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【小論文・何から書き始めるのか?】定義から書く

(1)書き始めの工夫

小論文の初心者は何から書き始めてよいかわからない、という人が多いよいうです。

書き出すときの確実な方法として、まず「定義を固める」というものがあります。

テーマの核心となる定義をしないまま書くと、論を進めていくうちに内容がどんどんずれていったり、受験生が書いていることと読者(採点者)の定義とが異なるために、意図が正確に伝わらずに誤解を招いたりすることがあるので注意が必要です。

そうなると、減点をされて、合格の道は遠いこととなります。

(2)「平和」を定義する

たとえば、「憲法改正について」というテーマが出題されたとします。

憲法改正と言っても、広い内容を含むので、ここでは主に憲法9条の「平和主義」について論じるとしましょう。

現在でも、この9条をめぐる問題は憲法改正の大きな争点となっています。

論争の大きなポイントは、やはり「平和」をめぐる定義が与野党間でずれていることが背景になっています。

まず、野党側(かつての社会党や現在の共産党が典型)の考え方に近い形で「平和」を定義します。

その際、対義語を用いる方法があります。

「平和」の反対は「戦争」になります。

そこで以下のように「平和」を定義します。

【平和の定義/その①】戦争がない状態。自衛を除く、あらゆる戦争を放棄すること。ここでの自衛とは、個別的自衛権に限定される。

この定義は現行の憲法9条の以下の条文に近い定義になります。

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

自衛権には個別的自衛権と集団的自衛権とがあります。

それぞれの自衛権の定義は以下のようになります。

 1)個別的自衛権:外国から攻撃を受けた場合、自国が防衛にあたる。
 2)集団的自衛権:軍事同盟国に対して武力攻撃が発生した場合、
攻撃を受けた国と共同して防衛にあたる。

政府は(安倍政権が登場するまでは)長年にわたって個別的自衛権については行使できるが、集団的自衛権は行使できないという立場をとってきました。

この【平和の定義/その①】では、原則的には海外で国際紛争が起こった際に、自衛隊を派遣することはできない、つまり違憲になる可能性があります。

なぜなら、自衛隊の海外派遣は集団的自衛権の行使にあたるという解釈が成り立つからです。

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(3)もうひとつの「平和」の定義

しかし、政府はPKO協力法を1992年に制定し、カンボジアなど多くの国や地域に自衛隊を派遣してきました。

思うに、これは「平和」に対するもうひとつの考え方(定義)に基づく憲法解釈であったからということができます。

それでは、「平和」を別の観点から定義してみましょう。

【平和の定義/その②】世界各国の主権が脅かされるのを防ぎ、国際秩序が安定的に維持されている状態

【平和の定義/その①】が「日本の平和」に限定した定義であったのに対し、【平和の定義/その②】は「世界の平和」という広い視野に立ったものであり、「日本の平和」が保たれるのは、「世界の平和」の維持が前提にあるという論点を含みます。

この定義を正当化するには、以下の憲法前文を重視する論拠に立ちます。

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。                                われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。                          日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

上記のような平和の定義の延長線上には、国際平和のための自衛隊の海外派遣につながることは必然です。

PKO協力法の正式名称が「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」とあることからも、自衛隊の海外での活動が、【平和の定義/その②】に見られる平和と密接に結びついていることは明白です。

自民党の宮澤喜一内閣でPKO協力法が制定されて以来、自衛隊の海外派遣の道は徐々に拡大されてゆきます。

2014年、安倍晋三内閣は閣議決定で集団的自衛権の行使を一部容認して、憲法解釈を変更しました。

これを受けて2015年に安保関連法が制定されて、これまでに、南スーダンに派遣した陸上自衛隊の部隊に「駆け付け警護」などの任務が与えられ、海上自衛隊による「米艦防護」や北朝鮮のミサイル警戒にあたるアメリカ軍のイージス艦への燃料の提供といった新たな任務が行われています。

安保関連法では、自衛隊の後方支援は認める一方、直接的な戦闘は認めないという歯止めをかけて、憲法9条の内容に違反しないように配慮しているとされています。

こうした事態に対し、野党側は日本(自衛隊)が戦争に巻き込まれるのでは、という危惧の下に、政府を批判しています。

(4)まとめ

今回は「平和」の定義から憲法改正について論じました。

法学部などで「憲法改正」が小論文で出題されたときには、このような「平和」の定義から書き始める方法があります。

【平和の定義/その①】では、憲法の「平和主義」は「戦争放棄」のことであり、個別的自衛権に基づく自衛戦争以外のあらゆる戦争に自衛隊は加担しない立場から護憲を主張すればよいことになります。

【平和の定義/その②】では、憲法前文を根拠として、国際紛争の解決と日本の国際的に占める立場という観点から、世界の紛争解決に積極的に関与してゆくためには、現行の憲法は70年以上も前につくられたもので、現在の国際情勢に正しく対応することはできないので、改正するべきだ、という主張になります。

ちなみに、国会で「平和」の定義を論点に討論するべきと言う質問が野党側から提出されましたが、政府側からやんわりと交わされています。

生々しい政治の場では、小論文で扱う「まずは定義を固める」という議論では、おとなしいということなのでしょう。

追記.

ここまで書いてきて、気が付きました。

【平和の定義/その①】も【平和の定義/その②】も、現行の憲法に則っています。

だから、安保関連法も、憲法解釈を変えただけで、現在時点では違憲の法律ではありません。

(【平和の定義/その①】の定義から、安保関連法を違憲とする意見があってもいいと思いますが、現時点で裁判所では安保関連法を違憲とする判決は出ていません)

ですから、【平和の定義/その①】と【平和の定義/その②】とは護憲の根拠にはなっても、改憲の根拠としては薄いと思います。

現行の憲法で国際情勢の変化に対応できたのですから。

したがって、改憲論を主張するには、現行の憲法ではできないことを政府が将来、行うときが必ずくるので、こうした事態に対応するためには、改憲が必要という論の流れになると思います。

その際、「現行の憲法ではできないこと」とは何かを明言する必要があります。

そうすると、【平和の定義/その②】を根拠として「国際秩序が安定的に維持」するためには何が必要かを考えることになります。

それは、将来組織される可能性がある多国籍軍または国連軍に日本も参加して、戦闘行為を行うという可能性に言及しなければならないでしょう。

その際、「戦闘行為を行う」主体が自衛隊か、これとは別に組織された軍隊か、という議論に進むのが自然の流れになるのではないでしょうか。

ただ、このような議論には国民の間から相当な拒絶感が起こってくることが予想されます。

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