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印象に残っているホテルブランディングPJから、自分の物語を作り変えたアート活動第2章【2021/6/27放送_山崎晴太郎ソロ回】

Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。
今週は4ヶ月ぶりのソロ会です。番組スタッフと、ゆるりと雑談的にお送りします。

【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎 晴太郎(@seiy

【今週のダイジェスト】

▶︎複合的な力が求められるホテルのブランディング

【山崎】今回は、番組スタッフとゆる~くお話をしていきたいと思います。ディレクターの木村さんです。

【木村】よろしくお願いします。2021年の上半期最後の文化百貨店ですけども、上半期で印象に残っている仕事はありますか?

【山崎】去年から一生懸命ブランディングをしていた、ひらまつの新しいホテルのオープンが3月だったんですよね。そこまでに、色々なプロジェクトを寄せていたので、結構印象に残っていますね。

【木村】どれくらいの期間をかけてやっていくんですか?

【山崎】今回の場合、僕らが入ったのが去年の8月なので、約7か月間、ホテル部門のブランディングをやり直すために並走していました。建物自体はある程度出来ていている中、サービスとして足りていないものや、コンセプトそのものを、議論をしながら作っていったんです。

【木村】すでに動いているなら残さないといけないものがあるし、期限も決まっているので、途中から入るのは大変だと思うんですけど、どうやって進めていくんですか?

【山崎】最初に概念やコンセプトをきちんとデザインをして、それを設計します。それから言葉に落として、最後にそれを画に落とすという順番で僕らはやっていきました。

【木村】言葉というのは、外に出るキャッチコピーのようなものですか?

【山崎】その手前ですね。そもそもの存在意義や、価値観の話です。ひらまつは、レストランの会社じゃないですか?泊まることが出来るレストランを“オーベルジュ”と言うんですけど、「今回はオーベルジュなのか?それとも違うものなのか?」「ひらまつがホテルをやるという事は、どういう事なんだ?」という所から、改めて紐解いていく感じですね。なので、関係者の中で持っている概念をほぐしたり固めたりしながら、一緒に作っていくイメージです。

【木村】人って近い記憶が強い人が多いので、もっと最近の話題を選ぶかなと思っていたんですけど、それだけ濃密に過ごしていたら、3月の思い出が残りますよね。

【山崎】僕が携わった仕事は色んな種類があるんですけど、ホテルは総合力が必要なんですよね。言葉の力や、グラフィックの力、サービス設計、制服のコーディネート。そして、料理もそうだし、複合的な力が必要なんですよ。昔から僕は、「全部デザインしたい」と言っていると思うんですけど、仕事で携わる中で最もそれに近いのが現時点ではホテルかなと。なので、結構思い出に残っていますね。

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▶︎クラフトコーラをサンプルに、新しいプロダクトの出し方を考えてみる

【木村】晴太郎さんの得意分野である、ブランディングに関して気になる記事があったので、ちょっと紹介させてください。1か月ほど前の毎日新聞の記事なんですけど、スパイスやハーブを独自にブレンドして作る“クラフトコーラ”が、奈良県内で相次いで登場しているそうなんです。これはご存知でした?

【山崎】いや、初めて聞いた。

【木村】ここで言うクラフトコーラは、缶に入ったのではなくジンジャーシロップのような感じでコーラの原液みたいなものなんですね。毎日新聞の記事の中で、特に気になった奈良県宇陀郡曽爾村から出ている“大和コーラ”を用意したので、飲んでみましょうか。

【山崎】飲みましょう!

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【木村】どうですか?

【山崎】(試飲をして)ハーブとスパイスの感じが、すごく強いですね。

【木村】古事記の時代から受け継がれた伝統的な生薬である、ヤマトタチバナ、ヤマトトウキ、キハダの実など、身体に良いスパイスやハーブを15種類以上使用と書いていますね。

【山崎】合ってる!

【木村】僕らの中でコーラと言えば、コカ・コーラやペプシコーラのイメージが強いですけど、このクラフトコーラは、そこに新しくチャレンジしているじゃないですか?でも飲んでみると、違うフィールドでもチャレンジが出来るものだと思うんですよ。コーラでもいけるし、ジンジャーエールと言える味の雰囲気もあるし、もっとハーブやスパイスを強調してもいけると思うんですけど……。ブランディングをする立場からすると、戦うフィールドをどうやって選択していきますか?

【山崎】ケースバイケースではあるんですけど、基本的に人間は、自分の頭の中に地図を持っていてその中で新しいものを分類する傾向があるんですよ。 “クラフトコーラ”と言われると、「コーラ族の中の職人っぽい感じ」と言う認識を始めるわけですよね。だから、その中でコミュニケーションをしていくパターンもあるし、全く新しい概念で地図に載せて行くパターンもあります。全く新しいパターンにする場合は、みんなが地図を持っていないから、大量のコミュニケーション量が必要なんですよ。クラフトコーラを作るメーカーさんは、恐らくそれだけのコミュニケーションコストを払えない事がほとんどだと思うんですね。なので、クラフトコーラという名前で出したのではないのかなと予想するんです。

【木村】でも、コーラという既存のフィールドで戦うのって難しいじゃないですか?いい意味でコーラを裏切らないといけないけれども、悪い意味では裏切れないですよね。

【山崎】僕が飲んだ感じで言うと、味も行為もコーラでは無いので、言葉を足すのは必要かなと思います。コーラに“シロップ状”という概念が全く無いし、ハーブやスパイスがこんなに来るイメージも無いじゃないですか?そういう意味では、 ドクターペッパーに近いというか。

【木村】あ~。そうですね。

【山崎】初めてドクターペッパーを飲んだ時に「なんだこれ」って思ったじゃないですか?それぐらい独自の立ち位置を取れる可能性はあるから、そういう目線で考えて行くというやり方もありますよね。見た目がメープルシロップっぽいですよね?

【木村】そうですね。メープルシロップとかウイスキーの小さなボトルのような感じですよね。

【山崎】そうですよね。だから、コーラという概念は外しておいて、行為だけは既存の地図に近づける。この大和コーラは粘性があまりないから最適解ではないんですけど、もっとメープルシロップっぽくすれば、“垂らす”という行為が追加されるじゃないですか?そういう感じで、「この概念は外す」「こっちは近づける」といった形で、新しいプロダクトを出していくことを考えれば良いんじゃないかなと思います。

▶︎「経験や体験を肯定する」アーティスト活動の第2章

“MUSIC FOR THE MARGINS” STEVE REICH/COUNTERPOINT at Meet in TOKYO

【木村】今年、晴太郎さんがスティーブ・ライヒのCounterpointシリーズにインスパイアーされた映像作品を公開しましたけど、Counterpointシリーズをどういう風に捉えたんですか?

【山崎】アーティスト作品としては、初めて映像のインスタレーションを作ったんですね。ミニマルミュージックの音の繰り返しの中に、音楽として“宇宙”があるだろうと思ったんですよ。僕らはそれを“音楽”として感じているけれども、「すくい取れないかな?」と思ったんですね。五線譜にしても音の羅列にしかなっていないんだけど、そこの間を可視化したいなと思ったんですよ。その可視化の方法を調べていたら、“シラブル”という音のリズムを図版化するプログラムがオープンソースで出ていたので、そのプログラムを使って3面の映像でライブの音楽をかけたんですよ。

【木村】なるほど。

【山崎】一見同じような波形が出てくるんだけど、グーッと寄って行ったら同じようなルートなのに全然違う形だったんです。そのすごく小さい粒を拡大して、断片的に繋いでいったのがその映像作品なんです。「音の粒」という表現を僕はよくするんですけど、音の粒と粒の間にあるものを可視化したというシリーズですね。

【木村】去年は、アート活動があまり出来ていなかったですよね?

【山崎】そうですね。

【木村】今年、晴太郎さんがアーティストサイトをリニューアルしたので見ていたんですけど、これまでのペイント系の手法では水墨画の文脈が強かったのが、今年発表されたものは、その辺りが薄れてきているように感じたんですけど……

【山崎】個人的には、アーティスト第2章と呼んでいるんですけど(笑) 自分の物語を作り変えたんですね。これまでは、デザイナーとしてのキャリアをあまり出さずに、ピュアなアーティストとして活動していたんですけど、アーティストとしてはスランプが続いていたんですよ。それもあって、「今までの経験や体験を肯定して行こう」と思ったんですよ。海外では言いにくいとかデザインとイメージがぶつかるから、Sei Yamazakiという名前でアーティスト活動をしていたんですけど、それもSeitaro Yamazakiに戻して、日本語版のサイトも作ってという感じですね。

【木村】それが、分かりやすく僕らの目で見えたのが、水墨画から一旦離れた感じになったのかもしれないですね。

【山崎】これまでの「全部自分の手で描かねばならない」という感じが、少ししなやかになった感じですね。そういう風になると、今まで好きだけど使わなかった日本のポップカルチャーや、プロダクトの技術や関係者というのが、使えるようになるんですよね。その流れで作品を発表し始めたのが、今年の春ですね。

【木村】ポップカルチャーに関して言うと、ナイキのスニーカーの作品ですよね。オブジェと言っていいのかな?

【山崎】そうですね。スカルプチャーいわゆる彫刻作品ですね。僕、大学は社会学部の中で写真を専攻していたんですよ。なので、“表現や芸術が社会的にどういう意味があるのか?”を学術的に研究して行くんです。その中に、本当にその意味が分かっているわけでは無くて、何となく記号だったり値段だったりで物事が売れているという“記号消費”という概念があるんです。記号消費を悪いと思っているわけではなくて、むしろ僕はナイキが好きなんですけど、一方で商品が記号化される、その記号の性質自体をアップデートして作品化したというのが、ナイキのスニーカーの作品なんですよね。

【木村】エアジョーダン1のナイキのスウォッシュの部分が……

【山崎】スウォッシュが堅いアクリルになっていて、それ以外のシューズ自体は砂の彫刻なんです。スウォッシュ部分のアクリルは工業製品なので、僕がいなくてもどこの地域でも同じものが作れるんですよ。だけど、他の部分は、僕が手を入れないと出来て行かない。記号は、それだけ“文化や時代を超えていく力もある”というメタファーにもなっている作品です。

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【今週のプレイリスト】

『Still Here』 Kllo

『Electric Counterpoint: I. Fast』 Steve Reich

『幸福の硬貨』 福山雅治

Spotifyでアーカイブをポッドキャスト配信中


スタッフと雑談形式でお送りした、今週の文化百貨店は閉店となります。
次回は、5月に新作『本心』が出版になった小説家の平野啓一郎さんをお迎えします。

【次回7/4(日)24:30-25:00ゲスト】
小説家 平野 啓一郎さん

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1975年愛知県蒲郡市生。北九州市出身。京都大学法学部卒。
1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。40万部のベストセラーとなる。
以後、一作毎に変化する多彩なスタイルで、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2004年には、文化庁の「文化交流使」として一年間、パリに滞在した。
美術、音楽にも造詣が深く、日本経済新聞の「アートレビュー」欄を担当(2009年~2016年)するなど、幅広いジャンルで批評を執筆。2014年には、国立西洋美術館のゲスト・キュレーターとして「非日常からの呼び声 平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」展を開催した。同年、フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章。
また、各ジャンルのアーティストとのコラボレーションも積極的に行っている。
著書に、小説『葬送』、『滴り落ちる時計たちの波紋』、『決壊』、『ドーン』、『空白を満たしなさい』、『透明な迷宮』、『マチネの終わりに』、『ある男』等、エッセイ・対談集に『私とは何か 「個人」から「分人」へ』、『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』、『考える葦』、『「カッコいい」とは何か』等がある。
2019年に映画化された『マチネの終わりに』は、現在、累計58万部超のロングセラーとなっている。
2019年9月から2020年7月末まで、北海道新聞、東京新聞、中日新聞、西日本新聞にて、長編小説『本心』連載。「自由死」が合法化された近未来の日本を舞台に、最新技術を使い、生前そっくりの母を再生させた息子が、「自由死」を望んだ母の、<本心>を探ろうとする。ミステリー的な手法を使いながらも、「死の自己決定」「貧困」「社会の分断」といった、現代人がこれから直面する課題を浮き彫りにし、愛と幸福の真実を問いかける平野文学の到達点。2021年5月26日、単行本刊行。
長編英訳一作目となった『ある男』英訳『A MAN』に続き、『マチネの終わりに』英訳『At the End of the Matinee』も2021年4月刊行。

また日曜深夜にお会いしましょう!


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