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香り×祈り×言語!?日本文化の隠れた頂点、“香道“とは?【2021/1/10放送_伝統文化研究者/有斐斎弘道館館長 濱崎 加奈子さん】

Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。京都シリーズ2週目です!
先週に引き続き、ゲストは伝統文化研究者/有斐斎弘道館館長の濱崎 加奈子さん。有斐斎弘道館にて、濱崎さんが研究されている伝統文化についてたっぷりお話をお伺いしました。

【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy

【今週のゲスト】
伝統文化研究者/有斐斎弘道館館長 濱崎 加奈子さん

神戸市出身。京都大学文学部(美学美術史学)卒業。東京大学大学院(表象文化論)博士課程修了。学術博士。公益財団法人有斐斎弘道館の代表理事であり、伝統文化プロデュース連を主宰。また、専修大学文学部准教授、北野天満宮和歌撰者、京都観光おもてなし大使など、多方面で活動。

【今週のダイジェスト】

▶︎「様々な伝統文化を体験して腑に落ちたい」

日本伝統文化研究家として、茶道・香道・能・和歌などを研究されている濱崎さん。多ジャンルの研究をされているように見えますが、近代以前の人たちはジャンルを横断して嗜んでいたと言います。

【山崎】様々な伝統文化に携わっていらっしゃいますが、最初はどの分野から始められたのですか?

【濱崎】最初はお茶ですね。家に外国の方が来られることが多くて、そういった時に母が浴衣を出してきたりお茶を点てたりしていたんですね。そんな影響から高校生の時に茶道部に入ったんです。その時から、「着物が綺麗やな」とか「先生の所作が素敵だな」と思っていました。

【山崎】そこからどうやって、今の立場になっていったのですか?

【濱崎】学生時代に京都南座という歌舞伎の劇場でアルバイトをしていたんですね。その際に、裏方さんから着物やかつらの材料がなくなってきているというのを耳にして「何か自分にできることが無いかな?」と思ったのが発端だと思います。

【山崎】1つのジャンルを掘っていく方って結構いらっしゃると思うんですけど、横断した時に伝統文化としての共通点みたいなのは見えてきましたか?

【濱崎】共通点が知りたいというのがあって、色んな所に入っていっているというのはありますね。研究するというよりは、体験や実践をして“腑に落ちたい”んですよね。それだけで分かったと思ってはダメなんですけど、少しやることによって分かることが物凄く大きいんです。あとは、今は分かれていると思っているジャンルが、実は分かれていなかったという所はありますね。

【山崎】ジャンル分けは、“後の時代のラベル”という感じですもんね。

【濱崎】そうです。1つを取り出しているから分かりにくくなっているけれども、元々の発想が一緒だったりとかして。近代以前の人たちは分野を横断するのが当たり前で「面白いことは面白い」と、仕事も1つだけではなく、いくつもやる人がいたんですよ。

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▶︎日本文化の隠れた頂点“香道”から見えるもの

濱崎さんの研究の中で、特徴的なものが香道にまつわるもの。香道の成り立ちについての資料が少ないという中で、2017年に『香道の美学―その成立と王権・連歌ー』を出版されています。

【山崎】香道にたどり着いたのはどのようなきっかけですか?

【濱崎】色々な伝統文化を手繰っている中で、日本文化の特徴として“見えないものに対する感性”があるなと考えました。そして、その最も象徴的なのものが香道ではないかと思って調べたという感じです。

【山崎】ここでは普通に“香道”って言っていますけども、なかなか一般の方には知られていないと思うんですよ。どんなものなのか、教えていただけますか?

【濱崎】匂いや香りの芸能です。“香りの道”と書くように、匂い・香りが一番大事ですが、実はそれだけではないと思っています。ご先祖様に捧げるお線香のように祈りがあり、宗教的な観念が含まれていて、あの世などの見えないものとの通信手段というのが1つの側面かなと。

【山崎】“上に向かっている”という感覚は、ありますよね。

【濱崎】もう1つ決定的なのは、“匂いに名前を付ける”ということ。匂いをそのまま表す日本語が少ない事からも、匂いと言語の感覚が全く違うものだと考えられるんですけど、あえて匂いに和歌的な言語を組み合わせていくという遊びなんですよね。

【山崎】すごい両面性を持った文化だと思いますよね。

【濱崎】言葉の扱い方というのは香道に限らず、日本文化の特徴的な所ではありますよね。

【山崎】色々な文化を研究されている中で、香道の1番の魅力は何だと思いますか?

【濱崎】著書の中で”隠れた頂点”と表現しているのですが、日本文化の中の日本文化だと思います。一番、削ぎ落としていった先の「ここが魂の原点じゃないか?」みたいな所を消化させて、芸能や形にしているという所はありますね。
人間の感覚の中でも匂いというのは、すごく原初的なところですよね?その原初的なところが、こういう文化になっているっていうっていうのが人間そのものじゃないですか。香道を探ることで「文化って何だろう?」っていう所を解き明かす鍵があるような気がしています。

【山崎】なるほどね。みなさんに、ぜひ一度体験していただきたいですね。日本文化は、体験が一番大きいファクターという気がしますからね。

【濱崎】そうなんです。”地球と共にどう生きるべきか?”というのも含めて、日本人にとって伝統文化は学びのツールだと思うんですよね。生活の中で文化を培ってきているということからも、遊びながら、「素敵だな」と思いながら、学びを得てきたということかなと思います。

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▶︎伝統文化は自分たちの根本

【山崎】現在は、専修大学の准教授をされていますが、今の学生さんたちは、伝統文化や芸能についてどう捉えていますか?

【濱崎】教壇に立ち始めた15年前と比べると、関心は増えていると思います。伝統文化が日常から離れたことによって、逆に興味の対象になったのではないかという感じはします。外国の方も日本文化に関心を持つ人が増えているので、同じような感覚ではないでしょうか。

【山崎】そういった学生さん達に授業を通して、なにを伝えたいとかありますか?

【濱崎】伝統文化は自分たちの根本なので「知らないという事がおかしいでしょ?」ということが最初かなと。そこに探求心を持つことで自分に自信を持てるし、何を見ても楽しくなるし、人生が楽しくなると思います。

【山崎】アイデンティティですもんね。例えば着物を着た時に、引き戸じゃ無いときの気持ち悪さってあるじゃないですか。そういうのも体験してみて欲しいですね。

【濱崎】そうなんですよ。今は、男女を問わず着物を着たいという人が多いので、憧れの対象になっているのかなという感じもします。

【山崎】個人的には、伝統文化に関しては学生時代の見学会みたいなのが良くないと思うんですよ。その時の体験が尾をひく感じがして。

【濱崎】すごくわかります。私の場合は中学校の時なんですけど、特に歌舞伎に詳しくない先生が、歌舞伎のDVDを見せてくれたんです。その時に、その先生はDVDを見て興奮されていたんですよ。“人が楽しんでいる”のを見たという影響は大きいかもしれない。

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【山崎】分からなかったとしても、魂が伝わってきますもんね。

【濱崎】そこが伝わらない体験をされた方は、すごく不幸だと思います。それを一緒にやっていきませんか?

【山崎】教育というのは絶対あると思いますからね。ぜひ、やりましょう!ここからはゲストのみなさんに伺っていることをお聞きします。僕・山崎晴太郎とコラボレーションをするとしたらどんなことをしてみたいですか?

【濱崎】何でしょう……。一緒に作品を作りたい!絵みたいなものもいいですけど、立体空間でもいいですし、一緒に発表がしたい!

【山崎】やりましょう!すごくやりたい。

【濱崎】嬉しい!最近、表現欲がふつふつと湧き出るんですよ(笑)

【山崎】「伝統文化を扱いたい」という気持ちはあるんですけど、扱うことへの怖さがあるんですよね。僕が扱うのと、濱崎さんと一緒に扱うのだと、言葉にはできないですけどあるじゃないですか。

【濱崎】あります、あります。

【山崎】伝統文化で新しいことをやる時の塩梅って難しいじゃないですか。そのテーマで出来ることと、通底に流れている文化の本質をきちんとアップデートして表現できることの両方のベクトルが必要だと思うんですよ。そういう事に挑戦したいと思っていたので、すごく嬉しいです。

【濱崎】ぜひ、やりましょう!

【山崎】それでは、最後の質問です。文化百貨店という文化を伝える架空の百貨店があったとして、バイヤーとして一角を与えられたら、どんなモノを扱いたいですか?

【濱崎】それは、もう伝統文化屋さんでしょ(笑) 全部が繋がっている感じを体験して欲しいですね。

【山崎】色んなものの本質が、そこに入れられたら良いですよね。今回のゲストは、伝統文化研究家で有斐斎弘道館館長の濱崎加奈子さんでした。ありがとうございました。

【濱崎】ありがとうございました。

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【今週のプレイリスト】

▶︎濱崎 加奈子さんのリクエスト
『Nuvole』Katsumi Nagaoka

▶︎山崎 晴太郎のセレクト
『Woven Song』Olafur Arnalds




といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。

来週も京都シリーズ第3弾。和菓子作家の杉山早陽子さんが主宰されている御菓子丸の工房にお邪魔をして、杉山さんにお話を伺います。

【次回1/17(日)24:30-25:00ゲスト】
和菓子作家 杉山 早陽子さん

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1983 年三重県生まれ。食べたら無くなる当たり前のことに着眼、表現方法としての和菓子に可能性を感じ、京都にて和菓子を学ぶ。鑑賞から食べるまでの行為を一つの体験として捉え、記憶に残る一瞬を和菓子に込めて制作する。10年間「日菓」としての活動を経て「御菓子丸」を主宰しながら和菓子を制作、展示、販売している。

また日曜深夜にお会いしましょう!

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