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“do”ではなく“be”で、自分の「在り方」に言葉をつけた肩書き、ストーリーテラー【2021/11/14放送_フリーランスのストーリーテラー 宮本 裕人さん】

Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。
11月14日の文化百貨店のゲストは、フリーランスのストーリーテラー・宮本裕人さん。『WIRED』日本語版のエディターを経て独立され、文章を通じて様々なジャンルの情報を発信されています。今回は、宮本さんのキャリアの変遷や、共同で立ち上げたニュースレター『Lobsterr』について伺いました。

【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy

【今週のゲスト】
フリーランスのストーリーテラー 宮本 裕人さん

1990年、神奈川生まれ。『WIRED』日本版エディターを経て、2017年よりフリーランスとして活動中。2017年にロングフォームに特化したストーリーテリングプロジェクト『Evertale』をスタート。2019年に時代と社会の変化に耳を傾けるメディアプラットフォーム『Lobsterr』を共同設立。編著に『いくつもの月曜日』(Lobsterr)、訳書に『サラリーマンはなぜサーフボードを抱えるのか?』(真崎嶺)がある。

【今週のダイジェスト】

▶︎doではなくbeから付けた肩書“ストーリーテラー”

【山崎】ようこそ、文化百貨店へ。Lobsterrを毎週楽しみに読んでいます。

【宮本】ありがとうございます。

【山崎】宮本さんは“ストーリーテラー”という肩書で、文章を扱う仕事をされていますよね。例えば編集、エディター、ライター、作家、詩人など文章にまつわる肩書が色々ある中で、ストーリーテラーという肩書にはどういう思いが込められているんですか?

【宮本】ストーリーテラーというのは、2017年に僕が『WIRED』から独立をした時に、自分で名づけた肩書となります。フリーランスとして自分が「どういう活動をしていきたいか?」と思った時に、中々1つに絞れなかったんですね。 “ライター”と名乗ってしまうと、出来ることが限られてしまうようなイメージがありましたので。

そんな時、greenz.jpというWebマガジンの編集長をされていた兼松佳宏さんが“beの肩書き”というのを発信していらしたんですね。世の中の多くの肩書は“やること=do”に対して付けられていると思うんですけど、「その人の在り方に言葉をつけて名乗ろう」というコンセプトを兼松さんが言われていたんです。その考え方に、僕もすごく影響を受けて、ライティングに共通する事や僕自身が何をやっていきたいかを考えて行ったときに、「ストーリーを伝えていくこと」だと思って、“ストーリーテラー”という自分のbeの肩書を付けたという経緯になります。

【山崎】なるほどね。そのbeの感じは、すごく良く分かりますね。やれる事も、やる事も、繋がり方もどんどん可変していて、最近は領域を横断する人が結構多くなってきているじゃないですか。同じように、既存のカテゴライズに限界を感じている人は、多いような気がしますよね。

この話の流れで、“言葉の選び方”についても伺いたいと思います。難しい話をそのまま書こうと思えば書けるし、簡単にし過ぎると逆に分かりにくくなったりもしますよね。そんな中で、言葉の選び方で、意識をされている事はありますか?

【宮本】私の場合は、人にインタビューをして文章を書くという事が多いんですね。例えば、山崎さんにインタビューをして、その記事を僕が書くとしましょう。その時、読者にとっては、僕が書いた文章が山崎さんの言っていることだと受け取られますよね。そこで、僕としては山崎さんが“言っていなかった事を言ったように”は出来ないわけです。なので、インタビューされた側の人が「これが自分の伝えたかったことなんだ」と、思ってもらえるような文章を書きたいなと常々思っています。

【山崎】僕もたまに取材を受けますけど、「そうそう!こういう事が言いたかった」というまとめ方をしてくれると、嬉しいですよね。

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▶︎「名刺1枚でどこへでも行けて、誰とでも会える」という言葉で志した編集者への道

【山崎】宮本さんは、大学時代は生物工学をされていたんですね。そこから文章を書く仕事を志したきっかけは、あったのですか?

【宮本】生物が好きで、研究者になりたくて理系の大学に進んだんですね。大学3年になって、周りに流されて就職活動をするんですけど、「これが本当に自分がやりたい事なのかな?」って、分からなくなってきたんですよね。その時に一旦、就活を辞めて色んな経験をしてみようと、海外に一人旅に行ったりしていました。

そんな中、ニュージーランドにボランティアをしに行くために乗った飛行機で、ある人と出会ったんです。当時70歳のイマイさんという方で、お話するとすごく面白かった。当時の僕が、興味を持っていたテクノロジーやサイエンスの事もよく理解をされていたし、政治・経済についても明るかったし、とにかく色んな事を知っていて「このおじさん、かっこいいな」と素直に思ったんですね。

それで僕が、「なぜ、こんなに色んな事を知っているんですか?」って聞いたら、イマイさんは「自分は編集者だからだよ」って仰ったんですね。当時はもうリタイアされていたんですけど、イマイさんは元々、岩波書店の編集をされていた方だったんです。

それから、イマイさんに「宮本君、編集者の特権は何だと思う?」と質問をされたんですが、当時の僕は、その仕事を全く知らなかったんですけど、「名刺1枚でどこへでもいけて、誰にでも会える事だ」と教えてくれたんですね。その言葉を聞いて、僕もそういう仕事をしたいと思ったのが、メディアの仕事を志すきっかけになりました。

【山崎】なるほどね。完全にターニングポイントという感じですね。

【宮本】その出会いがなかったら、今の仕事をしていなかったかもしれないですね。

【山崎】キャリアとして、『WIRED』が最初なんですか?

【宮本】はい。新卒で入っています。正確にいうと、中途採用をしていた所に「新卒はダメだ」と書いてなかったので、門を叩きに行ったような感じです。

【山崎】よく聞く、“成功する人のエピソード”って感じですね(笑) WIREDに掲載されているような、テクノロジーやサイエンスフィクションみたいな、知性的な文章が好きだったんですか?

【宮本】そうですね。元々理系だったので、テクノロジーやサイエンスは好きでした。とはいえ、WIREDはテクノロジーを謳っているんですけど、テクノロジーというレンズであらゆる物を特集して、切り込むことが出来る媒体だと思うんですよね。僕は理系の大学には行っていましたが、当時から色んな事に興味をもっていたので、振り返るとWIREDという媒体は、“何でもできる”という意味で、自分に合っていたのかなとは思っていますね。

【山崎】WIREDは、切り込む角度や切り口に圧倒的な個性がありますもんね。クリエイティブも衝撃だったというか……。WIREDに影響を受けたWebマガジンって多いんじゃないかなと思いますよね。当時、印象に残っている事とかあります?

【宮本】辞める直前にやった仕事で、アフリカ特集というのがありました。当時の編集長から出されたお題が「2週間、アフリカに行ってきて、見たことを書け」というような物だったんですね。それで3人の編集者が、それぞれアフリカの各地域に行くことになって、僕はケニアとルワンダに行ったんですけども。

【山崎】すごい企画ですね(笑)

【宮本】何人かは事前にアポイントメントを取っていたんですけど、ほとんどは“わらしべ長者”的に、ある人に出会ったら「周りに面白い人が居ないか?」と聞いて、また別の人に会っていくというような時間を2週間過ごしたんですね。特にケニアでは色んな人に会いました。日本ではあまり知られていないんですけど、The Nest Collectiveというアート集団やエリック・ハースマンという現地ナイロビのテックイノベーションの中心人物にも、ひょんなことから会えたりもしたんです。

【山崎】そう簡単に、会えるものなんですか?

【宮本】2週間の中で、本当に色んな人に会えたんですよね。イマイさんの「名刺1枚で色んな人に会える」という言葉を体験できた取材だったのかなと思っています。このアフリカ特集は、今でも手に取れると思うので、ぜひ読んでいただきたいです。

▶︎古くて新しい“ニュースレター”を使ったメディア『Lobsterr』

【山崎】2019年に宮本さんを初めとする3名で共同設立をされたのが、時代と社会の変化に耳を傾けるメディアプラットフォーム『Lobsterr』。どのようなものか教えていただけますか?

【宮本】ビジネスデザイナーの佐々木康浩さん、岡橋惇さんと、僕宮本の3人で始めたメディアになりますね。当初は毎週月曜日に配信するニュースレター『Lobsterr Letter』のみだったんですけれども、最近はポットキャストの配信や書籍の発売もしていて、色んなチャネルを広げています。

Lobsterrとして大事にしているのは、“小さな声に耳を傾けること”。今日本では知られてはいないけれども、これから大事になってくる考え方や価値観、変化の兆しといったものを世界中のメディアから集めて、それをまとめて日本語で紹介をしているというニュースレターになります。

【山崎】ニュースレターを選んだ理由はあるんですか?

【宮本】実は発起人は僕ではなくて、佐々木さんなんですね。僕は声を掛けていただいてチームに参加をしたんですけれども、佐々木さんが「ニュースレターのメディアをやりたい」と言われて、その瞬間に「僕も一緒にやろう!」と思ったんですね。

というのも、ニュースレターは「古くて新しいチャネル」だと僕は呼んでいるんです。Eメールが出来たのはインターネットの初期からなので、もう25年以上前なんですけれども、最近改めてニュースレターが注目されているんですね。その理由はいくつかあると思うんですけど、1つは情報が多すぎる時代において、SNSとは対極にある存在だと考えています。

例えば、Twitterでバズるような、短い・分かりやすい・速いというコンテンツが、たくさん生まれていると思うんですけれども、ニュースレターを読む時は、周りに広告も無ければ、目移りするようなものも無く、完全にコンテンツに没頭して読むことが出来る体験だと思うんですよね。そういった意味ではSNSとは真逆にある存在かなと思って、僕らは注目をして使っていますね。

【山崎】なるほどね。ニュースレターやポッドキャストは、海外と日本で、少し位置づけが違い始めている部分がありますよね。ちなみに、Lobsterrのニュースレターは、月曜日の朝7時に届きますけども、これは何か狙いがあるんですか?

【宮本】最初は、僕ら都合と言いますか……。僕はフリーランスですけど、他の2人はフルタイムで本業があるので、月曜日から金曜日はお仕事があるんですよね。なので、ロブスターの編集は、週末に行われることが多いんですね。それで、月曜日の朝に届けようという事になりました。

始めた時は意識をしていなかったんですけれども、読者からの感想やフォードバックとして「休みのモードから仕事のモードに入れ替わる、モードスイッチャーのような役目になっている」という声を頂いています。あと、月曜日って少し憂鬱じゃないですか?そういった月曜日の朝に「気持ちをワクワクするような存在にLobsterrのニュースレターがなっている」という声をもらって、僕らが意識をしていなかった形でのLobsterrの役割が出来て良かったなと思っています。

【山崎】編集方針やトピックは、どうやって出来上がっているんですか?

【宮本】実は、編集方針は無いんですよね。“what we read this week”と書いてある通り、その週に僕らが読んだものを集めているだけなので、「今週はこのテーマで行こう」とか「このテーマを多めに扱おう」という打ち合せは、一切なしでやっているんですよね。

ただ、面白いのが、メンバーがバラバラで選んだものが、自然と重なっていたりするんですよね。あとは、同じテーマについてフォローしているんだけれども、続けていく中で議論の内容が変わってきたりするのがLobsterrならではの面白い事なのかなと思っています。

【山崎】なるほどね。自分たちも楽しみながら運営しているという事なんですかね。実は僕も、Lobsterrで知って、買った本が何冊もありますよ。友達から薦められるような感覚が、あって距離感が丁度良いんですよね。

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▶︎2019年~21年の時代感や空気感が伝わる書籍『いくつもの月曜日』

【山崎】Lobsterrが届けるブックレーベル第1弾として、『いくつもの月曜日』という書籍が9月に出版されました。こちらの本のご紹介をいただいてもいいですか?

【宮本】Lobsterrで配信しているニュースレターの最初に“outlook”というエッセーがあるんですね。これは、メンバー3人が交代制で書いているものになります。2019年から配信を続けて、2021年の初めにvol.100を迎えたんですけれども、『いくつもの月曜日』にはvol.1~vol.100で配信されたoutlookを束ねた1冊になります。

【山崎】内容についても教えていただけますか?

【宮本】コロナにおけるパンデミック、アメリカで起きたBlack Lives Matter、あとは僕らが興味をもっているブランドやテクノロジーの在り方がどう変わってきたかやサイエンスなどのトピックがあります。他には、3人とも本や映画が大好きなので、3人が触れたコンテンツというのがあったり、本当に多岐に渡る内容が納められているので、「こういう本ですよ」と説明しにくい本になってしまったなと、我ながら思っているんですけれども(笑)

とはいえ共通しているのは、3人のパーソナルな視点で世の中の現象を読み解いたり、起きた事象に対して自分自身が考えた事をパーソナルな視点で綴っているというのは共通している事だと思います。なので、この本を手に取っていただくと、何となく2019年~2021年の時代感や空気感が伝わるのではないのかなと思いますね。

【山崎】僕はLobsterrを読んで「思考は止めてはいけないんだ」と良く思うんですよ。一定のところまでインプットや整理をしていくと、何となく人と話せるようになじゃないですか。でも、その思考ってそこで終わりではなくて、より深いところまで自分を牽引していかないといけないという想いが、僕には強いんですよ。Lobsterrは、その想いを後押ししてくるような存在なんですよね。

『いくつもの月曜日』は、紙の書籍で発売されています。「紙の本って……」という議論が、昨今はよくあるじゃないですか?そんな中で、あえて紙の媒体を出すという意味合いをお聞きできますか。

【宮本】最初のきっかけはシンプルで、3人とも本が好きという事で「本を出したいね」という所から始まったんです。出版して1カ月くらい経った今、何となく感じていることをお話したいと思うんですけど、ニュースレターって、メールアドレスの受信箱に直接届くという意味で、すごく極めてパーソナル、またはプライベートなメディアだと思うんですね。

一方で紙の本はパブリックな存在だと思うんです。今、都内のいくつかの書店でも『いくつもの月曜日』が置かれているんですけれども、そうやってフィジカルな場所に置かれていることで、それまでLobsterrを知らなかった人が、偶然見付けるという事もあると思うんですね。あと、この本を買った読者から寄せられた感想の1つが、「ニュースレターだけだったら、人にオススメし辛かった」というものなんです。ニュースレターだと自分のスマートフォンを見せるしかなかったんですけれども、紙の本になったことで、貸したりプレゼントをしたり、人に渡せる物になったという感想をいただいて、すごく嬉しかったんですね。そういう経験から、パブリックなメディアというのが、紙の本なのかなと、最近は考え始めていますね。

【山崎】なるほど。それは確かにあるかもしれないですね。特に携帯だと、紹介しにくいタイプのコンテンツですもんね。

【宮本】そうですね。Lobsterrは文字だけなので、パッと見で面白さが伝わりにくいニュースレターだと思うんです。だけど、紙の本だと、表紙や使っている素材の手触りを含めてLobsterrの価値観や世界観を感じ取ってもらえるように仕上がっているんじゃないのかなと思いますね。

【山崎】その通りだと思います。ブックレーベル第1弾、今後も出されていくんですか?

【宮本】はい。出していきたいと話していますね。

【山崎】楽しみにしています。Lobsterrを毎週読んでいて、「どんな方が作っているのかな?」と、気になっていたので、すごく興味深い時間でした。ぜひ『Lobsterr』で検索をして、チェックをしてみてください。本日のゲストは、フリーランスのストーリーテラー宮本裕人さんでした。ありがとうございました。

【宮本】ありがとうございました。

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【今週のプレイリスト】

▶︎宮本 裕人さんのリクエスト
『I Know Sometimes a Man Is Wrong / Don’t Worry About the Government (Live)』デヴィッド・バーン


といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。
来週も宮本さんをお招きして、最近手掛けた翻訳作品やLobsterrのポッドキャストについてお伺いしていきます。

【次回11/21(日)24:30-25:00ゲスト】
フリーランスのストーリーテラー 宮本 裕人さん

また日曜深夜にお会いしましょう!

Spotifyでアーカイブをポッドキャスト配信中




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