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【小説】夏休みに男の娘になる男子高校生の話(第2話:外出・師匠・刈り上げ)

あー、どうしよう!
まさかいきなり、橘さんにばれちゃうなんてなぁ。。。

家に帰って、布団に顔をうずめる。
こうなったら仕方ない。女子の制服で男だとバレるのはまずいので、本気でいこう。

朝、7時には起きて準備を始める。
まずはセーラー服の上下を身につけ、さすがに下着は恥ずかしいので男物のままにした。

髪を母親のヘアアイロンで内巻きにして、ヘアクリームでまとめた。やり方がわからないながらもファンデーションだけ肌にのせ、苦労しながらつけまつ毛を装着した。唇はほんのりピンク色のリップクリームを塗った。

「これで、男だってばれないかなぁ」

鏡で変なところがないか何度も確認して外に出る。駅に向かう途中も、止まっている車のガラスや、お店のショーウィンドウで自分の姿を確認してしまう。
駅の入り口に着くと橘さんがすでに待っていた。

「あ、早川くん!おそーい!」

僕のこと「くん」付けで呼んだことで、周囲の人が僕の方を見る。

「や、やめてよ!橘さん。僕が男だってバレちゃうじゃん!」

「ごめんごめん。でもそうやって呼ばれて初めて、周りの人が違和感覚えるってことは、ばっちり女の子に見えてるってことよ。どう?嬉しくない?」

僕はうつむいて答えない。

「ま、いいわ。約束通り宿題一緒にやりましょ。」

そう言って、橘さんは僕を連れて電車で一駅離れた図書館に移動した。一体なにをさせられるのかと思ったが、言葉通り真面目に夏休みの宿題をするようだ。

「ねぇね、早川くん。ここの問題わかる?」

「あぁ、そこはね。。」

僕は思わず低い地声で普通にしゃべってしまい、横の席の女子生徒が訝しげに様子を伺ってくる。

「xの値によって場合分けして。。。」

ひそひそ声で橘さんに教える。



「もぉ。橘さんわざとやってるでしょ?」

宿題がひと段落して、図書館の外で2人で話す。

「ははは、そんなことないって〜。でももっと女の子っぽくなりたいんなら、色々教えてあげるよ。これから私の家に行こう。大丈夫、両親は今いないから。」

そういって半ば強引に、橘さんの家に連れて行かれてしまう。橘さんの家は駅前のなかなか良いお値段がしそうなマンションの7階にあった。



ーーーーー



「さ、さ、入って入って。」

といって中に案内されると、奥からガチャっと扉があき、女の人が出てきた。話が違うじゃないか!確かに「両親はいない」としか言ってなかったけど。

「おかえり。あら、お友達?」

「昨日話した早川くんよ、お兄ちゃん。お願いした通り色々教えてあげてよ。」

へ?と僕の頭の中は真っ白になる。声だって女性そのものだし、身長も橘さんより低い。

「よろしくね、早川くん。あ、私が男だって信じてないな。ほら!」

そういうとお兄さん(?)は、ゆるふわセミロングの髪の毛に手を当てるとスポッとそれを外した。外したそれはウィッグで、その下からは可愛らしい声や服装からは想像できないくらいの刈り上げのベリーショートが現れた。

「早川くんは地毛なのよ。すごいでしょ?」
そう橘さんがいう。

「へぇ、それはすごいなぁ。伸ばすの大変だったでしょ?」

「い、いえ。縮毛矯正かけてるので。」

「そっかそっか。ウィッグも色んなの選べて楽しいよ。私は地毛は暑いので短くしちゃった。例えば。。。ほら!」

そういってお兄さんは金髪ボブのウィッグをつける。

「た、確かに!お兄さん。。。僕、もっと可愛くなりたいんです!色々教えてください!!」

僕は思わずお願いした。橘さんは後ろで「うんうん」と頷いている。

「それじゃ、少し私の部屋に行こうか」



ーーーーー



お兄さんの部屋にお邪魔すると、およそ男の部屋とは思えない、可愛らしい空間が広がっていた。化粧品などのせいだろうか、ほのかに甘い香りが漂っている。

「早川くんは、化粧品はどんなの使ってる?」

「えーと、よく分からないです。。。昨日初めてメイクしたので、コンビニで売ってたファンデーションを少し使ってみただけで。。。」

「今は若いからいいけど、ちゃんとお肌のケアしないと数年後に後悔するよ。少しずつ教えてあげるね。あと下着も男性ものでしょ?ちゃんと女性もの付けると歩き姿勢から変わってくるしおすすめだよ。」

今度、一緒に買いに行こうね、と誘ってくれた。どうして僕にこんなに優しくしてくれるのか聞いてみた。

「やっぱ、同じ趣味共有できるのって楽しいじゃない?ほら早川くん、こんな髪型も似合いそうだよ。」

そう言って、お兄さんは金髪ボブのウィッグを貸してくれた。今の僕のボブより前下がりになっていて、前髪はセンターパートにしてアゴの辺りまであるが、後ろに向かうにつれて段々短くなっている。

「早川くん、首も細くて綺麗だから、こうやって後ろ短くするのもアリだよ。後ろだけ刈り上げとかしてもいいかも。」

刈り上げの女性のモデルさんが写っているヘアカタログを見せてくれた。そこにはビフォーアフターが載っていて、確かに刈り上げている方がスッキリして顔も明るく見える。

「女装して刈り上げって言うのは、全く頭になかったので新鮮です!」

今日はこの辺にしとこっか、といわれて金髪のウィッグを付けたまま橘さんのいるリビングに戻る。

「おかえりー。お、金髪のウィッグ似合うねぇ。そのウィッグみたいに後ろ刈り上げてみてもいいんじゃない?」

橘さんにも、お兄さんと同じようなことを言われて、それならばと試してみたくなる。

「私が刈り上げしてあげよっか。お兄ちゃんの頭も私がやってるんだよ。」



ーーーーー



気づくとお風呂場の鏡の前に座らされ、どこから出してきたのかケープを被せられ、即席床屋さんが始まってしまう。橘さんは僕の髪を何度かいじると、ヘアクリップでハーフアップにしていく。何してるのと聞くと「刈り上げる高さを決めてのよ」と言われ、僕は思わず「位置が上すぎない?」と反論する。

「大丈夫だよ。早川くん髪の量が多いし、上から被さる髪で隠れるから。」

「うんうん。早川くん、顔も小さいからなるべく輪郭出るようにした方がいいよ。」

とお兄さんにも言われて僕は渋々納得する。5分ほどで顔周り全体の位置が決まったらしく「それじゃあやるね♫」というと、橘さんは小さい銀色のバリカンを持ってきた。

僕は「意外と小さいんだね」と聞く。

「この方が小回りが効くからね。でも業務用のいいやつ買ってるからパワーはお墨付きだよ、安心して!」

何が安心なのかわからないが、反論する間も無く「ヒュイーーン」とバリカンから音が鳴り、首元に冷たい感触が走りビクッと肩が上がる。

「大丈夫。段々癖になってくるよ。」

今まで頑張って伸ばしてきたはずの髪の毛が、刈り落とされて毛束がお風呂場の床に広がる。夏の暑い間も無理して伸ばしてきた髪の毛から一部解放されて不思議な爽快感があった。

ぐるっと刈り上げられ、合わせ鏡で後ろを見せられ驚いて「ちょっと短すぎない!?」と聞いてしまう。

「お風呂場の照明の都合でそう見えるだけだよ。それに。。。ほら!下ろせば刈り上げ見えない!じゃあ仕上げに少し整えるね」

そう言われて、襟足をチョキチョキと散髪用のハサミで整えて完成したようだ。

また数日後に、今度は橘さんの家で一緒に勉強する約束をしてその日は解散した。すっかり辺りも暗くなった帰り道を歩きながらも思わず刈り上げ部分を触ってしまう。シャリシャリとした感覚が気持ちいい。夜道で誰も見ていないのをいいことに、ゴムで髪を括ってみると、夜風を頭に感じて気持ちいい。

「刈り上げも悪くないかも」

家に帰って、試しにアイロンで髪を内巻きに巻いてみる。合わせ鏡で後ろ姿を確認すると、うなじの刈り上げが1〜2センチほど見え隠れしていた。

「これなら金髪とかも似合うのかなぁ」

すっかり夏休み限定で、母親に隠れて女装していることを忘れていた。刈り上げをきっかけに、僕の変身はますますエスカレートしていくのだった。
(続く)

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