書き出し自選・カズタカの5作品（カズタカ）

僕には姉が居ました。
五歳離れた姉は、小さい頃の僕から見たら畏怖の念を持って接する人であり、世の中のことを色々と教えてくれる存在でした。
姉は、音楽を教えてくれ、漫画を教えてくれ、VOWなどのカルチャーを教えてくれました。
それらが今の血肉になって、今の僕の作品の下地になっています。

そんな姉は、今も普通に元気です。
出だしを過去形にしてしまったので、少し不穏になりました。

・文章の出だしを過去形にしてしまったがために、皆が神妙な顔で話を聞いている。

これは投稿すらしてない、今思いついた書き出し

さてさて、こんにちは。カズタカと申します。
にかしどさんからバトンを受け取りまして、僭越ながら、書き出し自選を奉納させて頂きます。
バトンを受け取った直後の回で最終選考にすら残れないという失態を演じました。それくらいの人間です。
にかしどさんのように知的なものはなく、サンダル履きでもありませんが、ご査収ください。

海広いとはしゃぐ君。見上げた空が思ったより広くて、水を差すなよと呟いた。
（第241回　自由部門）

初採用作品です。投稿そのものは200回前後のあたりでチャレンジしていたのですが、箸にも棒にもかからず一度諦めています。
その後しばらく経ち、この楽しい場所に潜り込みたいと再チャレンジしてそれでもダメで。
もっと情景を描けかないと、と足掻いていた時にふっと降りてきた作品です。
あー、自分の中にこんなピュアな情景があったんだなぁ、と薄くなった頭髪の下で思った次第です。

『鴨のソテーのブルーベリーソースがけ 高身長ウエイターに眼鏡を添えて』
（第244回　規定部門 モチーフ『メガネ』）

お店に行って、メニューを見る時って興奮しますよね。（間違いないね。）
最初は注文する人のセリフにしようか、とか、サーブする側のセリフにしようか、とか考えたのですが、メニュー表一番上に書かれている料理も、ある意味書き出しだと思ってこの形にしました。まぁメインディッシュが一番上に来ることはないのですが。
こういった料理名がタイトルの短編集でも良いなぁとも。
メガネは付加価値を与えるもの。有ると無いとじゃ大違い。
♪メ～ガネッ！メガネッ！高収入～
背筋の伸びたウェイターが眼鏡かけている様式美をお召し上がり頂けたらと思います。

山下はナポリタンの皿を左手で持ち上げ顔の辺りまで持ってくると、そのケチャップの香りを一気に吸い込み、次いで、立ち食い蕎麦よろしく掻き込んだ。
（第248回　自由部門）

食べることが好きで、食べ物絡みの作品を多く投稿しています。
一度、ちゃんと美味しそうな文章を書こうと思って出来あがったナポリタンです。
悩んだのは人名。三人称も内容に適したものがあるだろうと、毎回悩むところです。
この山下は首が太くて、背もたれに寄りかからず座り、白ワイシャツで腕まくり。足を小さなテーブルの外に開いて座っています。
うちの会社だと木村くんのイメージ。けれどもここに出すべき名前は山下でした。

家に帰ってあの空き缶がまだそこにあったなら、別れを切り出そう。
（第253回　自由部門）

自分の温度に合った作品がこれになります。
妻がパートに出て、僕が休みという時、ギリギリまで怠けてそろそろ帰ってくるなという時に隠すように片付けをします。
大体片付け終わった後に、今朝すすいで水を切るために逆さにした空き缶がまだそこにありました。
他を全部片しても、この空き缶をゴミ箱に捨てないことには怒られる。
そういった事の積み重ねが・・・。
世の中は何かの積み重ねで、それは何かのきっかけで大きく動くと恐れて生きています。

サラダの森に隠れたって、すぐに君だと分かったよベス。
（第255回　規定部門 モチーフ『ベビースターラーメン』）

天久先生から「ベビースター愛が変態の域（笑）」とコメントを頂き、やっとおかしなものが作れたと嬉しかった作品です。
変態と呼ばれて喜ぶ日が来るとは思いませんでした。
姉の持っていた『ガラスの仮面』の若草物語を読んでいなかったら、ベスという名前に結びつかなかったと思います。

以上が5選です。
書き出しを考える時に思い浮かぶのは、海がある少し田舎で、満ちていなくて、他を気にしている。そんな情景です。あと食べ物。
小説よりも漫画を読んで育ってきました。難しい言葉は使えません。そんな中で、少し波が立つような作品が書ければと思っています。
今後とも少しお付き合い頂けますと幸いです。

次のバトンはタルク石さんにお渡しします。
タルク石さん、素敵な名前。どうやって生まれたの？という決して真似できない語感にいつも感心しています。
同じ市に住んでいて、書き出しきっかけで知り、今では髪を切って頂いています。
近くに書き出し小説家の方がいらっしゃるという心強さがありがたいです。
今回も甘えさせて貰っています。

それでは僕はここで失礼して、タルク石さんお願い致します！