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【本当は教えたくなかった】東京農業大学小論文の勉強法(第1回)

(1)はじめに

今日から数回にわたって、東京農業大学小論文の勉強法を書いていきます。

いま、日本の農業は大きな転換点を迎えています。

これから現代日本農業の直面する課題を読者のみなさんと一緒に考えていきたいと思います。このような試みが東京農業大学小論文の対策に直結します。

第1回の今日は、「農業の機能」の話です。

「農業の機能」という言葉が難しければ、「農業の働き」「農業の役割」というような言葉に置き換えても意味はだいたい同じです。

「農業の機能」を考える場合、「食料・農業・農村基本法(新農業基本法)」を読むことから始めてください。

(2)「食料・農業・農村基本法」を読む

この法律の骨子のうちの「第1 基本理念」を何度も繰り返し読むことをお勧めします。

それでは、以下に掲載します。

<1>食料の安定供給の確保

1.食料は、人間の生命の維持に欠くことができないものであり、かつ、健康で充実した生活の基礎として重要なものであることにかんがみ、将来にわたって、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給されなければならない。

2.国民に対する食料の安定的な供給については、世界の食料の需給及び貿易が不安定な要素を有していることにかんがみ、国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと輸入及び備蓄とを適切に組み合わせて行われなければならない。

3.食料の供給は、農業の生産性の向上を促進しつつ、農業と食品産業の健全な発展を総合的に図ることを通じ、高度化し、かつ、多様化する国民の需要に即して行われなければならない。

4.国民が最低限度必要とする食料は、凶作、輸入の途絶等の不測の要因により国内における需給が相当の期間著しくひっ迫し、又はひっ迫するおそれがある場合においても、国民生活の安定及び国民経済の円滑な運営に著しい支障を生じないよう、供給の確保が図られなければならない。

<2>.多面的機能の発揮

国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等農村で農業生産活動が行われることにより生ずる食料その他の農産物の供給の機能以外の多面にわたる機能(以下「多面的機能」という。)については、国民生活及び国民経済の安定に果たす役割にかんがみ、将来にわたって、適切かつ十分に発揮されなければならない。

<3>農業の持続的な発展

農業については、その有する食料その他の農産物の供給の機能及び多面的機能の重要性にかんがみ、必要な農地、農業用水その他の農業資源及び農業の担い手が確保され、地域の特性に応じてこれらが効率的に組み合わされた望ましい農業構造が確立されるとともに、農業の自然循環機能(農業生産活動が自然界における生物を介在する物質の循環に依存し、かつ、これを促進する機能をいう。以下同じ。)が維持増進されることにより、その持続的な発展が図られなければならない。

<4>農村の振興

農村については、農業者を含めた地域住民の生活の場で農業が営まれていることにより、農業の持続的な発展の基盤たる役割を果たしていることにかんがみ、農業の有する食料その他の農産物の供給の機能及び多面的機能が適切かつ十分に発揮されるよう、農業の生産条件の整備及び生活環境の整備その他の福祉の向上により、その振興が図られなければならない。

(3)農業の機能を考える

食料・農業・農村基本法の上に引用した部分に農業の機能が書かれています。

簡単に解説します。

従来の農業の機能は食料の安定供給でした。

食料は人間の生命を維持するのに欠かせない資源であり、食料問題が国際紛争や戦争の背景になります。

そこで、国の安全を保障し、人々の生命や生活を守るために農業の働きが重要視されてきました。これは現在も変わりません。

この食料の安定供給は当たり前すぎて、人々はあまり深く考えない問題ですね。

特に高度経済成長以降の日本では深刻な食料危機に見舞われることもなく、例外はありますが、餓えて死ぬ人もあまり見られません。

ですから、最近の食料をめぐる問題は、安定供給よりもむしろ「食の安全と安心」をめぐるテーマがマスメディアなどで広く取り上げられることが多いようです。

たとえば、東京中央卸売市場が築地から豊洲に移転する問題や残留農薬や食品添加物の問題、福島第一原発事故後の食の安全性と風評被害などを思い起こすことができます。

これらの問題は後日、このブログで取り上げる予定です。

食料の安定供給をめぐる議論では、何も無理して国内の食料自給率を上げることはない。

食料は海外の輸入品で十分にまかなうことができる。

だから、むしろ農作物を完全に自由化して関税を撤廃すれば、もっと安い食料が海外から手に入ることになるので、さらに貿易の自由化を進めよという意見が起こってきました。

これがTPP(環太平洋経済連携協定)の締結につながることとなります。

TPPの話も後日詳しく解説することにします。

こんなわけで、食料の安定供給の確保という議題で話を進めると、食料は輸入品で十分に足りるから、日本の農作物は不必要という結論になる危険性があります。

そうなると、場合によっては国内農業の衰退をさらに加速させることにつながるわけです。

そこで、近年では食料の安定供給以外の農業の多面的機能が注目されるようになりました。

(4)農業の多面的機能を考える

もう一度、食料・農業・農村基本法に目を通すと、農業の多面的機能について、以下の項目を並べています。

国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承

言葉が少し難しいので、以下に項目ごとに解説を加えていきます。

(5)国土の保全

国土の保全とは、災害から日本の国土を守る、ということです。

近年、地球温暖化の影響で、台風や大雨による深刻な被害が増えてきました。

下の表は2015~2017年の3年間の激甚災害の指定状況です。

近年の激甚災害

毎日新聞2017年9月15日 東京朝刊より引用させていただきました。

台風や梅雨前線による豪雨被害が多いことがわかります。

このような河川の氾濫による洪水被害が起こる原因として考えられるものは、地球温暖化のほかに、農業の衰退が指摘されます。

近年、農業人口が減少し、耕地面積も減ってきています。

水田は「自然のダム」とも呼ばれていて、保水機能を持っています。

降った雨がいったん田んぼに貯蔵されて、雨水をキープするのです。

ところが、最近は農業の衰退とともに水田も減少して、その結果、降った雨が田んぼに蓄えられることなく、一気に河川に流れ込みます。

こうしたことで、急激に河川の水位が上昇して堤防が切れて川から水が溢れ出し、洪水被害をもたらすことになります。

こうしたことから考えると、農業には日本の国を災害から守る「国土の保全」機能があることが明らかです。

(6)水源のかん養

水源のかん養とは、「森林の土壌が、降水を貯留し、河川へ流れ込む水の量を平準化して洪水を緩和するとともに、川の流量を安定させる機能を持っています。また、雨水が森林土壌を通過することにより、水質が浄化され」ることを表します。

以上は林野庁のホームページから引用しました。

森林は、①で述べたような「国土の保全」機能のほかに、水を浄化して、良質な飲料水、農業用水を供給する大切な役割があります。

地方によっては地下水を水道の上水(飲料水)に用いている自治体があります。

水が地層に浸み込むときに、土壌がフィルターの役割を果たし、有害物や不純物を除去します。そして、ミネラル豊富なおいしい地下水をつくりだすことができます。

こうした地下水を井戸水としてそのまま利用したり、山からの湧き水を使ったりして、人々の暮らしに役立つことになります。

林業も木材の供給だけに限らず、私たちの生活に欠かせない重要な機能を担っています。

(7)自然環境の保全

農林業は多くの生き物と共存し、農作物だけでなくさまざまな動植物や昆虫などを育てます。

みなさんの家の近くに田んぼはあるでしょうか。

子どもの頃、田んぼで遊んだ経験がありませんか。

田んぼには、いろいろな生き物が住んでいました。

カエルやザリガニ、メダカやドジョウ。タニシなどの貝やゲンゴロウ、タガメなどの虫も住んでいましたね。

子どもの頃、ザリガニ釣りをして遊んだものです。

田んぼの生き物カエル
田んぼの生き物ザリガニ
田んぼの生き物メダカ

東海農政局のホームページより引用させていただきました。

かつての田んぼはこのように里山に生息する多くの生き物の住みかでした。

少し気の利いた言葉で表現するなら、農業は生物多様性の保持に貢献してきたと言うことができます。

しかし、最近、メダカやドジョウの姿をみかけることは少なくなりました。

なぜでしょうか。

それは農薬の使用です。

病虫害対策として農家は大量の農薬を使用することで、米の収穫量が増加した一方、多くの田んぼの生き物は姿を消してしまったのです。

農薬の過剰摂取は人体にも悪影響を及ぼします。

アメリカでも農薬の危険性が早くから知られていました。

この辺の事情はレイチェル・カーソンの「沈黙の春」に書かれていますので、興味がある人はぜひ読んでみてください。


近年では、食の安全性を求める消費者の声に押されて、無農薬や低農薬による栽培や有機農業などが見直されています。

農林業は多くの生き物と共存してきたと書きましたが、最近では野生動物の農業被害が多発し、動物の駆除が各地で議論されています。

害獣被害はむかしから知られていて、何もいま始まったことではありません。

しかし、近年深刻化しているのは、農村の高齢化により、山の動物を狩る猟師が少なくなってきたこと、気候変動や中山間地域の人口減少により、里山の生態系を維持・管理する人が少なくなってきたことが要因として指摘されています。

耕作地をつくるために木を伐り、山を崩して環境を破壊するという側面が農業にあることは否定できませんが、むやみに鳥獣類などの生き物の命を奪うようなことを農業に従事する人はしませんでした。

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環境と調和することが農業の持続可能性につながることを昔の人は知っていたのです。

このような知恵が急速に失われ、効率や生産性という経済的な原理だけで農業が営まれていることが大きな問題のように思われます。

(8)良好な景観の形成

棚田を見たことがありますか。

山がちの日本の国土で、むかしから人々は山奥の小さな谷間に至るまで田畑をつくり、農業を営んできました。

棚田①

棚田とは、山の斜面や谷間の傾斜地に階段状に作られた水田のことで、日本の原風景を思い起こされ、この光景を見ると心をなごまされます。

新潟県十日町市にある星峠の棚田は特に有名で、毎年全国から多くのカメラマンや観光客がこの風景を目当てに現地を訪れます。

このように棚田に代表される農業の景観は重要な観光資源として活用することもできます。

生まれたときから農村に住んでいれば見慣れている人にとっての日常的風景も、都会生まれの都会育ちの人にとっては、非日常的でお金を出しても見に来る価値のあるものになるのです。

こうした景観は農家の人たちの日々の営みによって長い時間をかけて形成されてきたもので、自然にできたものではありません。

そして、いまも農家の方々はこの景観を維持して後世に伝えようと努力をされています。

棚田を眺めるときは、美しい景観に感動するだけでなく、このような人々の苦労に少しでも思いを巡らしてもらえたらと思います。

(9)文化の伝承

農業と文化と並べて、みなさんはすぐにはそのつながりを見つけることが難しいのではないでしょうか。

英語で農業はAgriculture、文化はCulture のスペルで表記するように、本来、両者は切っても切れないつながりがあることは明らかです。

まず、春と秋のお祭りを考えてみてください。

春の祭りを代表する祈年祭(としごいのまつり)は、今年の豊作祈願に行われる祭りです。

秋に行われる新嘗祭(にいなめのまつり)は、その年収穫したばかりの初穂を神に捧げて感謝するものです。

このように、農村で行われる祭りの多くは農業と切っても切り離せない関係にありました。

お祭りでは神輿(みこし)が繰り出し、笛や太鼓の神楽(かぐら)が演奏されます。

地方によっては能が神社に奉納されるところもあるかと思います。

神楽や能はベテランから若者へと代々受け継がれてきたものです。

農村人口が減少して、祭礼を実施することが困難になっている地域も多いと聞きます。

農業が衰退すれば、昔から伝統的に行われてきた神楽や能などの文化が途絶えてしまいます。

こうして考えると、農業は文化の伝承という重要な機能を持っていることがわかるかと思います。

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(10)まとめ

もし小論文で「農業の多面的な機能について書け」という問題が出題されたら、上記で記した5つの機能(国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承)のうちの1つに話題を絞って書くようにしてください。

小論文の答案作成の参考になれば幸いです。

【今回紹介されたテーマが出題される可能性のある大学・学部】

東京農業大学

慶應義塾大学総合政策学部

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