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肩書きは“文章が書ける、日常生活に面白いことが起きる人”【2020/12/20放送_作家 岸田 奈美さん】

Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。今週は、作家 岸田 奈美さんをお迎えして、作家になるまでの経緯と、著書『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』について、たっぷりお話をお伺いしました。

【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy

【今週のゲスト】
作家 岸田 奈美さん(@kishidanami

100文字で済むことを2000文字で伝える作家。一生に一度しか起こらないような出来事が、なぜだか何度も起きてしまう。
2020年2月~講談社「小説現代」でエッセイ連載。2020年1月「文藝春秋」巻頭随筆を担当。
1991年生まれ、兵庫県神戸市出身、関西学院大学人間福祉学部社会企業学科2014年卒。在学中に株式会社ミライロの創業メンバーとして加入、10年に渡り広報部長を務めたのち、作家として独立。
世界経済フォーラム(ダボス会議)グローバルシェイパーズ。 Forbes 「30 UNDER 30 JAPAN 2020」選出。
2020年9月初の自著『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)を発売。

【今週のダイジェスト】

▶︎作家・岸田奈美が誕生するまで

noteでの初投稿から、わずか1年3か月で著書を出版するに至った岸田さん。そのnoteのプロフィールには、こんな風に書かれています。

中学 2 年生のときに起業家の父が突然死、高校 1 年生のときに母が心臓病の後遺症で車いす生活、弟がダウン症という、初めての人に話すとわりとギョッとされる家族構成だけど、ハチャメチャにおもしろいことばかりが起きるので、ゲラゲラと笑う毎日を送っている

お父様が人を笑わせるのが好きだったという影響もあるようですが、noteをはじめてから身の回りの面白いことに気付けるようになったという岸田さん。noteでは、ご家族のことだけではなく、岸田さんの日常に起きた面白い出来事を隣の人に「聞いて!聞いて!」というテンションで書いていると言います。

そんな岸田さんが、執筆するようになったきっかけですが、大学1年の時にベンチャー企業に創業メンバーとして入社し卒業後も含めて9年間勤務していましたが、「本当に何もやる気が出ない、どうしよう」と自身を責め続け、休職した時期があったそうです。

そんな時に、岸田さんに勇気をくれたり、色んな所へ連れ出してくれたりして、励ましてくれたのが、弟の良太さん。その時のエピソードを弟さんが言葉にできない代わりに、自分が言葉にして伝えたいとFacebookで投稿を始めていきます。すると、それを見ていた友人から「めちゃめちゃいい話だし、面白いし、弟君はユーモアがあってすごく魅力のある人だから、もっとたくさんの人が読める場所で書いたほうがいいよ」と勧められ、もっとパブリックに見てもらえるnoteへの投稿を去年の6月からスタート。

そして、今年2020年になって退職し、“作家”として独立されるのですが、作家という肩書にしっくり来ていないご様子で、“文章が書ける、日常生活に面白いことが起きる人”ということを表す言葉があれば教えて欲しいのだとか。

▶︎ずっと聞いていられるような文体

Webサイトならではの横書きでの読みやすさへの意識も強い岸田さん。それは、幼い時に親しんだチャットなどからの影響のようです。小学生の時に、周りの友達と馴染めていない岸田さんを見て、お父様が「友達は、この箱の中になんぼでもおる」と買ってくれたのがMac。それをきっかけに、2ちゃんねるやチャットで交流していたことで、Webサイトならではの特性に気づくことが出来たようです。

そして、文体としては、冒頭のプロフィール文でも分かるように、話しているような軽快なテンポと言葉選びが印象的ですが、これは、さくらももこさんなどの自身が好きな作家の影響から”ずっと聞いていられるような軽い文体”にたどり着いたようです。

横書きの文章が身近だった岸田さんですが、出版された書籍は縦書き。さらに、noteでの投稿を再編したものということで、変換作業に苦労をされたと言います。Webだと行間などの余白で、想像する間をつくっていくイメージのようですが、縦書きにすると「1行を読んでいるつもりでも、隣の文章も目に入ってくる」という点に気づいたのだとか。そのため、Webでは想像するための余白が、書籍だと言葉足らずで伝わらないような形になっていたそうで、ト書きのようなものを加筆していく作業だったそうです。

また、横書きはゴシック体、縦書きは明朝体が用いられることが多いためなのか、縦書きになると“しんみりした文体”になる面があるようです。

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▶︎初の著書『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』

9月に発売された岸田さんの初めての書籍が『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』。noteに投稿されたものに加筆した作品ですが、当初は「noteで無料で読めるのに、誰が買ってくれるんだろう?」と乗り気ではなかったようですが、「紙じゃないと届かない人たちがいる。noteでの熱量を形に残るものにすることに意味がある」という編集者の言葉を信じて、出来上がったと言います。

そんな岸田さんに最初に書籍化を勧めたというのが、所属事務所であるコルク代表の佐渡島庸平さん。「100万人のいろんな人から愛される作家よりも、1万人の心に嵐をおこして、ずっと応援したくなるような、一生残る文章を残せる作家になろう」と執筆中に励まされたそうです。

そして、装丁を手掛けたのは、ブックデザイン界の巨匠・祖父江慎さん。岸田さんの”100文字で済むことを2000字で書いてしまう”という特徴が祖父江さんと相性が良いと考えた関係者が、ダメもとでオファーした所、快諾してもらったと言います。

「岸田さん、自分で絵を描こう」
「ページ番号は、弟君に書いてもらいましょう」

そんな祖父江さんのアイデアに、岸田さんは驚きの連続だったようですが、見本を受け取った岸田さんが特に驚いたというのが、自身が特に思い入れがあるエッセイの所に写真家の幡野広志さんが撮影した、プリントされた家族写真が挿し込まれていたこと。

岸田さん曰く「家族のことを話しているところに、私がしおり代わりに挟んでいるような演出かな」ということですが、クライマックスで一気に岸田さん家族が身近に感じられる仕掛けが施されています。

文体とマッチした岸田さんのイラスト、弟さんの手書きによる温かいノンブル、印象的な家族写真と、紙媒体だから出来る質感が詰まった“家族で作った家族のことを書いた一冊”になったようです。

このように多くのクリエイターが関わって生まれた『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』。
書籍化したことで思ってもいない反響もあったようです。

出版後のサイン会で、障害のあるお子さんを育てているご家族から辛い思いや苦しい思いをしていた事や、なかなか周りにその辛さを言えなかったこと、更にこの書籍が1つの希望になったという声をもらい「誰かの人生に私の人生がうまいこと入っていって、豊かになっているというのはすごくうれしいことだな」と、書籍化したことで出会えたものや感情も多くあったということでした。

岸田奈美さんの初めての著書『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は、電子書籍もありますが、ぜひ紙版でご覧になってください。


【今週のプレイリスト】

▶︎岸田 奈美さんのリクエスト

『おどるポンポコリン』 大原櫻子

▶︎山崎晴太郎のセレクト

『No Smoking』 細野晴臣

といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。

来週は岸田さんに、著書で記されているエピソードについて伺っていきます。

【次回12/27(日)24:30-25:00ゲスト】
作家 岸田 奈美さん

また日曜深夜にお会いしましょう!

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