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いざ福山駅へ


飛行機は、無地、広島空港に着陸した。昼の便なのに全て満席で、コロナが嘘のような混みようだった。お腹が空いた敦たちは、空港から急いで福山や広島にバスで向かうことをせず、レストラン展望デッキのある3階に向かった。

フードコートに、広島風お好み焼の有名店、「元祖みっちゃん」があった。スペシャルを一つたのみ、瑠璃子とビールを二杯たのんだ。ちょっと小太りの元気のいい店員に、「広島は初めてだけど、ヤクザが怖い」と言うと、
「広島って、そう言うイメージなんだ」と悲しい顔になってしまい、「冗談は通じないんだよ」と瑠璃子に怒られてしまった。

広島風お好み焼きは、生地を丸くクレープ状に焼き、その上に、キャベツ、もやし、豚バラなどの基本の具材を重ねて焼き、その中に麺があるのが特徴。それに、おたふくソースをたっぷりつけて食べる。病みつきになるほど、美味しかった。
「尾道ラーメンにしなくて良かった。お好み焼き、超絶に美味しい。尾道でラーメンは食べよう」広島には行かないので、正解だった。

淳の冗談は、度が過ぎる。ニューヨークの空港で、ハーバード大学のトレーナーを着ていた時、おばあちゃんが、「あなた、ハーバードの出身なの?」と聞かれ、「ハーバードの卒業証書をカネで買った」とジョークのつもりで言ったら、悲しい顔を露骨にされ、おばさんを悲しませてしまった。その事を一緒にいた瑠璃子は、いつまでも覚えていて、厳しく注意をする。「あなたの冗談は、通用しない冗談なんだからね。人を傷つけるのはジョークでも、冗談でも無いのよ」といつも言われていた。

ところが、広島空港は、山の中にある。鉄道はなく、バスが唯一の交通手段だ。その頼みのバスは3時間後の出発だと初めてバス乗り場で知った敦は、時間潰しにデッキに出た。飛行機は一機も空港に駐機していない状態からだった。山の中は冷込み、人もいない。とてもデッキにいられなかった。仕方がないので、蕎麦屋でガンスと鰯の天ぷらのハイボールのほろ酔いセット2つ頼んだ。「ガンスは、さつま揚げのようなものです」と店員が言うように、ガンスは、魚肉練り物ですり身に唐辛子などを入れてフライにした広島のソウルフードだった。「そうがんす」とは、言わない。

単品でもハイボールを頼んだので、敦は酔っ払っていた。バス出発まで、お土産売り場で物色していると「生もみじ」を発見したので2個買って、味見をするなどバスが来るまで時間を潰した。

福山駅までバスで高速道路を使って1時間ほどで着く。福山駅に着いたのは、夕刻の4時過ぎだった。駅前の「福山ニューキャッスルホテル」に二泊する。ここを拠点に尾道、鞆の浦(とものうら)などの行く。二人は、ホテルの中でのんびり過ごすことにした。

ホテル内で一番安い和食屋「鞆の浦」があった。敦達にとっては、目玉がひっくり返るような値段だが、11000円の無料クーポンが付いていたので、それを使った。牡蠣フライ、牡蠣鍋、茶碗蒸し、お造り、ご飯、味噌汁の椀、青菜と薄だきの昆布などの漬物とふんだんにお膳いっぱいに並んだ。デザートは、みかんとチーズケーキを食べ終わって夕食を満喫した。もちろん、酒を飲んだ敦。酒も一杯目は、ホテルのクーポンサービスで日本酒と生ビールを頼んだ。お任せで配膳されたのは、広島の地酒「亀齢(きれい)」だった。グラスに注がれていた亀齢は、フルーティでワインのような飲み心地で敦は、もう1合追加した。「飲みやすい酒だよ。家に買って行こよ」と気に入った。
問題は、一万一千円あるクーポンアプリのやり方だった。店のマネージャーと妻の
瑠璃子にスマホの扱いを任せて、敦はトイレに駆け込んでしまった。トイレから戻ると笑顔の瑠璃子がいた。「六千円をクーポンで使って、五百円を現金で払ったの」とスマホ支払いにホッとしたようだった。
「後、五千円残っているけど、ブルーのポスターが貼ってあるお店で、モバイルにチェックが入っている店しか使えないの。紙だけにチェックが入っているところはダメなの」と教えてくれた。

「どちらにしても、スマホを使えないものね。スマホを持っていない私が、扱うのも変だけど」頼もしい瑠璃子のおかげで、ほぼタダで飲食ができた事に感謝した。
残りの五千円も残っている。このツアーは、年寄りには無理だと敦は思った。

デジタルデバイドとは、コンピュータやインターネットなどの情報技術(IT:Information Technology)を利用したり使いこなしたりできる人と、そうでない人の間に生じる、貧富や機会、社会的地位などの格差。 個人や集団の間に生じる格差と、地域間や国家間で生じる格差がある事いうとWikipediaに載っていた。

「やろうとしないのよ。やる気がないのよ」と瑠璃子は厳しい。
「やろうにもやれないのも事実だよ」
「言い訳しか言えない我々は、威張ることができるのは、猫や犬だけのようだ。」
「その犬猫にもバカにされている」大笑いしている瑠璃子がいた。

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