『報告書』 (正夢の3人目)

舞台中央に将校姿のA、横に軍服姿のB。
A「諸君!よく聞きたまえ。このたび我が帝国ではより良い兵士の育成のため感受性を鍛えることが議会で決定された。諸君らはその感受性を鍛える訓練の最初の体験者となる。誇りに思いたまえ!」
B「アイム プラウド!」
A「今回鍛える感受性は「笑い」に関するものだ。今から私とこの男で諸君ら笑わせるための寸劇を行う。この行為の名前を、えー、なんだ?」
B「コントです。」
A「コントと言う!今から披露するのは我が帝国の名誉ある学者たちによる研究の成果である。なに1つ漏らす事なく最後まで見届ける事を諸君らに厳命する。では、アレを持ってこい。」
B「はい!」
A「ふむ。この紙の束をまとめたものが、コントでは必要となるのだ。これの名を、えー、なんだ?」
B「ハリセンです。」
A「ハリセンと言う!今から私がこのハリセンでこの男を殴打する。なので諸君らはそれを見て大いに笑いたまえ。では、ゆくぞ!」
B「はい!お願いします!」
スパーン!
B「ぐはっ!ありがとうございます!」
A「うむ。ん?どうした?何故笑わないのだ。笑っていないよな?」
B「そのようです。」
A「何故だ!余所見でもしていたのか?再度披露するから、よく見ておくように!」
スパーン!スパーン!スパーン!
B「ぐはっ!ぐはっ!ぐはっ!」
A「むぅぅ…何故笑わんのだ!?貴様らそれでも軍人かっ!」
B「将校殿。意見具申よろしいでしょうか?」
A「うむ。言ってみよ。」
B「はっ。このハリセンというものは「突っ込み」に使われる道具と思われます。」
A「つっこみ…?」
B「はっ。まず「フリ」と呼ばれる面白い現象への前振りがありまして、それに対して「ボケ」と呼ばれる面白い現象が発生します。それに対して「突っ込み」が起こる訳です。その際に使用されるのがこのハリセンかと。」
A「何を言っているのかサッパリだ!」
B「ええと、つまりこのハリセンで殴打するだけでは「笑い」は産まれないという事です。」
A「何を?貴様、それは我が帝国の学者たちの研究が間違っていたと言いたいのか?」
B「いえ、そうではありません。まずやってみましょう。将校殿。フリをお願いいたします。」
A「ふり…?」
B「何か面白い事が起こるきっかけとなる行為です。将校殿の発言により面白い事が発生するよう仕向けるのです。」
A「ふむ。なるほど……おい、貴様! 面白い事をしろ!」
B「…はっ!」
B、面白い動きをする。
A「うむ。ではゆくぞ!」
スパーン!
B「ぐはっ!」
A「…こういう事か?」
B「恐らくは。」
A「ふむ。だが笑っていないぞ?」
B「これはまだ「小ボケ」の段階だからだと思われます。恐らく「オチ」に向かえばまた変わるかと。」
A「なるほど。諸君、よく聞きたまえ。コントには「オチ」というものが存在する。寸劇の最後の部分にあたるものだ。この「オチ」を発動すれば、諸君らは大きな笑いを得る事ができる。そうだな?」
B「はい、その通りです。」
A「うむ。ではいくぞ。「オチ」を開始する!」
A、懐から取り出したボタンを押す。
まず客席の椅子の肘掛部分に鉄の輪が出現し逃げられないように両手を抑える。その後、椅子の下から先端に注射器のついた鉄製のチューブが伸び、観客の首から「液体α」を注入する。30秒~1分程で快楽物質を脳に伝播し笑いが起こる。
A「…ふむ。よく笑っているようだ。「オチ」の効果は覿面だな。」
B「そのようです。」
客席は爆笑に包まれた。今後改良の余地はあるだろうが(1人笑いが止まらなくなった者がいた為。薬物の分量に関しては再度調整が必須)だが、初めてにしては今回のコントは成功だったといえるだろう。以上、報告を終わる。

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