書き出し自選・もんぜんの5作品(もんぜん)

こんにちは。書き出し小説の作家が自身のオススメ作品を紹介する「書き出し自選」。その第7回を担当するもんぜんです。岩手県出身です。みかんと海苔とルヴァンプレミアムと鳩サブレーが大好きです。たまに門前日和という名前で脚本を書いたりします。大学のころ貧乏すぎて、落ちている食べ物を探しに行ったことがあります。自分の髪の毛がどこかに売れないかと思って、本気で調べたことがあります。よろしくお願いします。


書き出し小説大賞とは、天久聖一さんを選者として、デイリーポータルZ(http://portal.nifty.com)でやっている小説の書き出しだけを考える企画です。わたしは第28回から投稿しています。


わたしの自選はこちらです。

露出狂がおもむろに鳩を出した。
(第44回・自由部門)

驚けばいいのか、怒ればいいのか、警察を呼ぶべきなのか、拍手するべきなのか、鳩を見るべきなのか、裸を見るべきなのか。

いろいろな解釈はできると思うのですが、イメージとしては、女子高生の前でロングコートを脱いだ露出狂が裸のまま鳩を出した感じです。どうやったの?って思う感じです。

「腹立つけど感動する」とか「嬉しいけどさみしい」とか、二つ以上の感情が同時に入り混じる状況というのが好きで、そんなシチュエーションを想像するとうへへとなります。この書き出しは、ネタ系ではありますが、それがうまく表現できたかなと思って気に入っています。ここから物語を展開させたいです。

おひたしの汁がこぼれているのか、私が泣いているのか、もう分からない。
(第61回・自由部門)

自作のなかの一番のお気に入りです。天久さんが「とりあえず箸を下ろして」とコメントしてくれたのも含めて好きです。

パニックです。涙とおひたしの汁が尋常じゃない量こぼれ落ちているため、とにかくテーブルはびちゃびちゃです。これ、泣いている人は、途中でびちゃびちゃなことに気がついて笑いだしちゃうと思うんですよね。みなさんは、泣きすぎて気がつくと顔がXJAPANみたいになっていて笑ったことありませんか? 涙でTシャツに卑猥な形のシミができていて笑ったことありませんか? そういうとき、見えない何かに慰められたような気持ちになると思うんです。そんな状況から物語が始まっても良いなと思いました。

ゾンビになった後輩の手をかじるとアボカドみたいな食感だった。
(第76回・規程部門・ゾンビ)

もしゾンビに襲われることがあったら、絶対に囓ってやろうと決めています。あいつら、自分が囓られる側になる可能性を想像したことがなさそうで、そういうの腹立つんですよ。

あと、あいつら、絶対にアボカドみたいな食感だと思うので、やはり、わさび醤油が合うんでしょうね。

ゾンビと齧りあった男の物語をいつか書いてみたいです。

若者は消え、私とマラカスだけが部屋に残った。
(第87回・自由部門)

とても悲しいです。せめてマラカスも持っていってほしいものです。カラオケ屋の備品なのでダメですけど。部屋に残された主人公は、このあと、いきつけのスナックへ移動して、ロンリーチャップリンを熱唱します。「なにかあった?」とママさんに聞かれて、苦笑いしたまま、デュエットをせがんだりします。アラフォー、アラフィフの悲喜こもごもです。

臼にLANケーブルがささっていた。
(第114回・規程部門・正月)

ちょっとした違和感というか、一度目に入ると気になってしょうがないものばかりが出てくる話を書いてみたくて考えました。

WiFi搭載じゃないところに、臼の奥ゆかしさを感じてください。

以上です。ありがとうございました。


次回は、名古屋の天才メガネ細マッチョ、ブルースの申し子、素潜り名人、パンダ博士のヘリコプターさんにお願いしたいと思います! 

よろしくお願いします!


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