書き出し自選・トニヲの5作品(トニヲ)
まだおじいちゃんが生きていた頃、なんとなく戦争に行っていた時の話を聞かせて欲しいとせがんだ事がある。
普段はなんとも緊張感の無い腑抜けた顔をしているおじいちゃんが突然神妙な顔つきになり、静かに語り始めた。
太平洋戦争中戦地に赴いたおじいちゃんはとても起立正しく緊張感のある生活をしていたそうです。
厳しい毎日でしたがおじいちゃんのいた部隊は本格的な戦闘もなく演習ばかりの日々に兵士たちの気が緩んでいたのか、ある日の夕食の時間に事件は起きました。
配膳係は配膳を終えると将校が来るまで埃除けと冷めないように新聞紙を飯の上にかけて待つのが日課で、その日いつもどおりに配膳係がさっと新聞紙をかけると大声を上げ固まりました。
おじいちゃんはどうしたことかと見に行くと、将校の飯の上に爪がばらまかれふりかけのようになってしまっていたそうです。
配膳係は顔面蒼白になりすぐに新しい食事を持ってこようとした時、運悪くいつもより早いタイミングで将校がきてしまい見つかってしまいました。
それを見た将校は激怒し配膳係と爪を切ったまま新聞の上に残した隊員は大目玉をくらい鉄拳制裁と三日間の飯抜きになってしまったそうです。
一連の事件を見ていたおじいちゃんは思いました。
絶対に切った爪は新聞紙に置かずにそのままゴミ箱へ捨てよう、爪は観察したり嗅ぎたくなるけどすぐに捨てようと。
切った爪はすぐにゴミ箱に捨てる!おじいちゃんからそんなアドバイスをもらった孫が選んだ書き出し自選です。
よろしくお願いします。
「猫の手も借りたいよ!」その声に反応した城下町の猫達が、一斉に天守閣を目指し大移動し始めた。
(5回 自由部門)
デビュー作です。全く採用されなくてどうしたものかと悩んでいた時、開き直って好きなものを好きなように書いてみようと思い、とりあえず猫が好きだから猫の出てくるやつを書いてみたら採用してもらえたのですごく嬉しかった記憶があります。
好きなものを好きと言える気持ち抱きしめたいですね。
ちなみに猫を飼っていると一年間に2、3回肛門を素手でうっかり触ってしまって指がうんち臭くなることありますよね。
ゴムでできた喧嘩神輿が激しくぶつかり合う、ぶつかった衝撃で男たちは跳ね飛ばされるが笑顔は崩さない。僕はこの村の優しい祭りが大好きだ。
(33回 自由部門)
格闘技さながら暴力的な男衆が暴れまくるお祭りがあまり好きではありません。
喧嘩祭り?いやいや、色々経て喧嘩ならまだしも、最初から喧嘩って言っちゃったらだめでしょ?怖すぎます。野蛮です。
でもお祭りの時の楽しい雰囲気は好きなので男衆のテンションを下げず怖くないお祭りにするにはどうしたらいいのだろう?と考えて思いついた結果が「ゴムでできた神輿担ぐしかないっしょ」でした。
まとまるくんくらいの柔らかめのゴムでできた神輿、これでぶつかり合ったらめちゃくちゃ笑えませんか?平和じゃないですか?今の時代に合ってませんか?
このバーボンに入っている丸氷、あきらかにさっきそこにいたチンパンジーが素手でこねくり回して作ったやつではないのか?
(24回 規定部門)
母親が学生の頃、動物園でアルバイトをしたことがあるらしくそこで働いている時に友達とふざけてチンパンジーに自分のジャンパーを着せてみたらめちゃくちゃ嬉しそうに手を叩いて喜んでいたので友達とゲラゲラ笑っていたそうなのですが、帰り際にそのジャンパーの臭いを嗅いだら信じられないくらいに臭くなっていて着れたものじゃなかったと言っていました。
天久さんのコメント「氷がサル臭い」はまさにその通りで、サルはかなり臭いのです。
釈迦はそっと目を瞑り、キャッチャーミットを右から左に動かすと、マウンドには沙羅双樹の花が咲き乱れた。
(39回 自由部門)
釈迦如来像のキャッチャー感、誰かにどうしても伝えたくて生み出した作品です。
リリーフカーの代わりに像に乗ってマウンドに向かう梵天様や、優勝したら甘茶をかけあうとかオリジナルストーリーを作るのが楽しいです。皆さんも是非オリジナルの宗教野球を考えて徳を積んでくださいね!
ゴリラがそっと手を開くと、手のひらからアマガエルがピンと飛んで青空を越えた。
(158回 規定部門)
ゴリラはかなりのパワーがあるにもかかわらず小動物など握りつぶさないようにふんわり握ることができるという優しい逸話がすごく好きだったので、自分の中のナショナルジオグラフィックな引き出しからなんとかひり出した作品です。
学生の頃、親戚のおじさんが何故かナショナルジオグラフィックの定期購読を申し込んでくれて毎月家に雑誌が届くようにしてくれていたのですが、当時は何故ナショナルジオグラフィックなんだ?現金の方が良かった。そんな思いの方が強かったです。
でも今となってはそのおかげでこうやって書き出しをひねり出すことができたので、おじさんには感謝してもしきれません。ありがとうコジマのおじさん!
さて、次の書き出し自選は「私の知っているあの町」「特攻服と柔軟剤」など文芸ヌーに素敵な文章を投稿されている葱山紫蘇子さんです!
どんな書き出しを選ぶのか?僕の好きな書き出し入ってるかな?トカレフおばあちゃんのやつ入ってるかな?ワクワクが止まらないっすよ!!
文芸ヌーは無料で読めるよ!でもお賽銭感覚でサポートしてくださると、地下ではたらくヌーたちが恩返しにあなたのしあわせを50秒間祈るよ。