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「夢をかなえるゾウ」編集者・畑北斗(前編)国民的ベストセラーの誕生秘話!

4月8日(木)の「夢をかなえるゾウ①②③」単行本化を記念して、編集者・畑北斗に特別インタビューを敢行!著者の水野敬也と二人三脚で歩んできた13年間を振り返り、誕生秘話から創作の裏側までを語り尽くす。

(話し手)文響社編集部長:畑北斗
(聞き手)出版マーケティング部:中西亮

「夢をかなえるゾウ」編集者が、noteに登場!

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(中西)
今回ついに畑さんにインタビューが出来て、興奮しています!畑さんと言えば、「夢をかなえるゾウ(以下、夢ゾウ)」シリーズを全て担当してきた、編集界のレジェンドです!

(畑)
いえいえ。僕は、ただ運が良かっただけですから(笑)

(中西)
今回は、特定の刊だけでなく、通史的に夢ゾウを語っていただきたいと思っています。また、著者の水野先生の人間性や創作の裏側についてもお聞かせください。

出会いは、全裸でバスローブ

(中西)
そもそも、水野先生とはどのように出会われたのですか?

(畑)
僕が水野さんと会ったのは、もう15年ほど前になります。きっかけは、水野さんのデビュー作である『ウケる技術』でした。無名の新人の作品ながら、5万部以上も売れ、注目していました。3人の共著だったのですが、「オシャる技術」というWEBサイトで、唯一連絡先が分かったのが水野さんで、「本を作りたいので、会ってくれませんか」とメールしました。

(中西)
なるほど。そこから始まったんですね。

(畑)
最初の打ち合わせは一生忘れられません。場所は、喫茶店などでなく、水野さんのイベントが行われた恵比寿の会議室でした。当時、水野さんは「ミズノンノ」というファッション企画をしていたんですが、「服をゼロから選び直す」という趣旨だったため、水野愛也という恋愛体育教師のキャラクターに扮し、全裸の上にバスローブ1枚で講演していたんです。講演後、その格好のまま「じゃあ、始めましょうか」となり、「何を(笑)」という感じでした。

(中西)
衝撃の出会いですね(笑)

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(畑)
僕は、『ウケる技術』の延長線で、笑える本を作りたいと思っていたんですが、水野さんはこう切り出しました。

(水野)
ーー実は、書きたい本があります。僕は自己啓発本が好きで、家には100冊、200冊のレベルで本があるんです。でも、今これ(バスローブ姿)じゃないですか?全然成功出来ていない。畑さん、なぜか分かりますか?それは、今の自己啓発本が求めるハードルが高すぎるからなんです。

(中西)
ハードルが高すぎる、どういうことですか。

(畑)
例えば、自己啓発本が掲げる課題の中に、「目標やなりたい姿を書いた紙を壁に貼り、朝読み上げてから家を出ましょう」というのがあります。水野さんは、これを実行されていたんですが、ある朝二日酔いで読まずに出てしまった。すると帰宅後、壁の紙に「お前、今朝俺を読まずに家を出ただろ」って責められている気がしたそうです。成功するためにしたことが、一回できなかっただけで、逆に作用してしまう。水野さんの中で、パーフェクトに実践するのは不可能だという結論に至りました。

(中西)
身に覚えがありますね……

(畑)
そこで水野さんは、誰にでも実践出来て、なおかつ効果がある成功本を書くことにしたんです。ただその時点での水野さん自身は、失礼ながら成功本の著者として全然説得力がない(笑)なので、過去の偉人の習慣から紐づけた、カンタンに真似の出来る成功法則を集めることにしました。例えば、アインシュタインは散歩が日課だったから、散歩をするといったものです。「それは面白そうですね」ということで、そこから1年ぐらいかけ、250個ほどの成功法則を集めて、500ページのすごい分厚い原稿ができました。

(中西)
すごい!大作ですね!

(畑)
でも読んだら、これが全然面白くない(笑)1ページ完結で成功法則が淡々と並んでいるだけなので、モチベーションが上がらず、「やるぞ!」という気にならないんです。目の前の原稿を前に、2人で「これ、どうします……?」となりました。水野さんは、読者に対して常に完璧な作品を提供したいと考えておられるので、この形での出版は難しいということになり、1年間の企画が全部潰れてしまったんです。

成功法則と物語のイノベーション

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(畑)
そこからしばらく水野さんとのやりとりは途絶え、残念だけど関係は終わりかなと思っていました。しかし、半年くらい経ったある日、たまたま水野さんとのメールを見つけて、連絡を取って食事に行ったんです。そこで、お会いした水野さんからこんな提案がありました。

(水野)
畑さん、実は、お蔵入りになった500ページを活かす方法を思いついたんです。今、『神様とサラリーマン』という絵本を企画しています。平凡なサラリーマンが神様に、成功させて欲しいと教えを乞うんですけど、神様がいい加減で「今からスノボいくんで、ちょっと待ってくれる?」と遊びに行ってしまう。その間半年、サラリーマンは髭ボーボーで正座して待っているという筋書きです。これを、成功法則の本と融合するんです!

(中西)
……。畑さん、それを聞いてピンときましたか?

(畑)
正直、全然分かりませんでした(笑)でも、そこは水野さんを信じて、書いていただきました。その後、最初にいただいた原稿が『夢をかなえるゾウ』の冒頭部分です。タイトルは未定でしたが、主人公のサラリーマンはそのままで、スノボに行っちゃう神様が関西弁のゾウになっていました。そして、収集した成功法則の中でも選りすぐりの課題が、物語に自然に埋め込まれていたんです。これがめちゃくちゃ面白かった!

(中西)
ここで成功法則と物語が繋がるんですね!しかし、どうしてゾウだったんでしょう?

(畑)
これがまた面白い裏話があって、水野さんが「神様オーディション」で決めたんです。どの神様にしたら一番面白くなるかを考えるにあたり、水野さんはあらゆる神様をネットで検索し、印刷してテーブルに並べました。そして、その中でひときわ異彩を放っていた神がガネーシャでした。顔がゾウで、腕が4本というビジュアルがハマり、「即採用!」という形で決まったそうです。

全国の書店の応援により、夢ゾウはミリオンへ!

(中西)
僕は当時高校生でしたが、夢ゾウが大ヒットしたことはよく覚えています。どんなプロモーションをしたのですか。

(畑)
「全国行脚」と称し、お手製ののぼりを持って、水野さん、僕、営業さん(注:当時の出版社は飛鳥新社)の3人で全国の書店さんを回りました。水野さんは、食事の間も惜しんで書店を回りました。街場の本屋さんから大型書店さんまで、延べ300店舗をひと月半かけて回ったのですが、自分たちの力で夢ゾウをベストセラーにしよう!と応援してくれる書店員さんもたくさんいらっしゃいました。その方たちのおかげでベストセラーになったのだと思っています。

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全国書店行脚終盤。疲労困憊で口をきく元気もない著者と編集者(写真右:著者 水野敬也、同左:編集者 畑北斗)

(畑)
全国の書店さんには、本当に応援していただき、それがミリオンセラーへの大きな原動力となりました。今でも心から感謝しています。

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(畑)
夢ゾウの功績の一つは、自己啓発本の読者を大きく広げたことだと思っています。それまで自己啓発本は手に取りにくいイメージがありました。しかし水野さんには、自己啓発本は本来誰にでも価値があるという信念がありました。そこに、彼のエンターテイメント性が加わったことで、ここまで多くの方に支持される作品になったのだと思います。

(中西)
「偉人の名言を引用する」という手法も大きかったのではないでしょうか。

(畑)
そうですね。これは、頓挫した成功バイブル企画の思想をそのままスライドしているんですが、当時無名だった水野さんが、あくまで成功法則の伝道師に徹したからこそ、世代や立場を超えて読んでいただける作品になったのだと思います。

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成功だけが人生やないし、理想の自分あきらめるんも人生やない。ぎょうさん笑うて、バカみたいに泣いて、死ぬほど幸福な日も、笑えるくらい不幸な日も、世界を閉じたくなるようなつらい日も、涙が出るような美しい景色も、全部全部、自分らが味わえるためにこの世界創ったんやからな。
――世界を楽しんでや。心ゆくまで。

(中西)
「夢ゾウ1」ラストを飾るガネーシャの一連の台詞は、「成功しなくてもいい」ともとれるものです。このシーンは予め決まっていたのですか。

(畑)
いえ。おそらくこれは、書いているうちに自然と出てきた文章です。ここに、水野さんの天才性を感じます。最後にガネーシャなら何て言うのかを考え抜いた結果でしょう。これは、自己啓発本としては画期的だと僕は思っているんです。成功本でありながら、成功しなくてもいいと言うんですから。

(中西)
確かにそうですね。

(畑)
でも、「成功しなくてもいいって、おかしくない?」と文句を言う人は誰もいません。むしろ、このラストがあるから読んで良かったと言ってくださる方もたくさんいます。「成功の良い面だけでなく、表と裏を自分の中で咀嚼し、前を向いて進む方が幸せになれる」というのが、水野さんが一貫して込めてきたテーマなんです。

(次回へつづく)