書き出し自選・Yves Saint Lauにゃんの5作品(Yves Saint Lauにゃん)

こんばんは。Yves Saint Lauにゃんです。
この度はご縁がありまして南極行太郎さんから書き出し自選のバトンを受け取りました。私が書き出し小説に投稿していたのは2012年から2016年頃と少し昔の話になりますので、記憶を手繰り寄せながら自選を書いてみました。

では、早速。

『知らない女の脚を払いのけ、ラジオ体操へと急いだ。』
(第27回 規定「夏休み」)

当時の月間賞に選んで頂いた作品で「トレンディと童心の融合」というコメントを頂きました。自分が表現したかったものが伝わったと感じ、とても嬉しかったのを覚えています。朝、ホテルで目が覚めたら見知らぬ女が隣で寝ている。状況が飲み込めないまま時計を見るともうすぐラジオ体操がはじまる時間。脱ぎ散らかした服を慌てて着ながらラジオ体操のスタンプカードを探し出しホテルを飛び出た。これらの情報量を語り過ぎず、そして一文で表現し切る。当時はそういった試みにチャレンジしていたと記憶しており、この作品は自分の中で良くできた書き出しだと思っています。

『「お手柄サンタ、聖なる夜に大立ち回り!」古い新聞記事のスクラップに若い頃の父をみつけた。』
(第38回 規定「クリスマス」)

2013年当時、今でも常連作家のもんぜん氏が「門前日和」というブログを書かれていたのですが、そのブログの中でこの書き出しが大絶賛されていました。何故、もんぜん氏が良いと思ってくれたのかの理由まではブログに書かれていませんでしたので、どこが良いのかを自分でも考えてみた記憶があります。この作品は父の娘にあたる高校生が主人公となって、若い頃の父についてこっそり過去を調べはじめるという小説の書き出しをイメージして作ったものです。様々な解釈での「書き出し小説」がある中で、小説の冒頭として「ちょどいい塩梅」を書き出せてはいるのかな?などと思ったりしました。

ここから2つはイベントでの採用ものです。

『申し訳ありません。あなたにピッタリな本が先ほど売り切れました。』
(イベント『2015年 書き出し本屋大賞!!』 規定「本屋」)

イベント『2015年 書き出し本屋大賞!!』にてノミネートされた作品です。
本屋の店員であれば、ちょっと不思議な台詞であっても落ち着いた口調でさも当然のことのように言ってくれるだろうと想像し、書き出しを台詞にしようと考えました。台詞については読んだ人に「どういうこと??」と複数のはてなを頭に浮かび上がらせるようにできれば自然とその先の展開が気になってくるのではないかという仮説の元、できる限り不思議な台詞を考え、悩んだ末、これに決めたと記憶しています。このイベントの後の懇親会で大賞を獲った義ん母氏から「にゃんさんの作品と僕の階段の作品の店員はきっと同じ人ですね」と言われ、少しでも義ん母氏の不思議な世界観に近づけたのであれば光栄だなぁなんて思った記憶があります。
※義ん母氏の作品は『「27巻は27階にございます」店員が指したのは階段だった。』というものでした。おもしろいですよね。

『幸か不幸か、その噺は噺家より永く生き続けた。』
(イベント『書き出し小説』vs落語 規定「落語」)

イベント「『書き出し小説』vs落語」にてノミネートされた作品です。
落語の古典とは一体どういうものなのか?を頭の中でぐるぐると考えていたら、ガチャンとこの書き出しが降りてきました。「噺」を「曲」や「絵」に、「噺家」を「作曲家」や「画家」に置き換えてもらっても成立するフォーマットだと思います。作品は作り手の手を離れ、時を超えて生き続けていきます。このフォーマットのおもしろいポイントは、一見それっぽく聞こえるのに、実は当たり前のことを言っているだけであるという点で、そこに気づくまでがセットになっています。こういったテクニックに非常に長けていた人として思い出すのが、ショーンKさんです。幸か不幸か、彼の経歴詐称も永遠に語り継がれます。

『笑ってるけど、金玉袋は本当に大事なんだよ。』
(第100回 規定「結婚式」)

この作品は記念すべき第100回に採用されたものです。第100回発表の3日前、2016年6月9日(俗にいうロックの日)は友人である哲ロマ氏の入籍日でした。(哲ちゃん、改めておめでとう)もし私が哲ロマ氏の結婚式に招待され、友人代表としてスピーチをすることになったら、きっと金玉袋の話をするんだろうなと考えていたらこの作品が自然と舞い降りてきました。「みんなここ(金玉袋)から出てきたんやでぇ~!!」揺れるほど大ウケだった会場が一気に沈黙に包まれ、金玉袋が全人類の故郷である事実に気づいた人から涙しはじめるそんな光景を思い浮かべました。ザ・イエローモンキーの吉井和哉氏は「FOUR SEASONS」というアルバムを作った後のインタビューで「すべての子ども達には、どういった人物であれ父親はいる」と気づいた時に名曲「Father」という曲ができたそうです。自分もまったく同じ思いでこの作品を作ったような気がします。

以上となります。いかがでしたでしょうか。年のせいか思い出話が少し多かったかもしれません。申し訳ついでに最後にもう一つだけ思い出話をさせてください。

大学生の頃、ライブハウスで働いたことがありまして、そのライブハウスにEAST ENDというヒップホップグループが来たことがあります。 私はカウンターでお酒を作りながら観客席とステージを眺めていました。人もまばらで盛り上がりも中途半端な観客席からは『いつ「DA.YO.NE」を演るんだろうか?』という空気が充満していたのですが、結局、「DA.YO.NE」を演らないままライブは終了しました。EAST ENDといえば「DA.YO.NE」がぶっちぎり有名なはずなのになぜ「DA.YO.NE」を演らないのかが当時は理解できなかったのですが、今思うと、EAST ENDとしても、それ(DA.YO.NE)が来るだろうと予測されている中、それ(DA.YO.NE)を演るのはちょっと恥ずかしかったんじゃないのか?なんて思ったりしました。逆にいうとそれ(DA.YO.NE)が来ると予測されている中、それ(DA.YO.NE)をやるのはカッコいいこととも言えます。

次の自選は、今、個人的にも最も注目している「みよおぶさん」をご指名させていただきます。このバトンを受けていただけない場合、最高裁まで徹底的に争うつもりでいますので覚悟をしておいてください。

それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。

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