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「叩けないくらい飛び出そう」 本当のことを伝えるための、情報発信の戦略。【2022/1/9放送_モータージャーナリスト 五味 康隆さん】

Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。
1月9日の文化百貨店のゲストは、モータージャーナリストの五味やすたかさん。今回は、モータージャーナリストになった経緯や、40万人を超える登録者数を獲得しているYouTubeチャンネル「E-Car Life with五味やすたか」について伺っていきます。

【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy

【今週のゲスト】
モータージャーナリスト 五味 康隆さん

自転車トライアル競技で世界選手権に出場。その後4輪レースに転向して全日本F3選手権で3年間戦ったのち、モータージャーナリスト活動を開始するという異色の経歴を持つ。確かなドライビング理論と優れた運転技術に裏付けされた解り易い解説には定評がある。また自動運転を含めた運転支援、そしてハイブリッドや電気自動車への造詣が深い。

【今週のダイジェスト】

▶︎ドライブをしたいと思う人が、1人でも増えたら良いな

【山崎】日付が変わって、本日は成人の日。今年の4月から成人年齢が18歳に引き下げになりますが、僕らの世代だと18歳になれば「自動車の免許が取れる」というのが大きかったように思います。漫画なんかの影響もあって、バイクやクルマへの憧れもありましたしね。

そんなこんなで、今回はクルマに関する方にお越しいただいています。モータージャーナリストの五味やすたかさんです。よろしくお願いします。

【五味】よろしくお願いします。

【山崎】現在は、モータージャーナリストということで自動車を専門にされていますが、自転車競技をされていたんですね。そこから、四輪のF3ドライバーに転身されたと。

【五味】自転車のトライアルという競技をやっていました。競技人口が少なかったので、運良く世界選手権へ行けたんですよ。トライアル競技って、まだバイクに乗る身体が出来ていない人たちが多くいて、身体が出来上がったらバイクに転向するんですよ。それで、僕も最初はバイクに行ったんです。

だけど転倒しかけた時に、自転車だったら車体を放り出してこけるんですけど、バイクだとハンドルに手がかかってアクセルが全開になるんですよね。それに、自転車は右側のレバーがフロントブレーキで左側がリアブレーキなのに、バイクは左がクラッチで右足がリアブレーキ。頭がグチャグチャになって、谷に落ちそうになったんです。それで、バイクの道は辞めました。

【山崎】そういう理由で、F3に転向されたんですね。フォーミュラーカーって、幼少期からカートをして上り詰めていくイメージなんですけど、大人になってから始めるギャップは無かったんですか?

【五味】自転車競技のお陰でアスリート的な発想というか、人と競うという発想に対するマインドが出来ていたので、ギャップは無かったですね。自転車も、気合・根性でやるタイプでは無かったので、レースにもすんなり入って行けたというか。

【山崎】でも、自転車とはスピードが全然違いますよね。そこへの恐怖心は無かったですか?

【五味】自転車のトライアル競技は、どこにリアタイヤを置いて、ジャンプをしたらフロントタイヤはここでみたいな形で、下見をするんです。それが世界戦になると、歩いて下見をするだけで「落ちたら死ぬじゃん……」というような所なんですよ。その経験があるから、どちらかと言うと四輪レースはすごく安全で、守られている印象がありましたね。

【山崎】そもそも、四輪ですもんね。

【五味】もしクラッシュしたとしても、まだボディがありますしね。

【山崎】そこから、モータージャーナリストという立場になりますが、このコンバートには何があったんですか?

【五味】F1を目指してF3に乗っていたんですけど怪我をして、自分で線を引いて退いたんです。それで、次にドライビングスクールで運転を教えていました。ただ、ドライビングスクールで、どんなに熱心にやっても、きちんと教えられるのは1日に10人や30人なんですよ。だけど、運転をしている人は、ものすごい数がいる。だから、「安全のために」や「より気持ちよく走るために」といった事をもっと広く伝えたいと考えたら、メディアしかないという発想から、モータージャーナリストへ行きましたね。

【山崎】伝えたいと思ったことは、“安全性”ですか?それとも“楽しさ”ですか?

【五味】「もっとこういう所に気を遣っていったら、クルマこんなに楽しくなるよ」という所が一番かな。どちらにせよ、意識が高くなると、結果的に安全は付いてくるんですよ。何にせよ、「ドライブをしたいな」と思う人が、増えると良いな、1人でも増えたら面白いなということで、メディアを選んだ形です。

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▶︎勉強時間はすべて世の中のこと クルマと社会を繋ぐモータージャーナリストとしての想い

【山崎】どういう風に、モータージャーナリスとしてのキャリアを積んでいったんですか?

【五味】たまたま『CARトップ』の元編集長と知り合いになって、その方に現役の編集長を紹介してもらいました。その後、少し経ってから連絡があって、1年間、他の媒体に出ないという条件で「全力でうちの雑誌で推す」と言ってもらって、そこからスタートしましたね。

ただ、原稿を書くという事をやったことが無かったので難しかった。今だったら、30分程で書ける原稿に、8回くらいやり直しが入ったりしましたね。当時は、「何だよ!また戻しやがって!!」となったんですけど、今思うとその8回に付き合ってくれていたという事に本当に感謝しかありません。

それに、僕のスケジュールが空いている限り、仕事を渡してくれたので、上手く行ったというか形になりましたね。『CARトップ』には、気持ちとしては足を向けて寝られない(笑)

【山崎】8回も修正に付き合ってくれるって、ありがたいですよね。喋りは、どうやって磨いていったんですか?

【五味】先ほども話したドライビングスクールだったり、「新しい商品の特徴は、こう説明したら伝わるよ」というメーカーの研修の講師や講演で、人にモノを伝える術を教えたりしていたんです。だから、モノをかみ砕いて伝える経験は有りました。その時には、ブランディングとかにも関わっていたので、その経験が大きいですね。

あとは、レースも大きいですよ。エンジニアと話すときに、気分だけで「曲がれない」ではなくて、“どういう現象があって、曲がれないのか”や、“こういう現象でアクセルが踏めないから、あの箇所が〇〇ではないか”と風に、全部自分の中で整理をして伝えていくんです。それを、エンジニアがきちんと整理をして返してくれる。その時に、理詰め論で、コミュニケーションを取るんですよ。多分、その思考回路が役立っている部分もあると思います。

【山崎】なるほどね。色んな要素が、今に繋がってきていますね。

【五味】そうなんですよ。だから、全ての経験に感謝みたいな(笑)

【山崎】他のジャンルだと“ライター”という肩書が多いですけど、モーター“ジャーナリスト”として大事にしている事や筋はありますか?

【五味】自分の中で“こういう風になって欲しい”というのは、いつも思っています。それを、すごく強く思っている方かもしれないですね。今で言えば、EV(電気自動車)。EVの世界が来た方が良いなら全力で推しますし、自分の判断で総合的に「EVではなく、今はこっちだ」と思うものがあれば、そちらを全力で推します。“世の中の風潮や流れに口を出す”ではないですけど、そういった意識は持っていますね。

「車を取り巻くこういう現状になっていて」「車づくりにはこういう背景があって」「こういった所に苦しんでいて」、「その中で日本の環境を考えるとこうじゃないの?」という事を示す所に、唯一ジャーナリズムはあるのかなと思っているんですけど。

【山崎】自動車産業の“大局感”みたいな所ですよね?

【五味】そうですね。僕はレースの経験からセンサーは相当強い方だと思っているので、YouTubeのレポート業では言葉が出てくるままに喋っているだけなんですけど、日々の勉強時間は世の中の事ばかりですね。

【山崎】クルマと世の中を、どう繋いでいくかという事なんですね。

【五味】最終的には、その世の中の事もクルマに落とし込んで行くんですけどね。1人でも多くの人が、クルマを持って、幸せ・笑顔になれれば良いと思っているので、その為の活動です。

▶︎情報発信者としてのスタンスは「嘘をついたらダメ」

【山崎】2018年に、YouTubeチャンネル『E-Car Life with五味やすたか』を開設されました。今日、五味さんがゲストだという話を周りにしたら、みんな「見ています」と言っていましたよ。

【五味】山崎さんの周りに、クルマ好きの人が多いという事ですよ。クルマに対して興味を抱いている方は、大概知ってくれているかなと。運転していると、クルマで追いかけられる(笑)

【山崎】それは、大変ですね(笑) どういう経緯で、YouTubeをスタートされたんですか?

【五味】動画の1分には、原稿用紙1枚~2枚分の内容を入れられるので、伝えられる情報が桁違いなんですよ。僕は情報を入れたいタチなので、動画の可能性には昔から注目をしていたんです。YouTubeが出始めたぐらいの頃から、自動車情報サイトの『carview!』で、独自の動画をやっていたんですけど、当時の携帯のネット環境だとカクカクで見られたものじゃなかった。だから、時期が熟すのを待っていたんです。

【山崎】そうだったんですね。

【五味】やっと4G回線になって動画がカクつかなくなったので、スタートしようかなというタイミングで、たまたまミシュランの招待でタイに行ったんですね。世界中のインフルエンサーを集めようという趣旨で、当時僕はブログをやっていて、Facebookも国内の自動車関連の中ではフォロワーがいる方だったので呼ばれたんですよ。だけど、世界中のインフルエンサーが集まる中では、カスみたいなものなんですよ。

【山崎】人数の規模が全然違いますよね。

【五味】そうなんですよ。それに目の前で、全然違う国の人達がカメラの前でコラボして、面白そうな事をしているんですよ。それを見て、「やばい!僕は遅れている」と感じて、タイにいる間にカメラとか撮影機材一式をオーダーしたんです。

タイから戻ってきて、まず撮影をして。仲間を集めて仕上げてみたら、自分が思っているような映像にはならなくて……。だから、どのくらいテンポで話すのかとか、どのアングルが良いかとか、その辺りのテストに半年くらいかけましたかね。

【山崎】なるほどね。型が出来るまでに、それだけの時間をかけたんですね。

【五味】あとは動画では、顔も全部曝すじゃないですか。そうある限り、一回でも嘘をついたら「自分のYouTubeは終わる」と思っていたので、絶対に嘘をつかないようにしようと。素人の生の意見が聞きたいから、YouTubeを参考にしているという面もあるので、情報を発信する側としては絶対に嘘はダメだと考えました。

【山崎】確かに、そういう面がありますよね。

【五味】こんなにぶっちゃけて良いのかあれですけど……、僕が絶対に嘘をつかないと言っていても、メーカーから車を借りていたりすると、どうしても言い辛いことはあるんですよ。でも、それを言わなかったらYouTubeで信頼を得られないんです。だから、言い辛くても言おうと。

立ち上げた当時は、まだメーカーの人たちがYouTubeをそこまで見ていなかったので、「気づかれた時に、叩けないくらい飛び出していれば良いや」と思っていましたね。

【山崎】なるほどね。

【五味】だから気づかれる前に、「あの人に借りてもらえれば、物凄く認知度が広がる」という状態まで、一気にチャンネル登録者数を伸ばさないとダメだと考えながらスタートしました。最初の10万人登録までの道筋を「これとこれを起爆剤にしながら」とか立てながら、要所でテレビとかに出てYouTubeを紹介させてもらったりとか。知り合いの伝手とかも全部使って、今があるみたいな(笑)

【山崎】すごい戦略家ですよね。よくよく考えると、YouTubeの動画でやっている運転しながらのあのトークは、頭の回転が速くないと出来ないですよね。

【五味】そうなんですかね?全部、レースのおかげです。

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▶︎そのクルマに興味のある人の“代表者”として

【山崎】僕が五味さんのYouTubeチャンネルを知ったきっかけは、レビューだったんですよ。五味さんのチャンネルでは、色んなジャンルのクルマを取り上げていますよね。でも他のYouTuberだと、方向性というかスペシャリティを持っていたりしますよね。ジャンルレスに紹介している理由はあるんですか?

【五味】基本的に、クルマは“高いから偉い”とか“安いからダメ”というのは無いんですよ。それぞれの人の、それぞれの環境などに応じて、最適な車は絶対変わるんですよ。多種多様な趣味嗜好があるし、ユーザーの環境も違うので、絶対的に車種は必要なんです。

それに対して「あなたの環境だったら、これだよ」という事を伝える必要があると思っていたので、その為には“ロールスロイスから軽自動車まで全部やる”というスタンスです。

【山崎】それは、“体感”が大きいという事なんですか? スペックだけを見て、書くことも出来るというか……

【五味】今は情報社会で、スペックは誰でも手に入れられるので、それだけでは価値が無いと思っています。そのスペックが、結果として「どういう風に感じるの?」「どういう経験や体験をもたらすの?」「どういう幸せが訪れるの?」といった事を、いかに伝えられるかという所が大事なのではないかと。

それは、試乗などで触れられたら本人がチェック出来るので、すぐ分かるんですよ。でも、その時間が無いとか、チャンスが無いというケースがあるから、不十分かもしれないけど、「僕が、代わりに乗っておくよ」と。僕のレビューをベースに、ある程度考えて候補を絞ってもらって、「その先は自分で乗ってみてよ」という想いでやっています。だから、僕は“代表者”の気分なんですよ。

【山崎】なるほどね。

【五味】その代表者でいる限り、「これに興味を抱く人は、たぶんこういう環境の人で、こういう感覚を持っているだろう」というのを感じたり考えたりしながら、そのクルマに挑むような感じです。だから、軽自動車に乗っている時に、ロールスロイスに求めているようなことは、これっぽっちも思っていないです。

【山崎】クルマ毎にユーザーをイメージしながら、レビューしているんですね。YouTubeの動画では、テスラのメーカー哲学のような、前半の話にあった“社会との繋がり”みたいな事も話していますよね。こういう話は、一般的なクルマのレビューでは、なかなか出てこないですよね。

【五味】でも、テスラとかに乗る人って、「俺の乗っているのは、今までのクルマとは違うんだぜ!」という所に誇りを感じて、そこにお金を払っているんですよ。だから、テスラのその部分を説明しないと、そこのニーズは満たせない感じがして話しをしています。

【山崎】早い者勝ちで、それに乗っている自分みたいな所ですよね。今後、YouTubeチャンネルをこう育てていきたいというビジョンはあるんですか?

【五味】実際に購入する時を思うと、「このクルマとあのクルマで、すごく悩むんだけど……」というケースがあるじゃないですか。

【山崎】確かに、ありますね。

【五味】これを直接比較したいんですよ。これが出来て、初めて僕がYouTubeでやりたかった所が、情報としては網羅できるかな。「代表としてやっています」と言ったんですけど、今は単にポイントで試乗しに行っているようなものなので、それだけではなくてクルマを買う時を想定して、比較していきたいと思っています。

【山崎】なるほど。話が尽きない感じですけれども、来週もお付き合いいただきますので、よろしくお願いします。本日のゲストは、モータージャーナリストの五味やすたかさんでした。ありがとうございました。

【五味】ありがとうございました。


【今週のプレイリスト】

▶︎五味 康隆さんのリクエスト
『The Beginning』ONE OK ROCK


といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。
来週も五味さんをお招きして、EVシフトなどクルマを取り巻く環境について伺います。

【次回1/16(日)24:30-25:00ゲスト】
モータージャーナリスト 五味 康隆さん

また日曜深夜にお会いしましょう!

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