書き出し自選・ぐるりんの5作品(ぐるりん)

「パパ!」
「お父さん!」
「親父!」
「父ちゃん!」
「父上!」
一斉に声を掛けられ私は狼狽する。
「あなたの子よ」
そう告げられ書類が突き付けられても、私には実感が湧かない。
心当たりはある。しかし記憶にない。
酷い人間だと思うだろうが、私は自分の子を基本的に覚えていない。
「これはDNA検査の結果よ」
女性を想定したセリフは「〜よ」って言わせがちだよなぁと、私はまだ他人事のようにその声を聞いていた。

唐揚げがこちらにむかっていると言う事実だけ伝え無線は途絶えた。
(第129回 規定部門「唐揚げ」)

第一子、X-ファイル遺伝子99%一致。
天久先生に【Xファイル的なカラアゲ】と評をいただいた時は驚いた。何故なら私は『X-ファイル』の大ファンだからだ。DVDを全シーズン持っている。
エスパー。そんな単語が頭に浮かぶ。天久先生はエスパーなのか? そうに違いない。きっと書き出し小説の一文を見ただけで投稿者の全てを見透かしてしまうのだ。天久先生のエッチ!
恐ろしさに震えつつ私はこの作品を我が子と認知するしかなかった。
ちなみに私はこの回で【唐揚げマスター】の称号をいただいている。


高橋は達人より名人を選んだ。
(第152回 規定部門「達人」)

第二子、安直連想遺伝子99%一致。
規定部門でしばしば私はベタな連想から作品を創作する。殺し屋と言えばサイレンサーだし、アートと言えば引っ越しだ。そんな愚直な連想も何かを生み出す事がある。
この作品も達人から名人、名人から高橋名人を連想しただけだ。が、私は本当にこの作品を忘れていて、自分の作品を自分で読んで初めて笑ってしまった。こんなの書いたっけ? そして本家と元祖があった時はどちらのお店を選ぶべきなのだろうか? 悩みつつ私は認知した。


来た道を戻る時、僕はいつも一人だ。
(第239回 自由部門)

第三子、カッコイイ事言いたい遺伝子99%一致。
私だって文学的な詩的な書き出しをしてみたい。そう思って書き出すと大体が落選する。それでもカッコイイ事を言おうとしてしまう。私の子と認知せざるを得ない。
この書き出しは人生の比喩ともサスペンスとも捉えられるように書いたような気がする。


弾丸を抜け三人で無事に迎えられた朝、僕の隣で君と友人が結ばれた。
(第256回 規定部門「朝」)

第四子、ストーリー仕立て遺伝子99%一致。
人生で一番朝日が眩しかったに違いない。
瓦礫に背を預ける僕の隣で熱いキッスが交わされる。
キスではない。キッスだ。
よくそんな体力が残っているなぁ。
僕の存在を忘れないでね。
切なくなったので認知!


チヨコレイト、パイナツプル、長く長く続く階段の途中。
(第263回 規定部門「スリーワード」)

第五子、表記工夫遺伝子99%一致。
【チョコレート】ではなく【チヨコレイト】、【パイナップル】ではなく【パイナツプル】である。
この遊びは心理戦だ。チョキとパーは6、グーだけ3進む。より進みたければチョキとパーの二択だが、そうなるとチョキしかない。みんながチョキを出したがるならばグーにチャンスが回ってくる。偏見だがグーだけで勝ち進む奴はド変態だ。
私達は皆まだ長く長く続く階段の途中にいる。
心理戦に疲れたので認知しておく。


申し遅れました、私はぐるりん。
今回の書き出し自選担当者であり、我が子である作品の認知を迫られた者です。

私は自分の書き出しをあまり覚えていません。
それは締め切りギリギリに思い付きで書く為であり、私の記憶力が絶望的に悪い為であり、印象に残るような書き出しを書けていない為です。
覚えていない、納得出来る作品を書けていない、だから書き出し自選を断り続けていました。これまで声を掛けて下さった方、大変申し訳ありませんでした。

では何故、今回自選を書くに至ったのか?

【根負け】

私はたぶん人生で初めて根負けしました。
書き出し小説を私に教えてくれた恩人ろっさん。感謝感謝の大感謝祭です。ですが……書き出し自選を書け書けとのプレッシャーがエグい! 物凄くエグい!
書き出し小説を書くきっかけ、ろっさん。
書き出し自選を書くきっかけ、ろっさん。
この自選がダダ滑りしていたら責任を取っていただきたい! 何らかの認知をしていただきたい!

長々書きましたが、未熟ながらも私の遺伝子が刻み込まれた作品達、それを改めて読み返す行為はとても楽しいものでした。この機会には感謝感謝の大感謝祭です。

読んで下さった方、文芸ヌー様、天久様、そしてろっさん、ありがとうございます。感謝感謝の以下略

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