書き出し自選・suzukishikaの5作品(suzukishika)

おぴんぴん!

suzukishikaです。お世話になっております。

人生のほぼ全期間を北海道で暮らしていますが、1年だけ上京したことがあります。そのとき北海道に恋人を置いていったという実体験を元に書いたコピーが数年前にことのほかバズりまして、今に至るまでなんとかコピーライターとして糊口を凌いでいる次第であります。
コピーライティングと文芸創作。言葉を使うという共通点はあるものの基本的には別の筋肉を使う別競技だと思っています。かたや、商品の売上増や社会的啓蒙などの目的がある広告。かたや、目的など必要としない自由な文芸。
ただ、広告には制約があるから面白くないかといえば必ずしもそんなことはなくて、制約があるからこそジャンプできるってことがありますよね。お題にどれだけ甘えられるかといいますか。で、これって、書き出し小説でいえば「規定部門」のことですよね。

つきたての餅に、砂がまぶされてゆく。
(第40回 規定部門「地獄」)

地獄って言わずに地獄を表現したい。地獄っぽいアイテムも出したくない。シンプルにそんなことを考えていた記憶があります。「できるだけ遠いところから入る」というセオリーに関しては、学生時代に読んだ平田オリザさんの著書にも影響されています。

昔々、お爺さんとお婆さんは、教師と生徒でした。
(第37回 規定部門「昔話」)

クリシェのもじりは、わかりやすさを保ちつつフックを作る常套手段。しかもこの作品はベタとベタの掛け合わせ。当時は意識していませんでしたが、コピー筋肉で書いた典型的な作品かもしれない。

ところで私は広告も好きですけど文芸も好きなんです。好きっていうか、どうしようもなく文芸に憧れる。制約のない空間を自力で飛ばなければいけない、その孤高のかっこよさに真似事でもいいからなんとか近づきたいと思ってしまう。
だから、自由部門で採用されたときは嬉しさが1.5倍ぐらいあります。


タトゥーは旧姓で入っていた。
(第95回 自由部門)

TOKUNAGAさんからほめてもらったのが嬉しかった。「『痕跡』は書き出し小説の基本パターンの1つ」というご指摘に膝を打った。


倒置法マンだ。俺は。
(第155回 自由部門)

意味と構造が不可分で、かつ短く、そしてアホっぽくできたので、最近の自作の中で好きなもののひとつ。この文体はおそらく反復に耐えられないので、書き出し小説でしか成立しない悲しきキャラクターなところも気に入っています。


最後は私の初投稿・初採用作品。代表作ということになるのでしょうか。


女の私が見ても溜息が出るほど、先輩はエロティックに王を扇ぐ。
(第5回)

まだ規定部門が存在しなかった頃なので今でいえば自由部門なのかもしれませんが、後に「特殊な仕事」くくりで評していただき合点がいったのでした。自由とはいっても、結局は制約が欲しくなってしまうたちなのかもしれない。
また、書き出し小説のトークイベントで妄想キャスティングしていただいたのもよい思い出です。

ああ、書き出し小説って面白いですね。私は書き出し小説を知って、広告も文芸も両方面白くなりました。感謝しかありません。みなさん、これからも豊かに遊びましょう。


以上、最初の代表作が超えられない人生だったsuzukishikaでした。
ご確認のほどよろしくお願いいたします。

https://twitter.com/suzukishika


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