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アーティストにとって重要なのは“リアリティ”と“自分に嘘をつかない”こと。【2021/2/7放送_現代美術家 宮島 達男さん】

Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。今週は、現代美術家 宮島 達男さんをお迎えして、長年携わられているプロジェクトについて、たっぷりお話をお伺いしました。

【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy

【今週のゲスト】
現代美術家 宮島 達男さん

2006-2016 京都造形芸術大学/東北芸術工科大学副学長を務める 1986年 東京芸術大学大学院修了。1988年ヴェネツィア・ビエンナーレ、新人部門に招待され、デジタル数字を用いた作品で国際的に注目を集める。以来、国内外で数多くの展覧会を開催。世界30カ国250か所以上で作品を発表している。1993年ジュネーブ大学コンペティション優勝。1998年 第5回日本現代芸術振興賞受賞。1998年 ロンドン・インスティテュ―ト名誉博士授与。代表作に「メガ・デス」など。また、長崎で被爆した柿の木2世を世界の子どもたちに育ててもらう活動、「時の蘇生・柿の木プロジェクト」も推進している。
Tatsuo Miyajima Website: http://tatsuomiyajima.com/、
「時の蘇生・柿の木プロジェクト」:http://kakitreeproject.com/

【今週のダイジェスト】

▶︎3.11の記憶を留め未来に希望を繋いでいく

【山崎】新型コロナウイルスの影響で、今回の収録もリモートになってしまっている訳なんですけれども、この現状をアーティストとしてどう感じられていますか?

【宮島】東日本大震災の時もそうだったんですけど、「自然というのは、本当にアンコントロールな世界だな」と思うんですよね。つまり、人間になんかにコントロールができるはずがないものが、いつのまにか科学技術が発達して、コントロールできるように錯覚していた。そういう人間の不遜さを反省させてくれているのかなと思いますね。

【山崎】なるほど。今、話題に上がった東日本大震災ですが、来月3月11日で、丸10年を迎えます。宮島さんは、3.11の記憶を未来に残していく『時の海ー東北』プロジェクトを進められているんですけれども、どんなものなのか教えていただいてもいいでしょうか?

【宮島】東日本大震災の記憶を留めて未来に希望を繋いでいくために、大きな作品を東北の沿岸部につくりたいという想いで3年程前から始めているプロジェクトです。大きなプールの中に、3000個のLEDを浮かべて作品化しようとしています。その3000個は、被災地の子供たちや住民といった人たちを中心にタイムセッティングをしてもらって参加してもらう。約10年かけてやっていきたいと思っていまして、完成した暁には、全国から展示場に行って、色々な思いを馳せていただいて、“あの日あの時何があったのか?”“自分はあの時何を考えていたのか?”そんなことを思い出す場、そして未来に東北の未来を思い描くような場所になったらいいなと思っています。

【山崎】僕も震災の直後には、仕事で被災した岩手県の山田町に行ったり、被災地の聞き書きの出版を手伝ったり、力になれることをと思ってやってきましたが、この10年で、自分自身の関わり方も、どんどん希薄化していくというか……。どうしても風化していく部分や、一方で残していかないといけない部分があったりすると思うんですけれども、この2つは今も活動されていて、どのように感じますか?

【宮島】私も被災地の人ではないので、外側の人間が云々というのは言えないし、住んでいらっしゃる人がどう思い、どう考えているのかが1番だと思うんですね。ただ、ずっと東北へ入り続けてい中で、5年目くらいからは、前を向いていくという傾向が強くなっていった印象があります。ですが、色々と話を聞いていくと、「忘れてほしくない」と言うことは、あちこちで聞きますね。私たちが東北と向きあって行くときに、やはり現地の方たちの話を傾聴して、寄り添って伴走していくという形がとても大事かなという風に思いましたね。

【山崎】我々は当事者では無いですから、まさにその通りですよね。『時の海-東北』では、被災地以外の方も参加できる、”サポートアーティスト”も募集されているということなんが、これはどういう立場なんでしょう?

【宮島】参加された方たちを”コラボレーションアーティスト”、サポートをしてくれた人たちを”サポートアーティスト”と呼んでいて、2者ともアーティストなんです。このプロジェクトは、大金を掛けないといけないので、そのサポートと資金援助をしてくれる方達を募集しています。実は、資金援助というのはお金を出すだけではなく、プロジェクトを実現させるという意義もあります。僕が企画をするんですけれども、関わってくださった皆さんと一緒に大きなプロジェクトを作り上げて、実現させようという意味でサポーターと呼んでいるわけです。

▶︎アーティストに重要なのは、自分に嘘をつかないこと

【山崎】これも大規模なプロジェクトだと思うのですが、1995年から、長崎で被爆をした柿の木2世の里親を探す『時の蘇生・柿の木プロジェクト』を実施されています。どんなきっかけでプロジェクトをスタートされたんでしょうか?

【宮島】今から25年前、展示会が企画されていたので長崎に訪れたんです。原爆遺構がたくさんある中、被爆をしたけれども生き残っていた柿の木を治療して、被爆2世の柿の木を作っている樹木医の先生のことを聞いたんです。その苗木を見に行ったら、被爆という宿命を背負いながらも健気に生きている姿に感銘を受けたんですよね。これを何とかして世界の子供たちに手渡しをして、育ててもらうようなことができないかなというので、東京で仲間と一緒にプロジェクトを始めました。今では、26カ国312カ所にまで植樹をすることができました。

【山崎】アイルランドで印象的な事があったということですが、どんな事があったんですか?

【宮島】このプロジェクトは、植樹自体が目的ではなくて、“植樹をしながらアート表現を行う”のが1つの大きな柱なんですよね。当時のアイルランドでは、長い間、プロテスタントとカトリックの間の宗教間対立というのがありまして、子供たちもその影響を受けて、同じ地域であっても、宗教によって通う学校が違っているわけですよ。その地域で植樹をやった時に、初めてプロテスタントとカトリックの子供達が共同で演劇を作ってくれたんですよ。そして、子供たちが柿の木育成会みたいなのを作ってくれて、お互いの学校から何人かずつ出てくれて、ずっと柿の木を育ててきてくれたんです。だから、アートというのはそういう風に宗教を超えたり、国境を超えたりというのが印象的でした。

【山崎】なるほど。まさに、今のお話をきくと先週ご紹介いただいた「戦争の対義語は芸術だ」という言葉が、このエピソードに裏打ちされていますよね。震災であったり原爆であったり、ともすれば世の中から抜け落ちていってしまうような部分にフォーカスを当てて、それをプロジェクト化して世の中に広げていくという事に、なぜそれだけのエネルギーで向かっているか教えていただけますか?

【宮島】僕は、アーティストなんだけど、普通にこの時代に生きている社会的な人間の1人として、色んな問題に敏感に反応してきているんですけれども、気持ちがまず先にあるんですよ。僕の心が、動くか動かないかなんです。そうでないと、リアリティーが無くなっちゃうんですよね。自分の心がムーブした時に、新しい世代に向けた新しい表現を加えていくと、大きな問題もアートとして蘇ってくるんですよ。

【山崎】なるほど。自分の心が動いた、その魂をそのままグッと掴んできて、出すところからしか作品の力って生まれないのかなと思いますね。

【宮島】そうですね。アーティストにとって重要なのが“リアリティ”と“自分に嘘をつかない”という事だと思うんですよね。自分自身が、本当に心が動いたのか、動かなかったのか。

【山崎】それって、すごい不思議な感じがしますよね。ある意味、“流行り”みたいなところも、社会的なテーマにはあったりするじゃないですか。そういうものを戦略的に使った表現で、人の心を動かすことは少ないなと思っていて……。だけど「なんで、そうなるんだろう?」。何で、魂は魂にしか呼応しないんでしょうね。

【宮島】作品は、その人自身を表す以外は無いんですよね。その人が、もし心のどこかで嘘をついていたら「それは、嘘だよ」というのが作品に現れてしまって、見る人たちもそれを嗅ぎ取ってしまうということだと思います。

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▶︎学生が変われば社会が変わる

【山崎】先週から、教育者の視点みたいなお話もありますが、2016年まで東北芸術工科大学と京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)の副学長も務められ、現在でも客員教授として後進の指導もされているんですね。15年に渡って指導をされ続けているということなんですけれども、きっかけはなにかあったんですか?

【宮島】長い間、世界中の優れたアーティスト達が集まって、ビッグイシューについて議論し合うアーティストサミットを開きたいと思っていたんです。その話を京都造形芸術大学の当時の理事長にお話をしたところ、賛同してくださって。そこからの教育・教壇という話ですね。

【山崎】教育をずっとやられてきて、何が一番面白かったですか?

【宮島】学生たちがほんの一言でガラッと変わっていく、その変化の激しさ、成長の早さというのがとっても見ていて楽しかったんですね。どこの学生、どの地域、どの時代であっても、学生たちはいつでもピュアな存在だと思うんですよね。それを面白くするか、つまらなくするかは、周りにいる大人たちだったり、教師の関わり方の問題だと思いますね。

【山崎】なるほど、それは、やりがいを感じる一番のポイントなのかもしれないですね。

【宮島】どちらの大学の理念も同じなんですけれども、僕は”学生が変われば、社会が変わる。社会が変われば、世界が変わる”という風に考えていて。その為に学生たちをピュアなまま送り出して、夢を持たせて、希望を持たせてどういけるかというのを考えて行きたいですよね。

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▶︎山崎晴太郎とコラボレーションするとしたら?

【山崎】それでは、最後はゲストの方、皆さんにお伺いしていることをお聞きしたいと思います。この質問自体が恐縮すぎるのですが(笑)僕、山崎晴太郎とコラボレーションするとしたら、どんなことをしてみたい、もしくはできると思いますか?

【宮島】先程、お話にあった東北のプロジェクトで、作品が完成したら、美術館ができるんですよね。当然レストランとカフェが必須だと思うので、プロフィールを拝見したところレストランのプロデュースもされているようなので、そのあたりのコラボレーションができたら嬉しいなと思いますね。

【山崎】ありがとうございます。恐縮です(笑) それでは、この番組のコンセプトである、『文化百貨店』という文化を伝える架空の百貨店があったとして、バイヤーとして一角を与えられたら、どんなモノを扱いたいと思いますか?

【宮島】僕は、本が好きなので、やっぱり本屋さんかな。アーティストブックというのが希少本として、結構あるんですよ。あまりたくさん作られないんだけど、アーティストが自分の手で作ったような本を世界中から集めてきて、並べるとかね。キーファーの巨大な本とか。そういう特別な本屋さんをやってみたいですね。

【山崎】それがあったら、めちゃめちゃ通いますね(笑) 今週のゲストは、現代美術家の宮島達男さんでした。ありがとうございました。

【宮島】ありがとうございました。


【今週のプレイリスト】

▶︎宮島達男さんのリクエスト
『You Are Not Alone』Michael Jackson

といった所で、今週の『文化百貨店』は閉店となります。

来週は、約2か月ぶりのソロ回。最近話題に上がったデザインに関するトピックを山崎なりの解釈でご紹介していきます。

【次回2/14(日)24:30-25:00】
山崎晴太郎ソロ回

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また日曜深夜にお会いしましょう!

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