書き出し自選・葱山紫蘇子の5作品(葱山紫蘇子)

 このたび、書き出しレジェンドのトニヲさんからご指名賜り、書かせていただきます、葱山紫蘇子です。

 今回書くにあたり、諸先輩方の自選をあらためて読み直してみると、トニヲさんはもちろん、どれもこれも「書き出し自選の書き出し文、おもろ!こっわ!えっぐ!」と、傑作揃いで恐れおののきました。あ、これは、考えすぎて書いては消し書いては消しして何にも書けなくなるパターンに陥ってしまう…と思い、打開すべく思うがままに書いてみたらどうにもこうにもおもしろくない感じだったので、やっぱり消して、もう本文に入りたいと思います。

 「サイコパス丼、へいお待ち。」俺は割ってない割り箸を2本使って丼を掻っ込んだ。

 (140回 規定部門「サイコパス」)

 初採用作品です。2018年の2月11日公開なので、4年前です。そのころ私はうだつの上がらない日々を送っていまして、いまも経済的にうだつは上がってないんですが、当時はいまよりもっと、家庭のことなどで思い悩むことが多く、悶々とした毎日でした。

 そんな時、私は書き出し小説に出会いました。

 (At that time, I came across a writing novel.)

 これなら私にもできる!なぜか、そう思ったんです。

 (I can do this too! For some reason, I thought so.)

 そしてなんと、ビギナーズラックで初投稿が初採用!

 (And how, the first post was adopted for the first time at Beginner's Luck!)

 そこから私の人生は書き出し小説のおかげで、バラ色に色づき始めました。

 (From there my life began to turn rosy, thanks to the writing novel.)

 この作品はそんな思い出がある、感慨深い作品です。

 (This work is a deeply emotional work with such memories.)

 書いてみたら胡散臭い文章になったので、英訳をつけてさらに胡散臭くしてみました。Google翻訳です。てきとうです。初採用のお題が「サイコパス」なのは中2病っぽくって嬉しいです。

  時下、ますますご生存のことと、お慶び申し上げます。

 (175回 自由部門)

 初投稿初採用で調子よく天狗になってたのですが、151回の採用後、長くスランプになりました。送っても送っても不採用が続き、また、プライベートでも、家庭の不和からの夜逃げならぬ昼逃げ決行、離婚調停、そして離婚成立へ(そして伝説へ、みたいに言うてみました)、などがあり、何も思い浮かばず投稿ができないこともありました。

 しかし、ごたごたが落ち着いて久々に投稿したら採用で、めっちゃ嬉しかったのを覚えています。天久先生からの「なんとオールマイティな挨拶文!」のコメントもめちゃんこハッピーでした。てへ。

 夕焼けは茜色の上に水色があってずるい。

 (179回 自由部門)

 書き出し小説採用のコツを語るなどおこがましいのですが、季節感があるものや、夕焼けのモチーフは採用されやすいように思ってます。この作品を送ったときは狙ってなかったのですが、これに味をしめて、夕焼けモチーフのものを頻繁に送るようになり、その後ふたつ採用されました。きれいな情景なのに考えることがゲスい。そんな自分を含めて、この作品が好きです。と、しておきます。夕焼けも普通に好きです。

 おばあちゃんは金を取り出すふりをして、腰掛けてた手押し車からトカレフを取り出し、受け子を正面から迷いなく撃った。

 (225回 規定部門「椅子」)

 皆さんは『BLACK LAGOON』(作・広江礼威)という、地球上で一番強くておっかない女たちがわんさか出てくる最高の漫画をご存じでしょうか。アニメ化もされていて、『この世界の片隅に』で有名な片渕須直(敬称略)が監督です。綿密な考証を重ねることで知られる片渕監督が、リアリティあふれるアクションと思わずうなる展開の大傑作に仕上げていて、こちらも最高の作品です。未見の方にはぜひご覧くださいませ。

 で、何が言いたいかというと、町を歩くかわいらしいおばあちゃんが実は『BLACK LAGOON』にでてきそうな猛者だったらいいのになあという、妄想を全開にして書きました。

 これと、

 「動き出すシベリア鉄道の座席で、すすり泣く女を3年間演じたことがある…」ある日の夕方、デイサービスから帰宅した曾祖母は玄関先で靴を脱ぐ間もなく突然に、その数奇な運命を語りだした。(226回 規定部門「大作感」)

 と合わせて、トニヲさんに「お婆ちゃんが突然系」と名付けてもらい、とても光栄に思っています。

 最後の自選。

 にじり口からゾンビが入ってきた。

 (221回 規定部門「風流」)

 この作品は

 鹿威しが鳴り、デスゲームがはじまった。

 と、ともに、221回のトリに、ふたつ並んで採用していただきました。

 話は変わりますが、実は、トニヲさんから自選のお声がけをいただく前にも、自選を書きませんかとお誘いを受けたことがありました。その時は「私なんかがまだまだでやんす…ケムンパスでやんす…」と思っていて、お断りしたんです。でも、この風流ゾンビの採用で、私の中の合格ラインを超えた感があり、今回、自選をうけたまわるに至りました。

 傍若無人なゾンビでも、にじり口からかがんで茶室に入る姿を思い浮かべると、愛おしさを感じてしまいます。そんな状況、絶対いややけど。

 というわけで、舞い上がって長々くどくど書いてしまいました。ここまで読んでくださった方、あなたはとてもいい人だ。心からお礼申し上げます。

 そして、元はと言えば、こんなおもしろい書き出し小説を発案してくださった天久先生にも感謝です。『バカドリル』を読んでガンダーラの振り付けを真似して友達と笑っていたあの頃からしたら、自分が天久作品の一部になったようで、夢みたいに思います。さらに元をただせば、デイリーポータルZというゆかいな読み物サイトを作られた林編集長にも感謝です。尚更にいうなれば、そもそも生命の起源、宇宙のはじまり、ビックバンに深謝です。ああ、生きるって、命って、なんてすばらしいんだろう。

 次回の自選は、オンライン飲み会友達の寂寥さんです。仕事のストレスで生まれた心の闇を書き出し小説で芸術へと昇華する、イカレ気分でRock’nRollな良き家庭人の寂寥さん、よろしくお願いいたします。どうぞお楽しみに!

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