見出し画像

琉球の歴史が磨いた、”おもてなし”の文化と”泡盛”。【2021/2/21放送_泡盛コンシェルジュ 比嘉 康二さん】

Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。今週は、泡盛コンシェルジュの比嘉 康二さんをお迎えして、泡盛の魅力を伝えるための活動や、泡盛自体についてたっぷりお話をお伺いしました。

【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy

【今週のゲスト】
泡盛コンシェルジュ 比嘉 康二さん

沖縄県宜野座村出身
国際通りの泡盛専門店で働いたことをきっかけに泡盛の世界に興味を持つ。
2009年から会員制BAR泡盛倉庫の店長に就任
沖縄県酒造組合主催の利き酒会では2年連続全問正解での金賞受賞。
2014年からは伊勢丹新宿店の沖縄物産展にて泡盛BARを展開。
酔うだけではもったいない、日本人の誇りにも繋がってゆく泡盛文化の魅力を伝えるために日々奔走中。

【今週のダイジェスト】

▶︎泡盛コンシェルジュの比嘉さんが読み解く泡盛

【山崎】3年ぐらい前になりますかね?泡盛倉庫に遊びに行かせていただいてからのご縁なんですけど。すごい素敵なお店なんですよね。泡盛倉庫について、ご紹介いただいても良いですか?

【比嘉】沖縄県那覇市にある会員制のバーでして、800種類程の泡盛があるのですが、食べ物も王様達が食べていた宮廷料理や器だったり。私が着ているのも”びんがた”という沖縄の伝統工芸なんですけれども、背景に沖縄の物語があって、国の物語まで感じてもらえたらと思っているお店です。

【山崎】一般的には、泡盛にそんなに種類があるんだって知らないと思うんですよ。簡単に泡盛のことを教えていただいていいですか?

【比嘉】シンプルな言葉でいうと、日本人のお酒なのでお米を使っています。国の流れから最終的にインディカ米というタイのお米をほぼ99%使って麹をつくって、そこから日本酒的なものをつくって焼酎と同じように蒸留して出来る。600年の歴史があり、琉球の物語とともに歩んできというのが泡盛かなと思います。

【山崎】沖縄という土地に根ざしたお酒なんですね。焼酎だと、芋・蕎麦・麦とかがあってマップが出来ていくと思うんですけど、泡盛の読み解き方を教えていただけますか?

【比嘉】業界的に、これが出来ていないのが一番の問題なんですね。私が思うのは、“世界で1番度数帯が広いお酒”です。主流は30度ですが、15度や43度など色んな度数帯があるので、「度数帯に合わした飲み方をしてください」とまず言います。それに、熟成年数といった2つのチャートがあるイメージですね。

【山崎】なるほど。だから、幅のある飲み方が出来るんですね。

【比嘉】43度ぐらいの熟成したお酒であれば、ウイスキーと同じぐらいですよね?だったら、食後酒として甘い物と合わせてみようだとか。25度~30度で食中に合わせるのなら、薄めて焼酎感覚で飲もうかなとか。アルコール度数を私たちの身近なものに例えて、調整するというのがすごく大事です。


▶︎琉球のおもてなしが背景にある泡盛の嗜み方

【山崎】泡盛倉庫に伺って、何よりも覚えているのは器なんですよ。

【比嘉】お酒が発達すると、周辺もどんどん良くなるので、泡盛のちゃんと確立したおいしい飲み方があるんですね。“カラカラ”という徳利みたいな酒器と“ちぶぐゎー”という小さなお猪口を使って、少量ずつ、ゆっくり味わうのが正しい泡盛の飲み方の1つですね。

【山崎】今、言葉で聞いてると、小さい徳利くらいに思うかもしれないですけど……。お弁当に入っている魚の形をした醤油があるじゃないですか、あれくらいしか入らないですよね?(笑)

【比嘉】そうですね。10ml入れば十分です。

【山崎】何であんなに、小さいんですか?

【比嘉】それは、やっぱり丁寧さですよ。飲み方って、すごくグラスでコントロールされているんです。ビールはジョッキで飲むから美味しいんだけど、どんなに美味しいワインでもジョッキに入れたら美味しく飲めません。琉球が色んな国の人たちと交流する中で、いい酒や食べ物をしっかり味わってもらい、美味しく感動させて国を繁栄させるという”琉球のおもてなし”の背景があるんですね。

【山崎】なるほど

【比嘉】なので、高い度数のお酒を酒器でコントロールして、いっぱい飲ませないようにしているんです。そういった意味で、杯がどんどん小さくなって行くわけですね。

【山崎】すごい文化の成熟の仕方というか独特の進化の形ですよね。島国であって、色んな国の交流地であって、だからこそおもてなしの形が独自で広がった。その象徴の1つとして、泡盛の飲ませ方という形で今も残っているということですかね。

【比嘉】こんなちっぽけな島国なのに、世界中の国と渡り合ってきたからこそ、文化を磨けたんですよね。450年の琉球があったので、450年間磨いた文化って、きっと世界中に通用するオリジナリティがあるはずなんです。泡盛もそうやって磨かれていったんだろうなと思います。

【山崎】お店で出していただいた、あの沖縄の有名なお菓子は何でしたっけ?

【比嘉】謝花きっぱん店という宮廷菓子を作っている砂糖菓子屋さんの“冬瓜漬け”という砂糖菓子を食べてもらいました。

【山崎】あれが、泡盛とのマッチングがすごいですよね。それと、山羊もいただいて。僕の中では”沖縄からのおもてなし”の感じをすごい受けたというか。沖縄で、あの温度・湿度で、あのお話があって、おつまみ・食べ物があって、それであのお酒というのが本当に輝くんだなと思ったんですね。お酒って「その土地の物なんだな」とよく色んな所に行って思うんですけど、泡盛は、どういう風に合わせるのがいいというのはあるんですか?

【比嘉】そもそも、泡盛は砂糖の入っていない蒸留酒なので、馴染みやすく邪魔はしないお酒です。食事に合わせるのなら、お醤油と相性がいいので、お刺身に醤油をつけて泡盛を飲むと、お醤油のうまみを泡盛がスーッと広げてくれるので。とっておきは、ウイスキーにチョコレート菓子を合わせるように、冬瓜漬けをゆっくり食べながら、ちびちびと度数が高い古酒を飲んでもらえると、きっと王様と同じような幸せな時間を、体感する事ができます。

画像2

▶︎“誇酒プロジェクト”を通して伝え続ける沖縄のお酒の魅力

【山崎】2018年に立ち上げられた”誇酒プロジェクト”のことを教えていただけますか?

【比嘉】世界中から色んな物がやってくる時代なので、地域の文化がどうしても苦しくなっている現状があります。そんな中、宮古島にあった小さな蔵元・千代泉酒造さんが社長さんが倒れ、後継者不足で事業継承をしないで廃業をするとなって、タンクに古酒がいっぱい残っていたんですね。ですが、酒税の関係で、売れなかったら廃棄、海に捨てるしか無いんです。廃棄寸前まできて、いてもたっても居られなかったので、色んな人たちの力を借りて、買い取り資金を集めて、タンクごと全部買っちゃったんです。

【山崎】なるほどね。

【比嘉】小さな泡盛たちですけれども、持っている歴史背景は本当に素晴らしいので、最後の泡盛を通して、もう1度日本のお酒の魅力を、沖縄のお酒の魅力を届けることが出来れば、きっとそれは私たちの誇りになるんじゃないかなと思って。そして”誇酒プロジェクト”という事業を立ち上げて、宮古島の最後の泡盛をブランディング・製品化して、少しづつ皆様に届けているという最中です。

【山崎】ボトルも見せていただきましたけど、本当にお酒をきちんと立てているコミュニケーションの仕方で。僕デザイナーなので見た目の話ばかりですけど、すごい綺麗なボトルですよね(笑) 

【比嘉】そう言っていただけて嬉しいです。

【山崎】『31/32』と分数のような形で、すごいシンプルなタイポグラフィがボトルにラベリングされていますけど、どういう意味なんですか?

【比嘉】泡盛を守ることは出来たけれども、肖像権の問題で『千代泉』という名前が使えなかったんですよね。なので、新しい名前を付けるというのがプロジェクトのそもそものスタートだったんです。31というのが、私が蔵で観た最初の数字なんです。廃業した蔵に行って扉を開けたときに、カレンダーが12月31日で止まっていたんです。当たり前ですけれども「31って、終わりの数字だったんだな」とすごく実感させられて。

【山崎】なるほど。

【比嘉】私たちの事業は、ただ、残っている泡盛をちゃんと飲んでもらって終わりを作る、命を見届ける役割というのをプロジェクトのテーマにしているんですね。なので、31は終わりの数字、千代泉の数字だと思っています。私たちが何しているかというと、お話させていただいている時間も含めて、泡盛に興味を持ってもらう、小さな蔵のことを知ってもらう。この時間が、泡盛の未来に繋がるのであれば、千代泉からもらった32日目なのかなというのが、プロジェクトの思いで、日付の意味で『31/32』と呼ばせてもらっています。

【山崎】本当に素晴らしいですね。こういうプロジェクトや思いを伝えていくとか、そういうものが世の中に広がっていくストーリーなのかなと思いますよね。誇酒プロジェクトでは、ブレンド泡盛も発売されていますけど、どう違ってくるのですか?

【比嘉】このプロジェクトでは、”追悼”をテーマとしてブレンドさせてもらっています。最後の泡盛を売ることに未来はないので、最初に“終わりがあることを知ってもらう”という事で、泡盛業界の蔵元さんと一緒に発信しています。そうすれば、千代泉酒造を知らなかったけれども、ブレンドした蔵元さんのことを知っていれば、向き合ってもらえる。味覚的な要素だけではなく、感情と向き合った分だけ、お酒たちは答えてくれるので、そういう時にもお酒って実はおいしくなるんですよね。そこに協力してもらった蔵元さんたちがあって、ブレンドシリーズを3種類出させてもらいました。

【山崎】どうしたら誇酒プロジェクトのお酒買えますか?

【比嘉】“誇酒プロジェクト”で検索するとサイトがあります。物語が出てきて、そのまま購入ページへ行けますので、ぜひ一度ご覧になっていただけると嬉しいです。

▶︎山崎晴太郎とコラボレーションするとしたら?

【山崎】ゲストの方、皆さんにお聞きしていることを伺いたいと思います。僕、山崎晴太郎ともしコラボレーションするとしたらどんなことをしてみたい、もしくはできると思いますか?

【比嘉】いっぱい泡盛の愛を喋るので、その中でワクワクしたものを形にしてもらい、泡盛を設計していただきたいです。ぜひ皆さんの時代に寄り添って、ブランディングしてもらえたらとても幸せです。

【山崎】僕、横浜出身なんですけど、その愛情に嫉妬しますよね。自分のルーツや出自、文化にまっすぐに愛を注げるということが素晴らしいなと思いますね。

【比嘉】これで、生かされているので、本当に泡盛を取っちゃったら本当に何もなくなっちゃうので(笑)

【山崎】いやいやいや。ありがとうございます。それでは、この番組のコンセプトである『文化百貨店』という架空の百貨店があったとして、バイヤーとして一角を与えられたらどんなもモノを扱いたいですか。

【比嘉】私は泡盛をしっかり伝えたい身なので、千代泉を扱いたいなと思いました。どんな文化でも価値を届けないと廃れてしまう、終わりが来てしまうので、この千代泉という終わりのあるお酒を通して、物語がいつか終わりがあるということを分かってもらえたらと。きっと私たちの身近にある文化って、魅力的だから伝えられてきて、現在に至ると思うので。その文化に、少しでも向き合ってもらえるように、届けたいなと思いました。

【山崎】なるほどね。知られていないというのがどれだけ不幸な事なのかという事ですよね。今日の比嘉さんの言葉が、人の心を動かすような気がしますね。今回のゲストは、泡盛コンシェルジュの比嘉康二さんでした。ありがとうございました。

【比嘉】ありがとうございます。


【今週のプレイリスト】

▶︎比嘉 康二さんのリクエスト
『ナライブサン』アラカキヒロコ

▶︎山崎 晴太郎のセレクト
『Morgon』Peter Sandberg

といった所で、沖縄とリモートで繋いだ今週の文化百貨店は閉店となります。

次回は、またまたロケ企画!ギンザ・グラフィック・ギャラリーにお邪魔をして、キュレーターの北沢永志さんにお話を伺っていきます。

【次回2/28(日)24:30-25:00ゲスト】
公益財団法人DNP文化振興財団 ggg・ddd企画室 キュレーター 北沢 永志さん

画像1

1958年長野県飯田市生まれ。1980年慶応義塾大学文学部卒業。大日本印刷株式会社(DNP)入社。1991年よりギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)担当。2008年より、グラフィックデザインを中心とする芸術文化の普及、振興を目的とした活動は、公益財団法人DNP文化振興財団に移行。以来、財団のメンバーとして、京都dddギャラリーも担当。キュレーター(学芸員)として、これまでに国内外のグラフィックデザイナー、アーティスト、団体等300回以上の展覧会を企画・開催。

また日曜深夜にお会いしましょう!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?