しあうた

牧場物語(しあわせの詩)で得た人生教訓


世間では、のび太の牧場物語が発売されているらしい。
プレイした人達の感想を聞くに、ドラえもんが塩対応だったり、のび太が日の光を浴びれない地下生活をさせられていたりと楽しそうだ。
私も牧場物語は、一作だけプレイしたことがある。

牧場物語 しあわせの詩。

私の唯一の牧場生活はそこだけだ。
今から十年近く前、配偶者が中古で買ってきたソフトだった。ゲームキューブのソフトだったが、Wiiでのプレイが可能だったので触らせて貰った。

主人公は女子か男子が選べ、体力ゲージに変化は無いとのことだったので、主人公は女子にした。

初めての牧場ライフだったので、何もかも手探りの状態からのスタートだった。スカスカの、空き地が多い村で暮らすことになったティナちゃんこと私は、村長のテオドールが紹介する土地、川に近い、地図上やや左下に居を構えることにした。

最初は荷物も沢山持てない、体力ゲージも少ないティナちゃん。当時の攻略サイトの情報によると、歴代史上最弱のスタートらしく、ティナちゃんは昼の2時頃、よく畑で倒れ、村医者のアズマの所で意識を取り戻していた。
村医者のアズマは、我が家ではアズマックスと呼ばれた、落ち着いていて優しさがある、穏やかな好青年だ。

しあわせの詩では、性別によって結婚相手を選べるらしく、私はティナちゃんが担ぎ込まれる度に優しく諭す村医者を、将来の結婚相手の候補として考えていた。

ゲーム内は、音色と呼ばれる、今のゲームでいうトロフィーみたいなのが合計100個あり、その中の項目には『大地主の音色』や『ハッピーウエディングの音色』等があった。要は大金持ちになって土地を買いまくったり、結婚したり出産したりしないとトロフィーが埋まらないものである。

私は攻略サイトを読みふけり、土地を耕し、野菜を植えた。

私は色々な牧場物語をやっていないので分からないのだが、このゲームとにかくやることが多い。その上、歴代史上最弱の体力、荷物も持てる数が少ない(たしか最初は5個とかだった)、ちょっとかけずり回るとすぐアズマックスのベッドで目を覚ます、その繰り返しだった。

始めてやるジャンルのゲームで、次々イベントが発生、イベントをこなさなければ体力は増えないが、無理をするとすぐ倒れる、話しかけた村の住民は、一年近く過ごしてもどこかよそよそしい。当たり前である。好感度を上げるアイテムを渡しに行きもせず、クワを抱えたまま朝6時から活動するティナちゃんは、孤高の女子であった。

このゲーム、結婚機能があるので、恋愛ゲームが得意な人なら分かると思うのだが、好きなキャラクターのために、好みの作物を渡しに行ったりすると最短でハートが溜まり、様々なイベントののち結婚できる。

しかし私は何を間違ったか、村人全員の好感度を満タンにし、ティナちゃんを村の人気者にするのが責務だと勘違いしたのだ。

そうなると忙しさは格段に上がる。

卵を取ったらマヨネーズにし冷蔵庫に貯め毎日テオドールに渡しに行きつつ羊の毛を毛糸にしたらマーサに渡し鉱山でレアメタルを集め家に保管アンにプレゼント野菜を収穫したら冷蔵庫保管特定の野菜を出荷しないと村を去るキャラクターが居て定期的に村のお祭りが開催され季節限定の魚を釣りに行き秋はトリュフ探しにクワを振り回し冬は湖が凍って渡れるようになるのでそこの地下に潜り鉱物採取……。

さらに、村にいる動物たちにも好感度があり、ハートは最大10個、しかも、牧場物語しあわせの詩はバグが多いゲームで、野生動物と仲良くなりすぎてはゲームが進行しなくなる等という恐ろしい話があり、八方美人に好感度を上げすぎてもゲームが終了するというヤンデレ仕様だった。

進行不能にならないようになだめつつ、村人に好かれるため奔走し、音色というトロフィーを埋め、レシピの料理を作りつつ、宝石を大金払って加工してもらい、土地を買い、やることが、やることが多い……!!!(金田一少年 犯人達の事件簿)

私の努力が実を結び、いつしかティナちゃんは村中から愛される女の子になった。話しかければ老いも若きも男も女も、みんな頬を赤らめてハートを飛ばす。私(ティナちゃん)と所帯を持つ妄想を話したりする輩も現れはじめ、私はその結果に大満足であった。

ジーナというキャラクターだけは、好感度は一応満タンにしたが、私のアズマックスを狙っている空気を醸し出していたので、プレイ中は口汚く罵った。
アズマックスことアズマは将来ティナちゃんと結婚するのだ。私に軽率に恋バナなど語ってくるな。ええい、見よこのアズマの顔を、私にメロメロだろう!

私は次の音色埋めのため、家を増築しセカンドハウスを建て、プロポーズの準備に取りかかった。
いくらなんでも、好きな人と結婚するため崖をロッククライミングする意味はある? と思いつつも、私は家の増築も終え(たしか家をデカくしないと結婚して貰えない)、満を持してアズマックスに告白をしに行った。話しかける度に、頬を赤く染めハートを飛ばす、ティナちゃんにメロメロのアズマ。
アズマックスとの生活のために家も増築した、崖も登った。プロポーズに必要な青い羽も拾ってきた。
私は恐る恐るプロポーズして、アズマックスからの返事を待った。
以下、これがアズマックスからの返事である。

『えーと、これは 青い羽根ですねえ? プロポーズ…ですか? あははは、 おもしろいお嬢さんだ。 うーん…そうですね。 わかりました、お受けしましょう。』

?!

?!?!

?!?!?!?!


待て待て待て命がけで崖を登って家も増築した、女の子からの逆プロポーズが?!?!?!?!
何?!何?!何何何何何?!?!?!?!おもしろ、おもしろい?!?!?!?!あの笑顔は?!?赤らめた頬は?!?!?!?!
人の、人の命がけのプロポーズをなんだと思ってるんだ?!?!?!?!!!!

当時はオートセーブでは無かったので、その場でリセットボタンを押し、次の瞬間にはティナちゃんはハヤトと結婚していた。

ハヤトと見た花火は綺麗だった。

ハヤトとの結婚で無事音符が埋まった私は、次のコウノトリの音色、ハローベイビーの音色を埋めるべく、ハヤトと同じ屋根の下で暮らしつつ、資金稼ぎの為に鉱山に潜り続けていた。
ゲームのシステム上仕方ないが、身重の女性を冬の毒ガスが出る鉱山に潜らせる夫って人としてどうなんだ、と思いつつ、家畜にブラシをかけ鶏を抱き、餌を与え最高級卵やミルクを出荷し続けた。
魚図鑑も、出荷した野菜の内容も、好感度もレシピも家具も音色も全て埋めたい。
牧場生活に追われながら行き着いた私とティナちゃんには次第に疲れが溜まり、些細なことがきっかけでプレイヤーである私の心は折れた。

村の川で、目的の魚を釣るために釣りざおを振っていた私は、空きカンをつり上げる。
ゲーム内、公共の道などでポイ捨てをすると、ブーイング音と共に村中の人間から好感度(ハート)が一つ減るのだが、まさか釣りの最中釣れた空きカンもゴミカウントされると思わず、無意識にキャッチアンドリリースした私は、大顰蹙をかった。

血の気が引いた。

無の境地で釣りを続けていたので、いつからセーブしていないか覚えていない。今リセットすれば、ブーイングは無かったことに出来るが、埋めた魚図鑑は消える。
苦渋の決断の末、私はセーブした。次は村中の人間の好感度を戻すため、百本近く苗木を植えなければならない。
鉱山に潜り釣りをし家畜に餌やりレシピの為に半年近く食材を冷蔵庫に保管身重の体で駆けずり回り、次は自分のミスを取り返す為に、百本の植樹。
心が、折れた。私はコントローラーを投げ捨てた。
ちょうどその辺りから、ディスク側が悪いのか、メモリーカードがおかしいのか、プレイ中に不穏な音が度々していた牧場物語しあわせの詩は、空きカンポイ捨て事件から少し経ったある日、突然読み込みが不可能になった。

それが私の牧場物語の終幕である。

ゲームをプレイ中、今思えば、村中の好感度を満タンにする必要は無かったな、と何度か思ったことがある。

村中の住民から完璧に好かれる意味も理由も無い。八方美人に愛想を振り撒いて、最高の好感度の状態で、顔や性格の良いキャラクターを選んで結婚するというのもおかしい。第一印象や性格を見て、この人が素敵だなと思った人と結婚して、所帯を持ち、農作業をしながら赤ちゃんの誕生を待てば良かったのだ。

私は極度の効率厨でありながら、究極の回り道をしてしまっていた。

思えばこれは、私の人生そのものでもあった。
完璧になるまで駆けずり回らなくても、全員に好かれて大金持ちにならなくてもよかった。出来ること、楽しめることと平行して、牧場生活を、ひいては現実の生活をやっていけば良かったのだ。
ゲームが読み込めなくなってしばらくの後、私はギスギスした職場の、営業とも事務員とも仲良くなろうと努力していた。けれど結果的には疲弊し、さらに上司からは便利に使われ、無理な要求を言われ泣きながら仕事を辞めた。

架空の牧場生活で、ティナちゃんはとっくの昔に教えてくれていたのだ。
全員に好かれようとしながら、働きつつ生活するのってマジでキツいぞ、と。

それに気付くのに、私は随分回り道をしてしまった。

私は結局、安産体型と呼ばれたティナちゃんとハヤトの子供を見ることなく、牧場物語生活を終わらせている。あれから他の牧場物語をやろうと思っても、あのずんぐりむっくりした主人公でないと、どうにもやる気が起きないのだ。

移植もリメイクもされていないので、牧場物語製作陣の方々、良ければ移植して、そして次は同姓同士でも結婚出来るようにして、そしてティナちゃんとメリルを結婚させて欲しい。

牧場物語に、私は自分の人生を見た。

なにがしかの理由があってサポートをしていただけた暁には主な記事のサポートは生活費に、アイドルマスターのことを書いた記事がサポートされればアイマス費に、魚は水に、星は空に。