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バスを待つ君は


海老名駅西口は、最近こそ賑わっているが、ららぽーとができる前までは、田んぼであった。地面を固めるのに駐車場などがあったが、寂しい限りの田園であった。その西口から、コミュニティバスが出ている。狭い路地を走るバスなので、兎に角、14人も乗れば満杯だ。それでも満席になることはない。昼間などは、乗客が二人だけのこともある。郊外では、車社会だから、家に車が無い家はない。珍しく、敦の家は、車もバイクも自転車もない。そんな家は、海老名中探しも敦の家くらいだと思う。

上今泉コースは、かしわ台駅までルートで国分尼寺で降りる。ちょうど、満月の12月30日だったので、車窓から登り始めたばかりの大きな大きな月が、一瞬見ることが出来た。東の空に住宅の屋根に被されるように出たきた。「家に帰ったらじっくり見よう」と期待に胸膨らんでいたら、目の前の住宅に遮れて、全く見えなかった。地平から上がって来た真丸の月は、コンパスで描いたように半分の姿が見えた。写メで撮ろうにも一瞬の出来事だった。17時20分発のバスで、小田急線の電車基地に差しかかった時だった。殆どの乗客は気づかなかったようだった。敦のユックサックには、イオンで買ったイオンオリジナルのトップバリューの発泡酒とおつまみが6本入っていた。家に帰るとすぐに、息子と1本づつ飲む。一人3本がすぐに胃袋に消える。消費税を入れても六百円で、1本百円くらいだから、ペットボトル飲料より安い。しかも糖質50%オフでアルコール度数が4%と水代わりに飲んでいる。

満月の写真は、Facebookに大勢の人が投稿しているので、写メに撮る必要もない。しかも、一瞬観た月は、写真を見るより、迫力があった。「スターウヴォーズ」や「2001年宇宙の旅」の映画で見たようなレアな感じだった。写メの記録よりも頭の中の記憶を大事にしたいと思った。なかなかそんなことを思うこともなかったので驚いてしまった敦だった。

月といえば、1967年に女優の内藤洋子の「白馬のルンナ」と言う曲が50万枚の大ヒットとなった。敦は内藤洋子が『ルンナ月の浜辺のルンナ 』で歌い出す可愛い顔や声に衝撃を覚えた。雑誌「リボン」のモデルなどを経て、黒澤明監督の「あひげ」でデビューした彼女は、1970年代には、早々と結婚して引退した絶世の美女だった。あまりテレビなどに露出しないだけに、魅力的な女性像がいつまでも残っている。実は昔すぎて名前も忘れてが、「ルンナ」という名詞だけで、内藤洋子を探し当てた敦だった。

また、月に関しては、菅原都々子の「月がとっても青いから」が1955年に発表されて大ヒットした。敦はよく知らないから懐メロで聞いたことがあったので、詩が綺麗で抒情的だからおぼえていた。菅原都々子は、1951年に開催された第一回NHK紅白歌合戦の歌唱者第一号だそうだ。大晦日の夜、今も昔も歌謡曲に耳を傾けているのも面白いと笑った。

『月がとっても青いから
遠まわりして帰ろう
あの鈴懸(すずかけ)の並木路(なみきじ)は
想い出の小径(こみち)よ』
(清水みのる作詞)

「バスを待つ君が寂しそうで、僕は佇んで見てしまった。」と敦は即興で口ずさんだ寒い夜に、歌はみんなの心を暖めてくれる。消えかけた昔の思い出まで、運んできてくれる。「歌は世につれ世は歌につれ」上手いこと言ったもんだと敦は感心した。


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