見出し画像

ダンスが日常にあるニューヨークの光景を、日本でも体験できるようにしたい。【2021/9/5放送_愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー/Dance Base Yokohamaアーティスティックディレクター 唐津 絵理さん】

Fm yokohama(84.7MHz)から毎週日曜日深夜24:30~25:00にお送りするラジオ番組『文化百貨店』。先週に引き続きゲストは、愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー/Dance Base Yokohamaアーティスティックディレクターの唐津 絵理さんをお迎えして、唐津さんが見て来られたダンスの世界や、ダンスを取り巻く現状について伺いました。

【パーソナリティ】
セイタロウデザイン代表・アートディレクター 山崎晴太郎(@seiy

【今週のゲスト】
愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー/Dance Base Yokohamaアーティスティックディレクター 唐津 絵理さん

お茶の水女子大学文教育学部舞踊教育学科卒業、同大学院人文科学研究科修了。舞台活動を経て、1993年より日本初の舞踊学芸員として愛知芸術文化センターに勤務。00年に所属の愛知県文化情報センターで第1回アサヒ芸術賞受賞。14年より現職。10年~16年あいちトリエンナーレのキュレーター(パフォーミング・アーツ)。
大規模な国際共同製作から実験的パフォーマンスまでプロデュース、招聘した作品やプロジェクトは200を超える。文化庁文化審議会文化政策部会委員、全国公立文化施設協会コーディネーター、企業の芸術文化財団審査委員、理事等の各種委員、ダンスコンクールの審査員、第65回舞踊学会大会実行委員長、大学非常勤講師等を歴任。講演会、執筆、アドバイザー等、日本の舞台芸術や劇場の環境整備のための様々な活動を行っている。著書に『身体の知性』等。アーティスティックディレクターを務めるDance Base Yokohamaは、2020年度グッドデザイン賞を受賞。

【今週のダイジェスト】

▶︎ニューヨークで体験したダンスが日常にある環境を日本にもつくりたい

【山崎】今回も唐津さんがアーティスティックディレクターを務めるYOKOHAMA DANCE BASE(DaBY/デイビー)から、お送りします。唐津さんは日本で初の舞踊学芸員として、プロデューサーやディレクターという立場からダンスに関わっていらっしゃいます。今までのキャリアを教えていただいてもいいですか?

【唐津】23歳の時に、ニューヨークでのダンスの公演で、ダンサーとして発表する機会があったんです。小さなフェスティバルで、小さな劇場での公演でしたが、街の人達が見ず知らずの日本人の作品を気軽に観に来てくれて、毎回満席だったんですよ。その時に、ダンスが一般の人々に受け入れられていて、喜んでくれる人がいるという事に衝撃を受けて、「どうやったら、こういう状況をつくり出せるのかな?」と考え始めるようになったんですね。

それで、日本に戻ってきた時に、自分がダンサーとして過ごすよりも「日本の組織を変えることが出来たら良いんじゃないかな?」と思い、今で言うプロデューサーやキュレーターという道を探そうと思いました。

【山崎】帰国後、愛知芸術文化センターにお勤めになるんですけど、日本で初の舞踊学芸員には、どういう風になられたんですか?

【唐津】愛知県が新しい劇場をつくるにあたって、ダンス専門のスタッフが必要だという事で、私がいた大学の研究室に相談に来られたんですね。その頃には、「日本のダンスの環境を変えたい」という旨を教授に話していたので「あなたに、ぴったりよ」と紹介されたんです。

【山崎】そうすると、仕事の内容も漠然としていたんではないですか?

【唐津】音楽や映画のプロデューサーはイメージが付くと思うんですけど、全然、分からなかったです(笑) 劇場や公演が、今ほどある時代では無かったので、何をするのかも分かりませんでした。だから、自分に近づけて舞踊学芸員の仕事を考えて行けたというのは、私には良かったのかもしれない。

【山崎】当時と現在で、ダンスを取り巻く状況が変わってきた印象はありますか?

【唐津】公共の劇場が増えたり、助成金が整ってきたという部分はあるんですよね。それによってダンサーや、ダンスをつくりたいカンパニー、振付家の数は増えている。けれども、そんなに多くない予算をたくさんの人が取り合う形になるので、1つ1つの作品が小粒になっているし、スケール感の大きな名作が生まれにくい状況であることは感じています。

【山崎】なるほどね

【唐津】だから、もっとつくる側も勉強しなきゃいけないし、貪欲に色んな事を学んでいかなきゃいけない。それには、やはりダンサーも音楽・美術・哲学などを吸収しないと、観客を惹きつける強い作品はつくれないと感じます。

画像2

▶︎クリエイティブかフィジカルか?ダンスの捉え方と教育

【山崎】ダンスの成熟度というと語弊があるかもしれないですけど、日本と海外の状況をどう感じていますか?

【唐津】国によって状況が異なるので、大きく括ることは出来ないですけど、例えばフランスでは高校に哲学の授業があったりするから、何かを考える事や問いを持つ事を誰もが日常的にしていますよね。でも、日本でダンスというと、考える事よりも先に「身体を動かす」という感じが多く、“アート作品をつくる”よりは“自分が動いて楽しい”という方向に行ってしまいがちですよね。そういう文化の違いは、教育に深く根差していると思います。

【山崎】日本では2012年頃から、ダンスが中学校で必修になりましたよね?

【唐津】「ダンスが必修になった」とよく言われるんですけど、必修になる前からも取り入れている学校はたくさんあったんですよ。なので、実はそんなに特別な事では無い。それから、皆さんが誤解している中では、ストリートダンスが授業に入ったイメージを持つ方が多いと思うんですけど、それも昔から“リズムダンス”というのがあったんです。

ダンスの教科といっても、リズムダンス、自分で考えてつくる“創作ダンス”、民族的な違いを知る事やコミュニケーションを考える“フォークダンス”という3種類があります。同じダンスでも、目的が全然違うんですよ。学校では、「このうちのどれかをやりましょう」という事なんですね。

【山崎】どれでも良いんですか!?

【唐津】創作ダンスをするには、創らないといけないので難しんですよ。だから、プロフェッショナルな先生がいないと、やりにくい。フォークダンスも『オークラホマミキサー』などは、踊ったことがあるかもしれないですけど、その地域の文化をダイレクトに持っているものなので、奥が深いものなんです。でも、そこまで本格的に学んでいる体育の先生がそんなに居ないので、これも結構難しい。

【山崎】それで、ヒップホップが、やりやすいという事なんですね。

【唐津】はい。ただ、それはダンスの、“身体を動かす面白さ”のみの成果なんですよ。

【山崎】僕もダンスが好きですし、自分もやっていましたけど、目から鱗というか……。ダンスに対する考えが整理された感じがします。

【唐津】フォークダンスって、実はとても奥深くて、地域の文化をダイレクトに反映しているもので、地域に暮らす人々の生活に密着している身体の動きで作られています。例えば、山が多い地域だと、足を地面に密着できないから、ジャンプが多いとか。平地だと、あまり足を大きく上げる必要がないから、すり足のような動きになるとか。動きは環境に依拠しているものです。

フォークダンスって、手を繋いで恥ずかしいとか、本質とはちょっと違うイメージをもっているかもしれませんが、円を描いて手を繋ぐという形式も宗教的な儀式。円というのは、最もシンボリックな命のイメージを通じて、生と死の循環を象徴しているわけです。だから民族舞踊を学ぶということが、“文化を理解する”ということまで教えてくださらないと、ダンスの本質は伝わらないわけです。

【山崎】そういうセグメントの曖昧さって、他の業界でもある気がしますね。ということは、ある程度、教育にメスを入れて行く事が必要になるんですかね?

【唐津】そこが、1番重要だと思っています。日本の人たちって真面目だから、ストリートダンサーでもバレエダンサーでも、技術の習得がすごいんですよね。だから、海外のカンパニーや大会でも結果を残しているんですけど、フィジカルなものだけで終わってしまうと、“鑑賞に堪えるもの”として残らないじゃないですか?鑑賞できる作品にすることで、それがビジネスにもなっていくので、深みのある作品をつくっていくための“思考”を鍛えなきゃいけない。身体だけではなくて頭も鍛えていかなければならない。

【山崎】古典や文学だったり、あらゆる所にそういった思考のヒントってありますよね。

画像3

▶︎今のこの時代に対して、ダンスがどういう役割を持てるのか?

『Life During Wartime』Talking Heads

【山崎】唐津さんが選んだ、Talking Headsの『Life During Wartime』を聞いていただきました。この曲は、どういう曲ですか?

【唐津】「いつ、こんな生活から解放されるのだろう」と、戦争中の制限された生活について描いた音楽ですが、今のコロナ禍の状況とも通じる内容だと思います。実は、12月に愛知県芸術劇場で初演を迎える予定の作品がありまして、DaBYアソシエイトコレオグラファーの鈴木竜が振り付けをするんですが、その中で使う予定の曲なんです。

その作品では、この曲だけではなくて社会に対して何らかの異議やメッセージを発するような“プロテストソング”だけを選んでいます。でも、それを私たちが直接メッセージとして伝えたいということではなく最近では、”Black Lives Matter”やハラスメントに対してなど、声を挙げられる状況がようやく出来てきたと感じているのですが、今のこの状況でも、私たちもこうした問題から目を背けるわけにはいかないと思っています。

私も女性なので、今の状況に至るまで色んな事を感じながら生きてきました。ダンスの世界は女性も多い業界なのに、例えば芸術監督や劇場館長、有名な振付家のほとんどが男性なんですよ。振付家とダンサーやスタッフとの関係もそうですが、作品に関わる私たちみんながこういった非対称的な関係を「私たちの中でも、考えていかなければならない」よね、という所から出てきているテーマです。コンテンポラリーという現代の作品をつくるに当たって、私たちが身体で感じている感覚を何らかの作品にする事は必要だと思うんですよね。

【山崎】なるほど。

【唐津】ダンスをどういう風に、コミュニケーションモードとして扱って行けるのかを実験してみようという作品です。実は、これはトリプルビルという形で3作品あって、その中の1つの作品です。あとの2本も流れるテーマに関しては一貫していて、“今のこの時代に対して、ダンスがどういう役割を持てるのか?”“身体は誰のものか?”をベースにしているような感じですかね。

【山崎】そういう話を聞いてから観ると、作品の見え方も違うでしょうね。DaBYでは、今後ほかにどんな企画が予定されていますか?

【唐津】DaBYには、ネザーランド・ダンス・シアター出身でダンスアーティストの小㞍健太というダンスを普及する伝道師的な役割として“ダンスエバンジェリスト”がいます。彼とずっと一緒にやっている『ダンサー、言葉で踊る』の音楽編として、歌手の坂本美雨さんとのトークとダンスと音楽のコラボをする企画が10月17日の日曜日にあります。DANCE BASE YOKOHAMAのホームページから、申し込みいただければチケットを購入することが出来ます。

▶︎ダンスを語ることが日常的になる風景を見てみたい

【山崎】最後のパートはゲストの方みなさんに伺っている事をお聞きしたいと思います。僕、山崎晴太郎とコラボレーションするとしたら、どんなことをしてみたい、もしくは出来ると思いますか?

【唐津】DaBY立ち上げから、色んなジャンルの人達が集まって何か新しいデザインを生み出していくことをやっています。例えば、DaBYの建物内の窓がたくさんある白い空間は、私の希望を伝えて馬車道にある建築事務所のオンデザインさんに考えていただいたんですね。あと、ロゴはダンスのイメージをお伝えしながらSPREADさんにつくっていただきました。そういった、ダンスよりも広いパフォーミングアーツやアートをコレクティブにつくって行くことと、更にDaBYがテーマとして掲げている“社会にダンスを開いていく”を、もっと違う所に連れて行ってくれるようなデザインを山崎さんにしてもらえたら良いなと思います。

【山崎】僕は、ダンスが好きですけど、自分が出来ない分、題材として何かをつくるのは、ぜひやってみたいですね。最後にこの番組のコンセプトである『文化百貨店』という架空の百貨店があったとして、そこでバイヤーとして一角を与えられたら、どのようなものを扱いたいですか?

【唐津】すごく悩んだんですけど、平凡な答えとしては、ダンサーたちがプラスチックケースの中に入っていて、その限られた中で、色んなダンスや自分の表現を見せていくみたいな展覧会ですね。もう1つは、小さい頃から裁縫が好きだったので、ぬいぐるみやビーズで何かをつくることを復活させてやってみたいなと。そういう可愛らしいグッズのショップも良いなと思いました。

【山崎】それも、見てみたいですね(笑) 最後になりますが、コンテンポラリーダンスを、どのように楽しむ環境や文化をつくっていきたいですか?

【唐津】私の原点となる、ニューヨークで体験した光景に少しでも近づいて、日本でも同じような空気を体験できるようにしたいと思うんですね。お仕事の後とかに劇場に来ていただいて、公演を観た後にお食事をして作品の感想を語り合う事がすごく特別な事ではなくて、日常的に行われる風景が見てみたいと思っています。

お金や時間に余裕がある層だけではなくて、忙しくて時間の無い人達が余裕を持って生活を楽しむような状況ができれば、日本の社会も少し変わってくるのではないのかなと思います。

【山崎】ダンスやその構造について、これだけの情報をもらえることはなかなか無いと思うので、新鮮で面白かったです。今回のゲストは、愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサー、DANCE BASE YOKOHAMAアーティスティックディレクターの唐津絵理さんでした。ありがとうございました。

といったところで、今週の文化百貨店は閉店となります。次回は、山崎が1人でお送りするソロ回。“アナログの美学”をテーマに、山崎が興味を持っている最先端とは少し距離を置くアイテムについてお話します。

【次回9/12(日)24:30-25:00】
山崎ソロ回

画像1

また日曜深夜にお会いしましょう!

Spotifyでアーカイブをポッドキャスト配信中


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?