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情緒か、テクニックか?

老いたる数学者の岡潔が、数学の根幹は情緒であると断言し、数学を志す若者に座禅を勧めたのに対して、のちに日本人で二人めのフィールズ賞を獲ることになる若き日の広中平祐は、座禅で問題は解けないと猛反発して、ひたすら数学的テクニックの習得に励んでいたという。

数学はさておいて、芸術の根幹が情緒であることは間違いない。

もちろん芸術的テクニックもないがしろにはできないが、まず最初に表現するに足る情緒があってこその自己表現だと想う。

岡は安定した情緒を数学的思考の理想としていたようだが、芸術においては不安定な情緒こそ原点であり、その意味で源泉なのである。

社会生活において情緒不安定はあまりありがたくない心理状態かもしれないが、芸術においては情緒不安定こそ欠かすことのできない心理状態であり、情緒安定など無用の長物、無能の証明と言ってもさしつかえないのではなかろうか。

芸術の道を歩む者は情緒不安定を神の祝福と受けとるべきなのである 笑

いずれにしても、芸術家はその出発点からして皮肉な宿命を背負っている不幸な生き物であることに変わりはない。

Illustration:© Nicolas Castell

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