【喜怒哀楽】日本大学芸術学部放送2018年
(1)日芸の小論文は早慶に匹敵する難しさ
難しさで言えば、慶應義塾大学総合政策学部の小論文が大学入試小論文の最高峰だと思っている。
次いで、慶應義塾大学環境情報学部と早稲田大学スポーツ科学部、慶應義塾大学の文・法・経済学部と続く(慶應の商学部は小論文とあるが、別物。強いて言えば総合問題)。
ところが、いざ教えるとなると、難しいのは日本大学芸術学部が早慶に匹敵する。
形式としては、近年の早稲田大学スポーツ科学部に近い。
注意したいのは、日芸の一部の問題は小論文ではなくて、作文だ。
だから、小論文で教えたことが通用しない。
(2)小論文と作文は何が違うか
それでは、「小論文と作文は何が違うか」という疑問がすぐに浮かぶ。
大きな相違点は3つある。
①小論文は意見を書いて、論拠や理由を添える。作文は意見や感想を書くが、理由は付けない。
理由を添えると、リクツになって硬くなる。作文は感性のキレで勝負するので、理由を付けると切れ味がそがれる。
②小論文は意見の内容が重要であるが、作文は内容よりもむしろ表現が大切。凝ったストーリーは必要ではない。むしろ、無理にオチをつけようとすると、たいてい失敗する。
③小論文は丁寧に説明して、論理の飛躍は許されない。一方、作文(エッセイや小説)は、あえて説明せずに読者の想像に委ねる。読者に行間を読ませることで、作品に奥行きや味わいが出る。
(3)問題
能書きはこれぐらいにして、実践例でご理解いただこう。
日本大学芸術学部放送2018年問題
「喜怒哀楽」(600字以内)
(4)考え方
攻め方は2つある。
①喜怒哀楽について思うことを書く。
②喜怒哀楽を表現する。
①の攻め方は、人間の感情は「喜怒哀楽」の4つに截然と分けることができないよ。例えば、哀しみと怒り、悲しみと楽しみが混在していることがあるり、こうした矛盾こそが人間存在の本質なのだ、という具合で書く。
その際、顔の表情筋で感情を表出するAIとの違いを比較してみるのもいいだろう。
ただし、この攻め方は小論文ぽくなってしまうので、あまり理屈で硬くならないように配慮することが必要だ。
今回は②の攻め方で解答例を書いてみた。
この場合も、あまり倫理的に、「人として正しく」書くと説教臭くなってしまうので、なるべくダメ男君の設定で書いたほうが面白いかもしれない。
(5)解答例
志望大学に無事、入学できた。ぼくの心は卵から孵った鳥の雛が、所狭しと地面を駆け回っているようだった。小鳥がさえずるように、毎日、口笛を吹きながら大学へ通学した。
授業が始まったが、講義の内容は高校レベルを超えている。僕の理解力ではとても授業についていけない。周囲の学生は教授の話に時折うなずきながら、懸命にノートをとっている。一方で、こちらは上の空で、シャーペンを持つ手にも力が入らない。ぼくはこの大学を勧めた高校時代の担任教師の顔を思い浮かべた。そのあばた顔の似顔絵をノートに描いて、シャーペンの先で突き刺すと、塞いだ心から少し空気が抜けるような思いがした。
ある日、大教室で講義を受けていると、後ろに座っている女子学生、この娘は入学式のときから気になっていたのだが、この憧れのマサミにシャーペンで突いた跡がある穴だらけのノートを見られて、クスリと小さく笑われたような気がした。僕はとたんになんだか自分がみじめに思えた。
その日以来、僕は大学の授業を休むようになった。しばらく欠席が続いたある日、マサミからメールが届いた。
教室でしばらく顔を見ないので、皆心配してるよ。5月病にかかっちゃったのかな? 今度、コンパがあるので、顔を見せにおいで。
この文面を読んだあと、地面から飛び立つ羽音が聞こえた。コンパで酔ったふりしてマサミに告白しちゃおうかな。(593字)
(6)ワンポイント解説
①表現の幅を広げる
解答例の第一段落の「所狭しと(地面を)駆け回っている」は、字義的に言えば、誤用だ。
「所狭しと」は「置いてある」というように使う。
たくさんの物が置かれているので、スペースを取られて空間が狭くなってしまっている状態を指す。
しかし、表現の幅を広げるために、普通は使わない「駆け回る」に「所狭し」という言葉をぶつけてみた。
「空間が狭く感じられるど、あちこちをしきりに駆け回る」というイメージを浮かべてもらえれば、という意図だが、採点官に誤用として減点されるリスクが高い。
だが、あえて日芸の教員レベルの高さを信じて、あえて誤用の実験をしてみた。
文章を巧くなるには、攻めること。
そして、読者を信じることが大切だ。
(これは、早慶や日芸だけ。レベルの低い大学では、意図を汲み取ってもらえずに、単なる誤用と取られて減点される)
②作文では比喩表現を使う
解答例の第一段落ではもう一つ工夫をした。
「卵から孵った鳥の雛」という隠喩を使ってみた。
小論文や作文で大事なのは、第一段落で小技を利かせたら、最終段落でも、もう1回同じ技を使うこと。
今回は第五段落で「地面から飛び立つ羽音」というように、鳥の比喩でまとめてみた。
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