見出し画像

石岡瑛子展、佐藤可士和展、仲條正義作品集の重なりで感じる、グラフィックデザインの活気【2021/3/7放送_公益財団法人DNP文化振興財団 ggg・ddd企画室 キュレーター 北沢 永志さん】

Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。3月7日の文化百貨店は、お出かけシリーズ!先週に引き続きギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)にお邪魔し、公益財団法人DNP文化振興財団 ggg・ddd企画室 キュレーターの北沢永志さんにたっぷりお話をお伺いしました。

【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy

【今週のゲスト】
公益財団法人DNP文化振興財団 ggg・ddd企画室 キュレーター 北沢 永志さん

1958年長野県飯田市生まれ。1980年慶応義塾大学文学部卒業。大日本印刷株式会社(DNP)入社。1991年よりギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)担当。2008年より、グラフィックデザインを中心とする芸術文化の普及、振興を目的とした活動は、公益財団法人DNP文化振興財団に移行。以来、財団のメンバーとして、京都dddギャラリーも担当。キュレーター(学芸員)として、これまでに国内外のグラフィックデザイナー、アーティスト、団体等300回以上の展覧会を企画・開催。

【今週のダイジェスト】

▶︎出版事業を通して築いていくグラフィックデザインの歴史

【山崎】お邪魔をしているgggを運営されているのがDNP文化振興財団ですが、どのような経緯で設立された財団なんでしょうか?

【北沢】大日本印刷が2008年に創業130周年を迎えまして、その記念事業の1つとして始めたものです。 グラフィックデザインや、グラフィックアートを中心とする文化の普及・振興が目的で、4年後の2012年11月に公益財団法人となり、さらに一般の方々に開かれた財団・ギャラリーという事になりました。それまでは、ギャラリーが中心だったんですが、そこから出版やレクチャーなどの教育普及も始めました。

【山崎】出版事業について、詳しく教えてもらってもいいでしょうか?

【北沢】一番の柱が、『gggBooks』。B6サイズで64ページあるハンディーな本ですね。田中一光さんに原型をつくって頂いたんですけども、これまでに130人の作家の方々の作品集を出し続けております。

【山崎】そんなに発刊数が行っているんですね。

【北沢】この本の特徴なんですけれども、64ページの裏表を印刷すると、1枚のB1ポスターに収まるというコンセプトなんです。それで、田中先生も「すごくいい本だ。いい発見をした」と言ったエピソードがあるんです。非常にコンパクトで、作家の方にとっては名刺代わりになっていますね。

【山崎】今の伝わるかな? 紙には、B判とかA判とか菊判とかあるわけですけど、A3はA4の倍じゃないですか。だから、今回のB6というコンパクトで小さい本を倍・倍・倍にしていくとB紙にはまって行くというのが発明だというね。そういうコンセプトの本なんだって今、初めて知りました。

【北沢】だから、紙は面白いですよね

【山崎】面白いですよね。

【北沢】20年も経っているんですけれども、全くフォーマットは変わっていないんです。

【山崎】リブランディングの流れがあった中で、ずっとやり続けているというのが、1つの美しい価値ですよね。あと、DNPグループならではだと思うのが、“高精彩ビジュアル作品集(プリモアート)”なんですけども。

【北沢】これは、A3の変形サイズで30ページの作品集です。通常の印刷ですと、CMYKという4色のインキですよね。このプリモアートは、RGBの三原色を使っておりまして、普通の印刷よりオリジナルそのものが再現できる技術なんです。今回の石岡瑛子さんの展覧会でも作ったんですけど、持ち帰っていただいて、ちょっと額に飾っていただいたりも出来ます。

【山崎】今、手元にあるんですけど、本当に綺麗ですよね。当時の時代感まで伝わってくるような印象を受けますよね。

【北沢】アートグラフィックですよ。そういうコンセプトで作りました。

画像2

【山崎】なるほどね。毎年の活動を集めたアニュアルレポート『Graphic Art & Design Annual』も出版されているんですね。その、2017年-2018年度版で、北沢さんが『キュレーション、闘うイマジナリー』というタイトルの序文を担当されていますよね。

【北沢】序文というのは、その時々の話題になっている方という企画をしていたんですけれども、永井一正先生と話していたら「あなた、書いたらどうだ」と言われまして。それで、30年間を振り返る形で、一度まとめてみようかなということで、キュレーションをテーマに添えて、グラフィックデザイン界から得た遺産や恩返しをしていきたいという事を書いてみました。

【山崎】気合を入れたやつですね。ちなみに、今までのアニュアルレポートはどこかで見れるんですか?

【北沢】Webに、載っています。ただ、紙媒体としてはgggでしか手に入らないものです。

【山崎】なるほど、レアものということですね。

▶︎日本グラフィックデザイン界の遺産と可能性

【山崎】グラフィックデザインのアーカイブ事業にも力を入れていらっしゃるんですよね?

【北沢】大勢の作家の方々とお付き合いがあるんですけども、展覧会が終われば、すぐにポスターを返してしまう状態だったんですね。それが本当に勿体ないということで、“未来に遺産として残していこう”とポスターを収集し始めたプロジェクトなんです。これまでgggで展覧会をしてくださった方が、国内外合わせて236名いるんですけど、その方たちにお願いをして。

【山崎】そのポスターは、どこかに飾られているんですか?

【北沢】基本的には、福島県郡山市にあるCCGA現代グラフィックデザインセンターで、定期的にテーマを決めてアーカイブ作品をご紹介しています。Web上でもコレクションの公開はしております。

【山崎】国際交流も色々やっていらっしゃいますよね。

【北沢】私どもは、国際グラフィック連盟(AGI)のお手伝いをしているんです。毎年、場所を選んで世界中のグラフィックデザイナーが100人~200人くらい集まるイベントがあるんですけど、そういった所で世界中のグラフィックデザイナーと交流しています。

【山崎】やはり、国ごとの違いとは出てきますよね?

【北沢】そうですね、デザインのオリンピックみたいな場で、作家代表としてプレゼンテーションをすると、圧倒的に日本のグラフィックデザイナーのプレゼンテーション力がすごいんです。

【山崎】日本のグラフィックは、すごい評価されていると聞きますもんね。

【北沢】だから今でもですね、日本に対する興味ってなかなかすごく高くて。去年は、全くコロナで動けなかったんですけれども、イタリア、ドイツ、スイス、中国、香港辺りからは、年に1回は展覧会をしてほしいというリクエストが来ていますよ。

【山崎】去年は動けなかったということですが、新型コロナウイルスの影響が様々なところに出てきています。現在、感じていることを教えていただけますか。

【北沢】ちょうど今、ここで石岡瑛子展、六本木の国立美術館では佐藤可士和さんの大展覧会をやっていて、仲條正義さんは640ページの集大成の作品集を出されたんです。この3つが重なっていること自体が、コロナ禍にも関わらずグラフィックデザインというのは活気づいているなと感じていますね。

【山崎】なるほどね。

【北沢】石岡さんや佐藤さんというのは、“境界を越える”というような共通点があって。特に、石岡さんはコロナだからこそ勇気をもらえたりとか、力をもらえたり展覧会になったということで、ちょっと潮目が変わったんじゃないかなという感じはしています。僕が一番好きな田中一光さんの言葉を紹介したいんですけども、「ギャラリーというのは、企業との市民の風穴だと思っている。キュレーションが毅然として、スペースの空気が優しく人を捉えるんだったら、風はどんどん窓から入ってくる」というギャラリーの精神は、色々あった時に思い出して、やっていこうという気持ちで取り組んでいます。

【山崎】素晴らしいですね。

画像3

▶︎山崎晴太郎とコラボレーションをするとしたら?

【山崎】最後のパートはゲストの方、皆さんに伺っていることをお聞きしたいと思います。僕、山崎晴太郎とコラボレーションをするとしたら、どんなことをしたい、もしくはできると思いますか?

【北沢】この間、山崎さんのお話を聞いて、国際空港のデザインだとか国のデザインという壮大な事を仰っていたんですけれども、出来ればそういう”国をデザインする”というようなテーマで、gggで展覧会の開催をね。

【山崎】超やりたいです!

【北沢】それくらい、世の中を攪拌するようなことを考えてらっしゃる。そういう情報の発信になれば、面白いなというか。逆に国をデザインするというのは、私も聞きたいくらいなんですけれども。

【山崎】僕は、”全部をデザインしたい”という欲求がすごいんですよ。主観を主観として届けていくわけなので、セグメントとして分断をした瞬間に、バイアスがかかって曲がって行くと思っているんですよ。なので、僕は全部を自分で出来るようにしておきたい。その力を向ければ、一つの国というものが、一人の中で全部デザインが出来るのではないかと思っているんですよ。そして、空港の設計、体験、匂い、出入国のスタンプ、ロゴ、音楽というのを全部やっていった時に、国というものがもう1段表現としてはアップデートできるんじゃないかなと。それをずっと「やりたい、やりたい」と言っていたら、ホテルみたいな大きめの施設とか、都市計画とかに関われるようになってきたという感じです。

【北沢】山崎さん言われた、そういった発想・考えが、今一番必要になってきているんではないかと思うんです。

【山崎】まさに、こういう考え方もあるという提示ですよね。変な話、文字とかタイポグラフィもに社会や政治と密接しているじゃないですか。そういうものでさえも、分断されていると思っていて、それも全部、統合したいんですよね。そうすると、デザインが社会の裏側にきちんと入って行けるというような気持ちが、僕にはあるんです。

――――――――――

【山崎】そして、最後、この番組のコンセプトである「文化百貨店」という文化を伝える架空の百貨店があったとして、バイヤーとして一角を与えられたら、どういうモノを扱いたいですか。

【北沢】今ポスターを扱っていますから、ポスターです。今の日本人や海外の方々が作ったポスターは、あまりお披露目されていないじゃないですか。特に、日本は名の知れたグラフィックデザイナーの方でも、実は街頭でポスターなんかほとんど貼られていないんですよ。ポスター=版画だと思うんですよね、現代の浮世絵。そういった面から考えると、まだまだたくさんあると思うので、それをバイヤー的な感覚で展示をする。あまりにもストレートな答えで、つまらないかもしれないですけど(笑)

【山崎】とんでもないです。グラフィックデザインってフィジカルな、スケールや密度だったりも踏まえて、コミュニケーションが成立するものだと思っているので、ぜひ皆さんにもギンザ・グラフィック・ギャラリーに足を運んで欲しいなと思います。今回のゲストは、DNP文化振興財団、ggg・ddd企画室 キュレーターの北沢永志さんでした。ありがとうございました。

【北沢】ありがとうございました。


【今週のプレイリスト】

▶︎北沢 永志さんのリクエスト
『Your Song』Elton John

▶︎山崎 晴太郎のセレクト
『Timelapse』Mari Samuelsen

といった所で、2週に渡ってギンザ・グラフィック・ギャラリーからお送りした久しぶりのロケ収録もここで、閉店となります。

来週は、映画監督/映像作家の奥秀太郎さんをお迎えし、最新技術と伝統文化が融合した舞台作品についてお伺いします。

【次回3/14(日)24:30-25:00ゲスト】
映画監督/映像作家 奥 秀太郎さん

画像1

劇場公開作品として「壊音」「日雇い刑事」「日本の裸族」「赤線」「カインの末裔」(ベルリン映画祭正式出品)「USB」他15作を監督。舞台演出作品として「黒猫」(読売演劇賞優秀スタッフ賞)「攻殻機動隊」「ペルソナ」AKB版「仁義なき戦い」他、最新作「VR能攻殻機動隊」。最新技術を駆使した能舞台の演出で日本及び世界各地で話題を呼んでいる。舞台の映像演出として1000を超える作品に参加。東宝、NODA・MAP、宝塚歌劇団、大人計画から、能、歌舞伎、落語と多岐に及ぶ。

また日曜深夜にお会いしましょう!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?