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【食料自給率の低下 】東京農業大学小論文の勉強法(第4回)/SFC受験生も必読

キーワード:食料安全保障論

(1)はじめに

日本の食料自給率の低下は早くから知られています。

その背景としては、産業の高度化、少子高齢化に伴う農業従事者の高齢化、地方の衰退そして自由化の流れなどさまざまな要因が複雑にからみあっています。

この食料自給率の低下は食料安全保障論(後で詳述します)の立場からは、喫緊の課題として、日本の農業の復活を声高に主張する意見がある一方で、これは構造的な問題なので、解決が不可能であり、むしろ日本はこの現実を受け入れるべき。食料だけでなく国際分業と自由貿易を進めることは、世界中の富を増やし、国際間の依存を緊密にすることで戦争を抑止するという、自由貿易推進論者の意見もあります。これはどちらが正しい、間違っているという問題ではなく、両者の主張に汲むべきところがあります。

このような背景の下、今回の入試小論文の問題は出題されています。

実は、今年(2021年)の慶應義塾大学総合政策学部の入試小論文では、この農業をめぐる自由貿易の問題が出題されました。

細川内閣がGATTウルグアイラウンドの交渉でコメの自由化を認めた案件について問題を分析し、システム思考の観点に立った改善の提案を行うものです。

この問題を考える際、今回の問題はちょうどよい予行演習となるでしょう。また、SFCでは複数の図表を分析し、これを基に独自の意見を考えるタイプの問題が多く出されているところに特徴があります。

以上の理由で、今回はSFC受験生は必須になります。

問題では、賛否の両方の立場から書くよう指定されていますが、東京農業大学受験生は入試本番で類題が出題された場合、あくまでも生産者農家の立場から「立場A:日本は食料自給率を高める必要がある」の視点で書くことをお勧めします。

👇2021年慶應義塾大学総合政策学部の入試小論文

https://nyushi.sankei.com/honshi/21/k13-61p.pdf

(2)問題

「日本の食料自給率とその向上の是非」愛知教育大学教育学部初等中等家庭前期2015年

以下の問いに答えよ。解答はすべて別紙解答用紙に記入せよ。

I 日本の食料自給率の現状について、資料1~資料5から2つ以上を用い、資料番号をあげながら述べよ。

Ⅱ これからの日本の食料自給率について、資料1~資料6を参考にして、以下の2つの立場にたって、それぞれ理由を明確にして述べよ。

立場A:日本は食料自給率を高める必要がある。

立場B:日本は食料自給率を高める必要はない。

食料自給率推移の国際比較
日本の食料自給率の推移
各国のPFCバランスの推移
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年齢階層別基幹的農業従事者数(2013年)

資料6 

 新聞記事社説「若者を農に誘おう 週のはじめに考える」(2013.12.1)
日本農業は従事者が高齢化し耕作放棄地も増えています。稼げる農業を育まないと後継者は細る一方です。若者を農へと誘う受け皿が必要です。経団連と農業協同組合(JA)のトップが、日本農業の競争力を強化するための作業部会を共同設置することで合意しました。

 経団連とJAは貿易交渉をめぐって利害が対立しています。経済界は関税を撤廃し、工業製品などの輸出が拡大することを期待しています。JAは関税維持による農産物輸入の抑え込みを望んでいます。目指す道が反対なのに、なぜ歩み寄ったのでしょう。

危機的状況の農の現場
 JA全国中央会の万歳章会長は米倉弘昌経団連会長との会談で、生産現場の急速な高齢化などを背景に「待ったなしの状況に置かれている」と率直に語りました。

 窮状に理解を求めた万歳氏に、米倉氏は農業と企業との連携が全国で三百事例に広がっている実態を紹介しながら、「強力に推進したい」とエールを送りました。連携とは農と企業が協働して販売・流通なども手がけ、収益増を目指す六次産業化などを指します。

 今や農業従事者の平均年齢は六十六歳を、コメの専業農家は六十九歳を超えました。環太平洋連携協定(TPP)などの貿易交渉があろうとなかろうと、危機的状況にあるのが現実の話です。

 2010年の農家一戸当たりの平均年間所得は三百八万円にとどまり、勤労者世帯を百八十万円以上も下回っています。これでは、なかなか若者に振り向いてもらえません。農林水産省の調査に、農家の九割が「農業経営の課題は所得の安定」と答えています。

 意外かもしれませんが、農業は日本に残されたビジネスチャンスの一つといいます。企業も黙ってはいません。富士通は、全国十カ所の農業生産法人と農業システム化の実証試験に挑んでいます。

 百ヘクタールの農地でゴボウやサツマイモ、大根などを生産している宮崎県の生産法人では、スマートフォンやGPS(衛星利用測位システム)を使って、追肥時期や雨量などの情報を一括管理・集計して栽培技術の最適化を探っています。

 きめ細かな品質管理が実現し、キャベツの収穫量が三割ほど増えたそうです。

 コメの減反廃止を契機に大規模化が予想される水田も視野に入ってきました。水田にセンサーやカメラを取りつけ、水の管理などを自動化するシステムです。カゴメは、現在約50%のジュース用国産トマトの割合を、全量国産に置き換える方針を打ち出しました。コストだけではなく、消費者の関心が強い品質や味覚などを含めて総合評価すると、全量国産でも採算がとれるといいます。

規模拡大とシステム化
 カゴメの契約栽培は約七百五十の生産法人や農家に広がり、すべてを国産にすれば新たな雇用も生まれます。農と企業の協働による農業経営・技術の革新は、稼げる農業への第一歩にもなります。互いに信頼関係を築き、他の農産物にも広げるべきでしょう。

 将来を嘆くだけでは前に進めません。統計に目をやると、農業経営の構造が静かに、かつ着実に変化している事実に気づきます。

 コメなど土地利用型農業の面積三百六十八万ヘクタールの三割強は、二十ヘクタール以上耕作する経営体が占めています。平均経営面積二・ニヘクタールのほぼ十倍であり、五十ヘクタールを超える生産法人なども三千近くに増えました。高齢化などで耕作を断念した農地を集め、コスト削減による収益拡大に果敢に挑んでいます。

 三十九歳以下の新規就農者も、親から農地を引き継ぐ自営就農者が減る一方なのに、農業とは無関係だった若者の新規参入は徐々に右肩上がりに転じています。農の第一線からわき上がるチャレンジ精神の広がりが期待されます。

農と企業の協働深化を
 現在、勤労者のほぼ五人に二人が派遣労働などの非正規雇用で、年収二百万円以下の勤労者は一千万人を超えています。企業の多くが、激化する国際競争を理由にして、労働力を低賃金の非正規雇用に押しやっているからです。

 若者の農業への新規参入は、利益を生み出すために勤労者の商品化をためらわない企業経営者への異議申し立てだと分析する専門家もいます。経済界はこうした指摘を真摯に受けとめ、農業との協働を誠実に進めたらどうでしょう。

 世界の人口は五〇年に九十億人を超える見通しです。それなのに日本の食料自給率は先進国中最低の39%(カロリーベース)。食料の安全保障は危うい。稼げる農業を目指す若者の受け皿づくりを積極的に後押しすべきです。私たち消費者も、食べつつ、考えてみたいものです。

出典

資料1 農林水産省大臣官房食料安全保障課「食料需給表平成24年度」平成25年8月公表(http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/,ダウンロード年月日:2014年5月21日)

資料2 農林水産省大臣官房食料安全保障課「食料需給表平成24年度」平成25年8月公表(http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/,ダウンロード年月日:2014年5月21日)

資料3 農林水産省「平成22年度食料・農業・農利白書」平成23年5月公表
(http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w maff/h22/zenbu.html,ダウンロード年月日:2014年6月18日)

資料4 農林水産省国際部国際政策課「農林水産物輸出入慨況2013年(平成25年)確定値」平成26年3月公表http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/houkoku_gaikyou.htmlダウンロード年月日:2014年6月18日)

資料5 農林水産省「平成25年度食料・農業・農村の動向平成26年度食お|・農業・農村施策概要」(http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h25/index.html,ダウンロード年月日:2014年6月18日)

資料6 中日新聞朝刊2013年12月1日

(3)グラフの読み取り

資料1.食料自給率推移の国際比較

2009年のグラフから、食料自給率が高い国は、カナダ、アメリカ、フランスの順になります。日本は最下位で50%を下回っています(2021年現在は40%を下回る)。先進国の中では最も自給率が低い国になります。

カナダ、アメリカ、イタリアなどは近年、食料自給率が上昇しているのに対し、日本は一貫して下がり続けています。

カナダ、アメリカ、フランスは食糧自給率が100%を越えており、食料輸出国にあたります。

食料自給率が50%に満たない日本の場合には、過半の食料を海外から輸入している事実も看過することはできません。

資料2.日本の食料自給率の推移

日本で比較的自給率が高いものは、米(90%以上)、野菜(80%弱)で自給率が低いものは、小麦(20%以下)、果実も40%を切っている。

魚介類と肉類の自給率は60%を切っている。このグラフからは読み取れないが、和牛などの高級ブランド牛は国産であり、これに比べて廉価な牛肉、豚肉、鶏肉は輸入品が多い。これは資料4.で詳しく見ていく。

米を除き、日本の食料自給率は1965年から2012年にかけて概ね低下傾向にある。

資料3.各国のPFCバランスの推移

PFCバランスとは、供給熱量の栄養素別構成比(P:タンパク質、F:脂質、C:炭水化物)である。

栄養学部や家庭科教員免許取得をめざす受験生は、まさにPFCバランスの取れた食事ができているかという観点でこのグラフを見る必要がある。

しかし、この問題では(東京農業大学やSFC受験生)は、脂質と炭水化物に着目すればよい。

脂質を摂取する割合が高いのは、食事で肉類を多く食べていることを意味する。肉類は穀物などに比べ価格が高いので、F:脂質を多く摂取している国(米国、フランス)は先進国であり、国民所得が高いので肉類を多く買うことができると考える。

もっとも、食文化の面で欧米は狩猟・牧畜経済から文明化が始まった歴史的経緯によって、もともと肉食の傾向にあると見ることもできるが、今回はこうした文化的・歴史的背景は考慮にいれる必要はない。

次に昭和40(1965)年から平成19(2007)年にかけての変化を見る。

日本では16.2%から28.4%へ、中国では14.7%から27.3%へとPFCバランスの脂質が占める割合が高まったことが見て取れる。

これは、経済発展に加えて食の欧米化が進んでいることを示している。

一方、インドは13.8%から18.5%へと脂質の比率はゆるやかな上昇にとどまっている。

インドはBRICsの1国として、近年めざましい経済成長を遂げているが、人口が多く、所得格差が進展している。

貧困にあえぐ国民の多くは肉を多くは食べられない状況にあるようだ。ただ、インドの場合、ヒンドゥー教徒が多く、肉食の禁忌(特に牛)があり、ベジタリアンも多く、こうした文化的な背景も大きいに違いない。

だが、先に述べたように、こうした事情は今回の答案では考慮に入れなくてよい。

次にP:炭水化物であるが、これは穀物を表す。日本では、米やパン、麺類で摂取する。

昭和40(1965)年から平成19(2007)年にかけての変化を見ると、73.6%から58.6%へと、炭水化物の摂取量が激しく低下している。

つまり、主食(米やパンなど)が減って、副食(おかず)を摂る量が増えていることを意味する。

これは、食料自給率を高めるか否かの問題を考える際に、重要な論点になる。

資料4.農林水産物の主な輸入相手国・地域と輸入金額(2013年)、主な輸入品目と金額(2013年)

資料2と3.の読み取りを踏まえると、日本は自給率が低く、食卓に多く並ぶ肉類、小麦、果実などの食料をどこから輸入しているかを考える。

肉類については、豚肉は米国とカナダ、オランダ、チリから。牛肉は米国、豪州。鶏肉はタイ、ブラジル。鶏肉調整品は中国。

魚介類では、えび調製品はタイ。さけ・ますはチリ。えびとかつお・まぐろ類はインドネシア。

ちなみに調製品とは、加工品のこと。

野菜(冷凍野菜、生鮮野菜、乾燥野菜)は中国からの輸入が圧倒的に多い。

金額は米国が他を引き離してダントツである。中国からの輸入も顕著である。

さらに注意すべきなのは米国からの輸入品で穀物が多いこと。

とうもろこし、小麦、大豆が上位を占める。

これは何を意味するか。

日本人はそんなにとうもろこしを食べたっけ?

自分の家の食生活を思い出してほしい。

実は、「立場B:日本は食料自給率を高める必要はない。」を書く際に、この論点が最大のポイントとなる。

資料5.年齢階層別基幹的農業従事者数(2013年度)

このグラフで見るべきところは1点。基幹的農業従事者数のうち65歳以上が100万人いて、全体の61%という数字に注目するだけでよい。

この資料によって農家の高齢化が進んでいることを読み取れればよい。

日本の農業は、いわゆる3ちゃん農業と呼ばれている。

農業の担い手が「じいちゃん」「ばあちゃん」「かあちゃん」で構成されていて、「とうちゃん」や普段はサラリーマンや役場勤めで、休日など本業で手が空いたときにだけ農作業を行う(兼業農家)。

「にいちゃん」(息子)は都会に就学したあとは、実家に戻らずに都会で就職しており、農家は後継者不足に悩まされている。

資料6.

ここでは、六次産業化だけ解説しておく。

農業は第一次産業であるが、下のグラフのように、産業の高度化によって、いまや農林水産業は衰退の一途をたどっている。

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農家は農作物を生産しているだけでは食べてゆけない。

たとえば、イチゴ農家を例にとろう。

イチゴを生産して(第一次産業)、これをジャムやジュース、シャーベットなどの加工品にして(第二次産業=製造業)、さらにネット通販で売りに出したり、苺狩りの観光農園にしたりする(第三次産業=商業、サービス業)。

これを全部足せば(第一次産業+第二次産業+第三次産業=)第六次産業となる。

つまり、ただ作っているだけではなく、これに付加価値(ジャムやジュース、シャーベット)をつけて、売るのは農協や道の駅にまかせるのではなく、自ら市場を切り開いて、積極的に消費者のもとに打って出なければ、農家は生き残ることができない。

逆にこうした生産者が中間業者を通さずに直接、消費者に新鮮で安全、安心な農作物を届けることで、商機をつかみ、数千万円から億単位の利益を上げている農家や地域もある。

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(4)ヒント

解答例は下👇のオンライン授業を受講された方に配布しています。

ここでは、この問題を考える場合のヒントとなる資料を提示するにとどめます。

あまり教えてばかりいると本当の力はつきません。

あとは、ヒントをもとに自分の頭で考えてください。

資料A 食料安全保障論

食料を100%海外からの輸入に頼ってしまうと、世界的な不作や戦争に際して、食料輸入が途絶えて食料危機が起こる。このような事態が起こらないように、食料自給率を高めることが、国の安全保障につながるという考え。

資料B 遺伝子組み換え技術

●遺伝子組み換え技術の開発

利点は効率がいいこと。バイオテクノロジー(遺伝子工学)の力を使って植物細胞に強制的に入れ込むことで、植物細胞の中で組み込んだ遺伝子が計画した通りのタンパク質を作ってくれる。これにより、思わく通りの形質が植物体で現れる可能性がある。

●遺伝子組み換え作物の登場

① 今日では、ダイズ、トウモロコシ、ワタ、ナタネなどの遺伝子組み換え作物が製造・販売されている。このうち、トウモロコシは飼料としてアメリカ・カナダから多く日本へ多く輸入されている。

② 遺伝子組み換え作物は、除草剤への耐性や、害虫に対する抵抗性が付与された品種という特長を持つ。遺伝子組み換え作物の栽培は、この20年で、世界196か国に広がる。

●遺伝子組み換え作物の問題点

① 本来その作物にない様々な機能を持つ外来遺伝子を導入することにより、食品としての安全性が懸念される。

② 環境への悪影響(生態系が破壊される)。

③ 米国の種子メーカーが世界の農業市場を独占支配する懸念がある。

国際的な農薬メーカーで、自社の除草剤と、その耐性作物の種子をセット販売している。

●遺伝子組み換え作物の安全性に対する配慮

現在、商業栽培されている遺伝子組み換え作物(ダイズ、トウモロコシ、ナタネなど)については、欧米の主食であるパンの原料となるコムギや、アジアでの主食であるご飯(イネ)は含まれていない。

●遺伝子組み換え作物の対策

① カルタヘナ議定書(2000年)

遺伝子組み換えがなされた生物を規制する国際法。遺伝子組み換え生物の無秩序な利用が野生動植物の急激な減少などを引き起こし、生物の多様性に影響を与える可能性や、人の健康に与える危険性を考え、遺伝子組み換え生物の取り扱い、輸送および利用について取り決めている。遺伝子組み換え作物の作付面積が大きい米国、アルゼンチン、カナダなどはカルタヘナ議定書を批准していない。

② カルタヘナ法(2003年)

生物多様性への悪影響を未然に防止するため、遺伝子組換え生物等を使用等する際の規制措置を講じることを目的とする。例えば、遺伝子組換えトウモロコシの輸入、流通、栽培など、遺伝子組換え生物等の環境放出を伴う行為については、使用に先立ち、遺伝子組換え生物の種類ごとに、予定している使用によって生物多様性に影響が生じないか否かについて審査を受ける必要がある。審査の結果、問題が無いと評価された場合のみ承認を受けることができ、使用が可能となる。

③ 遺伝子組み換え作物を使用した食品の表示義務

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