見出し画像

【問題演習①自然との共生】要約のコツ

(1) 参考文を要約する

参考文を踏まえた上で、自分の意見を述べること。 

【小論文のコツ①】要約問題がついていない場合でも、要約してから意見を書く。

 大学入試小論文では、参考文をもとに自分の意見を書かせる出題型式をとる場合が多い。

 その際、いくら論理的で正しい文章を書いても、参考文の内容とは無関係であったり、参考文の論旨から大きく外れたりした文章では、高い評価を受けることはできない。

 意見を書く場合、「要約しなさい」という問題がない場合でも、要約を前提に答案を書くことが求められる。

○参考文を要約するときに気をつけておかなければならないこと

   ①意味段落ごとに参考文の要約をする。

   ②対比関係に注目する。

   ③具体的な表現と抽象的な表現の転換を捉える。

(2)演習問題

問題 次の文章を読み、以下の問いに答えなさい。120分

 被災地で考えたこと 「自然との共生」

1⃣いろいろ考えさせられたことの1つが 「自然との共生」です。日本は地震国です。地震に伴う大津波も、過去にも何度も経験しています。また、年によっては1年に10もの台風が上陸する台風国でもあります。モンスーン気候帯に属し、急峻な山林が国土の70% 近くを占めるなど、大雨による洪水や土砂崩れなどの自然災害の起こりやすい国です。石巻には、頑丈な護岸堤防がありました。市も人々も安全だと信じていました。しかし、今回の津波はその堤防をやすやすと超え、市内をめちゃくちゃに破壊し、大きな被害を出したのです。地震や津波という自然の脅威の前に、人間や人間がつくったものがいかにもろいかということを痛感しました。私たちはよく「自然との共生」という言葉を使います。企業のCSRレポートなどにもよく登場しますし、町づくりの議論には必ず出てくる言葉です。でも、これまで私たちが使ってきた 「 自然との共生」とは、とても薄っぺらくて、甘いものだったのじゃないか? と思いました。まるで 「箱庭」か何かのように、自分たちに襲いかかってくることのない、自分たちが愛でる対象としての自然を近くに配することを 「自然との共生」と言ってきたのではないか、と。

2⃣石巻をはじめ、ほとんどの町づくりは、「津波が来ても大文夫という、頑丈な堤防を造る」という、人間の工学で自然の脅威を押え込むという発想が基盤になっています。しかし今回の津波は、人間の工学の想定以上の強さだったので、うまくいきませんでした。では次にはどうしたらよいのでしょうか? もっと強くもっと高い堤防を造ればよいのでしょうか? 釜石市でも、堤防を乗り越えて津波が押し寄せ、大きな被害を出しました。以前にこの地を襲ったチリ地震津波を教訓にして建てた巨大な堤防だったのですが。一方で、今回大きな被害を受けた岩手県宮古市でも、姉吉地区にいた住民は全員が無事でした。姉吉地区は一八九六年の明治三陸大津波、一九三三年の年の昭和三陸津波のとき、集落がほぼ全滅する被害を受けました。生存者はそれぞれ2人と4人だったといいます。この地区の海岸から約五〇〇メートルの山道に、高き住居は児孫の和楽 想え惨禍の大津浪」と始まる石碑が建っています。「津波はここまで来た」「ここより下に家を建てるな」「幾年経るもの用心あれ」と刻まれた警告を、集落の人々は守り続けてきました。集落全戸が石碑よりも内陸側に建てられていたため、今回の津波で人命にも家屋にも被害はなかったそうです。

3⃣昔から、アジアのモンスーン地帯には 「氾濫原(はんらんげん)」がありました。台風などの大雨が降ると、洪水が起き、川の水が氾濫します。しかし、その氾濫のおかげで上流からの栄養が土地に行きわたり、その後の農作物の収穫を支えてくれるのだから、氾濫をむりに止めるのではなく、ときどき川が氾濫するだけの余地を 「氾濫原」として置き、もともとはそこには人は住まないことになっていた といいます。自然の揺らぎにあわせて人間のほうが身を引いていたのです。人口が増加し、「お金を払えばどこに家を建てても勝手だろう」という風潮が広がるにつれ、氾濫原に家が建てられるようになり、台風や洪水の被害が大きくなったとも言われます。 そういう川の近くに住みながら、高い堤防など工学に自然の脅威を抑え込むものを求めるようになります。

4⃣ 「生かされている」という、(英語にはしにくい)日本もしくは東洋の考え方があります。生きとし生けるものだけではなく、命のないものも含めて、あらゆるものがつながってあみだす網の目の一つの部分として自分が存在しているという意味合いです。老荘思想は、天(宇宙)の大もとのあり方― それをこちらが操作しようとか、抵抗しようとかするのではなく――に、自分のあり方を合わせていくのがいちばんスムーズな生き方だという考え方ですが、それを代表する概念が「無為自然(むいしぜん)」です。家をすべて流されて、避難所になっている地元のお寺で、高齢者など数十人の避難者のお世話役をしながら暮らしている女性が、「海が大好きなんです。津波が来て、家は流されましたが、仕方ないと思っています。テレビでは、海に裏切られたとか海を恨んでいるとか言いますが、自分はそんなふうには思ったことはありません。海が好きで海の近くに住んでいるのだから、仕方ない。また海のそばに住みます。今度はもうちょっと高いところに住もうと思っていますけど」と話してくれた時、この言葉を思い出したのでした。

5⃣無為自然の「自然」は「自ずと然り」という意味ですが、老荘思想では、そのためには無為が大事だと説きます。「無為」の逆は人為」です。人が何かをしてコントロールしようとすることです。工学的な技術を持って津波を抑えようとか、洪水を抑えようとすることは人為です。私たち人間は、自然を抑え込むべき対象としてみるべきなのでしょうか。それともそのゆらぎに自らの身を任せるのでしょうか。今回の震災は、私たち人間と自然との関係性や距離感を再考させる大きな機会になりました。石巻をはじめ、被災地では「地域の復興・町づくり」に向けた話し合いや取り組みが始まっています。「より高くて強い堤防を」という町づくりになるのか、今回の津波の記憶と「ここから先は自然の領域なのだから、住んではいけない」という学びを未来へ伝えていく町づくりになるのか。1つの正解があるわけではないでしょう。しかし、これからの町づくりでは、短期的な効率だけではなく、中長期的な しなやかな強さ(復元力、レジリアンス)を高めることも重視してほしい――そう強く願っています。(枝廣淳子の環境メールニュース(被災地で考えたこと「自然との共生」より一部抜粋・ 改変)

注.CSRレ ポート

企業が、環境や社会問題などに対して企業は倫理的な責任を果たすべきであるとするCSR(企業の社会的責任)の考え方に基づいて行う、社会的な取り組みをまとめた報告書のこと。

問1 筆者は「 自然との共生」についてどのようにあるべきと考えているか、400字以内で説明しなさい。

問2 人間の様々な活動は、科学技術の開発やその技術を用いた産業活動の進展とともに自然を容易に改変できるほどの力を持つようになり、21世紀初頭には様々な環境問題が表面化してきた。この環境の世紀に向き合いながら、これから「自然と共生する社会」をつくり上げていくためには、どのような価値観や施策が重要であるか、800 字以内であなたの考えを述べなさい。

熊本県立大学環境共生学部環境資源2013年度入試問題 「 自然との共生」

(3)要約のコツ

☞ここがポイント 意味段落ごとに要約する

●第1段落(形式段落第1段落)従来の自然観

・従来の「自然との共生」観は軽薄で甘いものであった。自然を観賞用の卑小なものと捉えていたが、地震や津波という自然の脅威の前に、人間や人間がつくったものの脆弱性を痛感した。

●第2段落(形式段落第2段落)2つの地域の津波対策の対比例

 ①石巻など

  頑丈で巨大な堤防を造る=人間の工学で自然の脅威を押さえ込む

 ②岩手県宮古市姉吉地区

  津波の惨禍を伝える警告と教訓を後世に伝え、守り続ける

●第3段落(形式段落第3段落)氾濫原の意味

 氾濫を無理に止めるのではなく、ときどき川が氾濫する余地を「氾濫原」として置き、もともとはそこに人は住まないことになっていた。

●第4段落((形式段落第4・5段落)老荘思想の叡智を再認識する

 ・「生かされている」というのは、東洋の考え方で、生物・無生物を含めてあらゆるものがつながって編み出す網の一部分として自分が存在しているという意味

 ・老荘思想の無為自然=自然を人間が操作し、自然に抵抗するのではなく、自然に人間が合わせてゆくのが、いちばんスムーズな生き方だという考え方

【筆者の主張のポイント】東日本大震災を契機として、私たち人間と自然との関係性や距離感を再考させる大きな機会となった。

☆参考文の第4段落を対比関係に注目して、表を作成して整理しよう。

比較表_page-0001 (1)

(4)演習問題解答例

問1

従来の「自然との共生」観は軽薄で甘いものであった。自然を観賞用の卑小なものと捉えていたが、地震や津波という自然の脅威の前に、人間や人間がつくったものの脆弱性を痛感し、東日本大震災を契機として、私たち人間と自然との関係性や距離感を再考させる大きな機会となった。今後の対策としては、人間の工学的な技術に基づいて巨大な堤防によって自然災害から集落を守る、人間が人為的に自然をコントロールしようとする、という短期的な効率を求める考え方がある。これに対して、生物・無生物を含めてあらゆるものが人間とつながり、生かされているという東洋の叡智の下、自然に人間が合わせてゆくという老荘思想の無為自然の観点から、自然のゆらぎに人間が自らの身をまかせ、津波の記憶と過去の自然災害から学び取った教訓に基づき、自然との適度な距離をはかりながら共生することによって中長期的なしなやかな強さを高めることも重視してほしい。(397字)

●解説と補足

要約問題は段落分けしないで書く。したがって、最初の1マスは開けずに書く。要約文は1文が長く、文章として下手なものであってもかまわない。指定字数以内に収めるのが最優先事項であるので、1文の中に参考文の情報をできるだけ多くねじこむ。自分の意見を述べる小論文では1文は短く、簡潔に表現することが望ましいが、要約文が逆のアプローチが必要。

問2

 「自然と共生する社会」を構築するための価値観は神道の中に既にあるものだ。これは、神を自然現象の現れとみなし、落雷や暴風雨などの自然災害をもたらすものとして畏怖する対象と考えた。こうした脅威に対し、人間は平伏し、祭ることによって守り神に転換させる。この心情が自然に対する感謝の念となって表れたものが、秋に神への初穂を備える新嘗祭などに代表される日本の祭りである。自然を力で抑え込む対象とみなし、自然を人間が工学的な技術によってコントロールするという従来の考え方は、人間を「万物の霊長」として神から自然に対する支配権を委託されたと考えるキリスト教的自然観に起源を持ち、その限界は東日本大震災の津波災害や原発事故によって露呈している。私たちに求められる価値観は、老荘思想や神道など東洋思想の知恵のなかにヒントが隠されている。

 「自然と共生する社会」を構築するための前提として、地域文化を維持することが必要である。神道の自然観を受け継ぐ地域文化は村の鎮守の森を守り、豊かな自然との共生を第一義に考える。さらに、人間の生活と自然との適度な距離感を保つための法整備が急がれる。サンクチャリーや世界遺産などの認定に加えて、国や自治体の自然保護立法を通して業者の乱開発を防止する。市民自らが土地を購入して自然環境を保護するナショナルトラスト運動などのNPO活動も促進する。

 周囲を海に囲まれ、国土の大半が山林という自然環境をなす日本では、産業社会成立以前から、自然とうまく折り合い、距離を保ちながら人びとは生活してきた。地球環境問題が深刻化し、地震や津波の猛威を目の当たりにした現在、私たち祖先から継承された自然に対する信仰心にもう一度、光をあてることによって、そのなかに秘められた叡智に学び、これを施策に反映させることで、直面する危機をしなやかにやり過ごすことができるのではないか、と考える。(790字)

●解説と補足

 無為自然=東洋的な価値観として、神道を挙げた。鎮守(村の守り神である神社)の森と人為=西洋のキリスト教思想とここから発展した科学技術とを対比させて書いた。西欧の科学技術の根底には、自然を支配する対象とみなし、力(科学技術)でコントロールしようという発想がある。この象徴が高くて強い堤防にあたる。

 文学部や教育学部などの文系や環境系の学部での入試小論文では科学技術万能の思想に警鐘を鳴らす方向で書くこと。逆に理系の建築学部などでは、高くて強い堤防(巨大な防潮堤)を造って人命を守る発想は重要になる。

(5)参考資料

「賛否分かつ巨大な壁 海岸に横たわる防潮堤」~産経ニュース・産経フォト2017.11.20

以上、OK小論文塾長朝田隆(りゅう)でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?