行間を読ませて、読者の想像に委ねる。
だから、学校や塾・予備校の教師の言う通り書いていると、日芸はとうてい受からない。
ぶっちゃけ、自由にけばよいのだが、オリジナリティがキモなので、型にはまった教師の指導を鵜呑みにしていては合格は難しい。
いかに型から脱するかが勝敗の決め手なのだが、だからと言って無茶苦茶に書けばいいというわけでは当然なく、型をわかっていないと、型を壊したり、ずらしたりすることはできない。
私個人としては、型破りの人間なので、日芸の問題が断然おもしろい。
たとえば、次の映画学科の問題。
芸術論なのだが、私が指導するときには、必ず、まず最初に定義から始めて議論しなさい、と言う。
しかし、芸術については例外だ。
芸術を定義できない。定義してはいけない。「定義できないものが芸術だ。」と定義するほかない(これでは定義になっていないが)。
なぜ、定義できないかというと、芸術はどんどん変わっていくものだ。定義した途端にそれをすり抜けて、新しい芸術がどんどん生まれる。
「芸術作品は後世の時代に残るもの。」と定義したところで、それは後世からの結果論であって、同時代に生きる私たちが現代アートを「この作品は後世に伝えられる価値があるから芸術だ」ということはできない。
そこで、結局「芸術はひとの魂に触れ、心をゆる動かすもの」といった定義が無難ということになるが、「芸術」というわからないものに対して「魂」や「心」といった、これまた定義するのが厄介なもので説明するわけだから、これがきちんとした定義になっているかは、大変心もとない。
「芸術」の定義なしで芸術論を述べるのだから、なかなかうまく結論に収まるかは書いてみないとわからない。そして結局は失敗する。
今回のテーマの「本物」とは、という議論もそうだ。
ベンヤミンが「複製技術時代の芸術」すでに述べているように、版画や映画などに代表されるように、現代の芸術は本物/偽物(オリジナル/コピー)の区別があいまいになってきている。いや、区別すること自体がナンセンスとなっている。
そういうなかで、AIが描いた絵画を[本物/偽物]で評価しようとするのだから、難しい。
市井の人々は芸術家(レンブラント)が描いたものは「本物」で、AIが描いたものは「偽物」であることは明白だ。こう言うかもしれない。
しかし、ことはそれほど単純ではない。
芸術にはパロディやオマージュというものがある。和歌でいうと本歌取りが典型だ。
こうしたものはすべて芸術作品として価値がない偽物だ、と言い切ってしまっていいのか。
今回の小論文の課題はこのような問題も含めて、じっくりと考えてみなければならない難しいものだ。
「複製技術時代における芸術の意味」日本大学芸術学部映画学科A方式第1期2017年
次の文章を読んで、あなたの考える「本物の魅力」とは何か書きなさい。(800字)
① 柔らかな色彩、17世紀オランダの衣裳に身を包んだ男性を映し出す繊細な光と影。同時代を生きた画家レンブラントの傑作発見か、と見まがうばかり。この新作『ネクスト・レンブラント』を描いたのは、人工知能(AI)だ。
② 先週、アムステルダムで披露されたこの作品の制作には、第一線の人材と技術が投入された。マイクロソフトやオランダのデルフト工科大学、ハーグのマウリツハイス美術館やレンブラントハイス美術館から、データサイエンテイストや技術者、美術史家が集結した。
③ 18ヶ月かけてレンブラントの全346作品の画風をAIが学習。そのデータを基に3Dプリンターで「描いた」油絵は、解像度1億4800万ピクセルと細密だ。
④ プロジェクトテームはレンブラントが得意とした肖像画に注目した。特に全盛期の632~42年の画風から、モデルの年齢、ひげ、頭の向きなどを決定。実在しない男の輪郭を生き生きと描き上げた。
⑤ 「レンブラントのさまざまな絵画から膨大なデータが集まった」と、デルフト工科大学のヨリス・ディク教授は振り返る。「彼らしい絵を実際に描けるのか、魅力的な挑戦だった」
⑤レンブラントの画風を捉えるため、AIの顔認識技術を活用した。全作品の光の組成要素と絵の具の原料を基に、ピクセル単位で解析。それを踏まえてAIが創作した「図面」の上に、3DプリンターでUVインクを13層に塗り重ねる――こうして、レンブラントらしい質感と陰影が再現されていった。
⑥ 「人間の魂に触れる作品」と、マイクロソフトのエンジニア、ロン・オーガスタスは絶賛するが、美術界の評価は歓迎一色ではない。「当代きっての識者がこんな愚かな『挑戦』に打ち込み、デジタル礼賛の風潮に流されて、これほど魂のないものを称賛しなければならないなんで」と、英ガーデイアン紙の美術記者ジョナサン・ジョーンズは酷評する。「奇妙な時代に生み出された、恥ずべき作品だ」AIの次なる課題は「魂」の解析と、評論家の歓心を買う学習かもしれない。(Newsweek、20、2016年4月19日)
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