書き出し自選・にかしどの5作品(にかしど)

【ご挨拶とさせていただく】
にか(以下、にか)「にかです」
しど(以下、しど)「しどです」
しど「2文字ずつ合わせて。せーーの!」
にかしど(以下、にかしど)「にかしどです!午前0時さんからのバトン、大変光栄に思います!」

ありがたくいただいた伝統的な書き出し小説のバトン、精一杯繋がせていただきます。


【書き出し自選】

 僕は、他の作家さんに比べて、文学に造詣が深いわけでも、こころの機微を言語化する能力が秀でているわけでもなく、景色を美しく濾過する網膜も持ち合わせてはいない。ただ僕は、地上から少しだけ浮いているような、非現実的でナンセンスな世界を思い描くことが好きで、「なんか、こんなの面白くないか?」とそれを押し付ける欲があるだけだ。


酔っ払ったフリをしながら確実に有利な方へ村の境界線を引いてゆく。

(第205回 自由部門)

 僕は、カラオケでしばしば場を盛り上げるために、戦略的に、さらに計画的に、狂い踊る。携帯を踏まない位置にそっと置きながら、ドリンクの入ったグラスを溢さないよう、振った頭を壁にぶつけてしまわないよう、廊下を通る誰かに見られてしまわないか恐れながら、狂い踊る。この男は、狂い踊っている最中に、「最近、巻き爪気味なんだけど、」と相談されても、自分の中の最適解を真剣に提示できるくらいには理性的だ。
 本作では、酔っておぼつかない様と、利益を見据えた真っ直ぐな目的意識を織り交ぜようと、流れるように敢えて句読点で区切らず、書き上げた。


「おしぼり」からしたら「おしぼられ」である。

(第173回 自由部門)

本作は、書き出し小説初投稿、初採用で、少しだけ思い入れが深い。採用時、書き出し小説ありがとう、と思った。なんて包容力があるんだと。本作は、学生時代に、誰かに伝えることもなく、人知れず、隅の方でなんとなく書き溜めていた言葉のひとつで、書き出し小説との出会いは、居場所を見つられたこととほとんど同義だった。

「おしぼり」は、今日も確実に「おしぼられ」ていて、「おつまみ」は、今日も確実に「おつままれ」ている。

すこしだけ、思い出したことがある。
「帰ったら、髪の毛を洗ってあげてくださいね!」先ほどまで、仲良く会話をしていた美容師さんに言われた。洗われるのは、「僕の髪の毛」であり、洗う(洗ってあげる)主体は、言うまでもなく「僕」である。整理しましょう!「僕の髪の毛」を洗ってあげる!!美容師さんは、「僕」を介して、「僕の髪の毛」へ礼儀を尽くしている(敬意を払っている)。あれだけ、仲良く会話していたのに、なんなら僕は、所属大学や研究内容まで、結構教えてもあげた。結局、僕を髪の毛としか見ていないのか、と落ち込む。
「痒い所ありますか」
「結構、ある方です」


牧場で曲がり角を見つけた。

(第207回 自由部門)

 僕は、「牧場」の対義語は、「曲がり角」だと思っている。絶対に、そうだ。
 ありがたいことに本作に加え、「曲がり角」をモチーフとして(自分の中で、勝手に「曲がり角」で創作しているだけだが)、4作採用させていただいている。僕は、曲がり角が好きだ。「曲がり角」の向こうに、何が待ち受けているのかという期待感や、時には反対に、曲がるまでそこに何が待ち受けているのかわからないという不安感を抱くことがある。曲がり角は、異文化への入り口にさえなる。
 書き出し小説第191回の自由部門で「曲がり角からフラッシュモブと思しき影たちが見えている。」という作品の採用をいただき、さらに天久先生から「お互い、緊張してたのだろうな」とコメントをいただけて大変ありがたかった。


右の翼が少し短い気がするが、構わん行ってくれ。

(第175回 自由部門)

 便意がすべての優先事項を淘汰していくように、焦りは人間の判断能力をきわめて鈍し、周囲を盲目にさせる。多分、右の翼も冷静に見たら、少しどころか、だいぶ長さに差があるだろうよ。なぜ、「構わん」のか。そして、この焦っている奴は、あくまで乗員であり、このアンバランスな翼をもつ飛行体を操ろうとする奴がいる。このナンセンスな状況を作り出せて僕はうれしい。


退屈なあまり、蟹の内輪差を計算している。

(第189回 規定部門:STAY HOME)
 
 蟹係数が、分かれば確実に解けた。


【上手いこと文章を締めくくろうと試みる】
 今回こうして、憧れであった書き出し小説の自選のバトンを継がせていただけることを大変光栄に思います。まさか、自分が?でした。
「おーーーい、書き出し始めた数年前の僕ーーー!君は、今、納得のいく素敵な書き出し小説を創り、素敵な書き出し作家さんたちとも出会い、書き出し自選を任せてもらえてるぞーー! そして、、(なんかいい感じの締めの言葉を考えておく(保留))」

【自選のバトンパス】
 次の自選は、「カズタカ」さんにお願いしたいとと思います。カズタカさんとは、以前、同じく書き出し小説作家のモンゴノグノムさんを交え、一度だけ楽しく飲ませていただいたことがありました。
 当時、いい感じに酔われてきたカズタカさんが、トイレの帰り道、足取りがおぼつかなく、よろけてしまわれたときに、日本人離れしたリズム感で、小粋なステップを数発タタンッタンタンッと打たれ、その時の衝撃は、今でも鮮明に覚えております。
 僕が、「そのステップは、北欧民族から、習われたんですか?」とお尋ねしても、カズタカさんは、弱く笑うだけでした。
 カズタカさんの独特なワードチョイスや視点から織りなされる作品の自選楽しみにしています。

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