書き出し自選・大伴の5作品 パート2(大伴)


大伴と申します。
「書き出し自選」まさかの2度目のチャンスをいただき、本当に助かります。

自分は第3回〜第159回までとそこそこ長く参加していましたが、もはやけっこうなブランクがあります。自分の過去の作品を見返すこともなかったので、今回は逆にちょうどいい距離感といいますか、常温と化したジェル保冷剤の小袋のような目で眺めて、シンプルに「好きですね」と感じた作品を選ばせていただきました。(前回の自選を書かせていただいたタイミング以降から選んでおります)
それでは、どうぞよろしくお願いいたします。


サソリだけ先に届いて、入れ物がない。
(第93回 自由部門)

ネットショッピングではよくありますね。枕がまだ届かないのに枕カバーだけ届くみたいな。
家で飼育をはじめようとしているのか、バラエティ番組の小道具みたいなものなのか。むきだしのサソリだけ渡された人のどうしようもない挙動や、取り急ぎコンビニうどんの容器とかに入れられるサソリを想像すると、おかしいです。
「もうすでにおもしろみを孕んじゃってるワード」というのは確かにあると考えてまして、「サソリ」は当てはまると思います。そういうワードに頼るのはとりわけ書き出し小説においてはレベルの低いテクだとわかってはいたものの、パッと見の刺激がある文章じゃないと他の作家さんには勝てなかったので、悪魔に魂を売ってやっていた記憶があります。のちに「サソリ定食が冷めていく。(第128回 自由部門)」という作品も書いているのですが、もう悪魔の下僕みたいな感じです。


川の段差で、桃が回っている。
(第103回 自由部門)

桃太郎ネタです。
川沿いを散歩していると、流れが一段下がるところで回転しつづけているゴムボールを見かけます。しばらく眺めていても一向に水流から抜け出せず、翌日になっても同じ場所にあったりして、このまま永久にあるのではないかとワクワクしますが、ある日いきなり消えていたりします。降雨による水位の変化で開放されるのではないかとにらんでいます。
この作品は、はじまる前から終わってるというか、虚しさしかないのがいいなあと思いました。
桃太郎がもし『かまいたちの夜』みたいなゲームだったら、最初にゲームオーバーになるバッドエンドがこれかもしれません。


網戸ごしに、地球が見えた。
(第123回 規定部門「網戸」)

テーマが「網戸」だったので、逆に「いちばん網戸がいらなそうな窓」ってどこかしら?と考えた結果、スペースシャトルのあの丸っこい窓を思いつきました。
「暑くね?」とか言って窓開けないだろうし、開けたところで虫入ってこないだろうし。
仮にシャトルの窓に網戸がハメられていたとしたら、視界に広がる「地球は青かった」みたいな感動のスペクタクル映像が網戸のせいで薄汚くなって、全人類が舌打ちしそうです。


ギャルがジュラ紀にワープした。
(第148回 自由部門)

「最高傑作が書けた」と心が震えた作品です。これだったんだ、と。自分が求めていたものがすべてある。この作品を書けた達成感がすごかったので自分の中になにかの終止符が打たれた感覚があり、ここから徐々に書き出すのが苦しくなっていきました。


0:00。
(第89回 規定部門「お正月」) 

年が切りかわった瞬間、寺の映像とともにテレビ左上に表示されるあの数字の絶対的な存在感。
作者は「りょうすけ」という名前ですが、これは僕です。この頃は書き出し小説が好きすぎてノイローゼぎみになっていて「これは大伴という名前で送ったら採用されないような気がする!」みたいな意味不明な予感すら働いており、結果として別名で投稿しました。第27回の規定部門「夏休み」でTOKUNAGAさんが「秋も休む。」というものすごくミニマルな作品を投稿されているのですが、これを超えるミニマル作品を書いてやろうとずっと頑張っておりました。けっきょく3文字以下の作品は自分には書けなかったのですが、数字だけ用いて書き出せたという面ではなにかしらオンリーワンな爪痕を残せたのではないかと考えております。


以上です。本当にどうもありがとうございました。

次回は、ドライアイスのような作風が魅力的な、くのゐちさんにバトンを渡させていただきます。

それでは失礼いたします。


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